第68話「名前を呼ぶ距離」
いつもお読みいただきありがとうございます!
皆さまの応援のおかげで、ランキングに掲載していただくことができました!
少しずつ順位も上がっており、本当に嬉しく思っています。
毎日のPVやブックマーク、評価のひとつひとつが、続きを書く大きな励みになっています。
本当にありがとうございます!
ルークと魔物たちの物語は、まだまだここからです。
今回も楽しんでいただけたら嬉しいです!
砂嵐を抜けてから、サンドスネークの位置は変わった。
もう最後尾ではない。レイより少し後ろ、ルークから見れば斜め前を、小さな身体が砂を縫うように進んでいる。
近づけば逃げる癖は残っていた。
けれど、ルークたちが止まっても遠くへ離れない。
「そこ歩くんだね」
声をかけると、小さな頭だけがこちらを向いた。
返事はない。
それでも以前のように岩陰へ消えることもなかった。
「なんか不思議だな」
「何がだ」
「昨日まで、ずっと後ろだったから」
レイはサンドスネークを一瞥した。
「自分で決めたんだろ」
「……うん」
岩窟に残ることもできた。
あそこには砂嵐を防げる場所があった。
地下には僅かな水もある。
それでも。
この蛇は出てきた。
そして今。
同じ方向へ進んでいる。
昼前には、小さな宿場が見えてきた。
石と土を混ぜて造られた低い建物が十数軒。中央には深い井戸があり、その周りだけ日除け用の大きな布が張られている。
「今日はここで水を補給しよう」
「賛成だ」
さすがのレイも日差しには少し疲れているらしい。
ソラが先に降りてくる。
イズナは人の気配が増えたことで、自然とルークの近くへ寄った。
プルだけは井戸を見た瞬間、大きく跳ねた。
「ぷるっ!」
「分かったから。走らない」
もう一度跳ねる。
全く分かっていない。
ルークは笑いながら宿場へ向かった。
入口には簡単な柵があり、一人の男が座っていた。
剣を腰に差しているが、兵士というより街道の見張りらしい。
男がルークを見る。
次に。
レイ。
プル。
イズナ。
肩へ降りたソラ。
そこで終わらなかった。
「おい」
「はい?」
男がルークの足元を指した。
「もう一匹いるぞ」
振り返る。
サンドスネーク。
普通にいる。
「……いますね」
「いますね、じゃねえよ」
男が立ち上がる。
「契約してるのか?」
「してません」
即答した。
男の顔が引きつる。
「じゃあ野生じゃねえか!」
「あ、はい」
「はいじゃない!」
声が大きくなった瞬間。
サンドスネークが身体を縮める。
少しだけルークから離れる。
「すみません。大声はちょっと」
「俺が悪いのか!?」
「蛇がびっくりするので」
「野生の蛇だろ!」
後ろでレイがため息をついた。
「話が進まんぞ」
「分かってるよ」
見張りの男がレイを見る。
「今、狼が喋ったよな?」
「そこから?」
余計に話が長くなりそうだった。
結局。
宿場の中へ野生の魔物を連れて入れるわけにはいかなかった。
当然だった。
サンドスネークは今のところ、ルークの仲間ではない。
共生契約もない。
誰かを襲わない保証を、ルークが勝手にすることもできない。
「じゃあ、ここで待っててもらうしかないか」
入口から少し離れた岩陰。
サンドスネークはこちらを見ている。
「僕たち、水を汲んだら戻ってくるから」
通じているかは分からない。
それでも言った。
乾燥肉を一切れ置こうとして。
ルークは手を止めた。
「……これは戻ってきてからにしよう」
「なぜだ」
レイが聞く。
「待ってたご褒美みたいになるから」
「面倒なことを考えるな」
「でも、餌があるから待つのと、自分で待つのは違うでしょ」
レイは少しだけサンドスネークを見る。
「好きにしろ」
ルークたちは宿場へ入った。
井戸の水は冷たかった。
プルは水を入れた桶へ触手を伸ばし、ルークに止められる。
「それ飲み水だから!」
「ぷる?」
「君用じゃない」
「ぷる……」
見るからに落ち込む。
仕方なく、別の小さな桶へ水を少し移す。
そこへプルが身体の一部を入れた。
「ぷるる……」
「結局こうなるんだよね」
ソラも桶の縁へ降り、水を飲む。
レイにも出す。
イズナは少し離れていたが、ルークが器を置いて下がると近づいた。
もう旅の水分補給にも、それぞれのやり方ができている。
「五匹分になると、水も増えるな」
宿場の主人らしい老人が言った。
「四匹です」
ルークが答える。
「ん?」
「僕の仲間は、今は四匹です」
外を見る。
柵の向こう。
岩陰はここから見えない。
サンドスネークは。
まだ。
仲間ではない。
食料も少し買い足した。
乾燥地帯では肉より、硬く焼いた穀物餅の方が保存しやすいらしい。砂避け用の布も一枚追加した。
「蛇用か?」
老人に聞かれた。
「違います」
「さっき外にいたぞ」
「見えてたんですか?」
「ここは何もねえからな。小さいのでもよく見える」
ルークは少し気になった。
「この辺、サンドスネークって多いんですか?」
「多いぞ。弱いから数も減りやすいがな」
「弱い?」
「鳥に食われる。獣に食われる。大きい蛇にも食われる」
予想通りだった。
Lv2。
小さな身体。
強い攻撃手段もない。
「ただな」
老人が水差しを置く。
「あいつら、砂の下の水を探すのは上手い」
ルークは顔を上げた。
「やっぱり?」
「砂に潜る魔物は地面の変化に敏感だ。特にサンドスネークは、自分で獲物を倒すより、逃げて生き残る方が得意だからな」
逃げる。
隠れる。
水を探す。
危険を先に察知する。
それが。
あの蛇の生き方。
「弱いなりに、ちゃんと生きる方法があるんですね」
老人が笑った。
「弱いから覚えることもあるさ」
ルークはその言葉を覚えておこうと思った。
宿場を出た。
真っ先に岩陰を見る。
いない。
「あれ?」
ルークは周囲を見回した。
砂。
岩。
低い灌木。
「レイ」
「近くにはいる」
「どこ?」
「知らん」
「匂いで分からない?」
「砂に潜られたら薄い」
胸の奥が少しだけ沈む。
でも。
仕方ない。
待てと言った。
ただ、それに従う義務はない。
サンドスネークは自由だ。
「行ったなら、それで――」
砂が動いた。
ルークのすぐ横。
小さな頭が。
ぴょこりと出る。
「いた!」
サンドスネークが身体を砂から抜く。
そのまま。
何事もなかったようにルークの前を通り過ぎる。
「待ってたんだ」
蛇が止まる。
こちらを見る。
「……たぶん」
レイが言った。
「そこは断言してくれてもいいんじゃない?」
「俺は蛇じゃない」
最近そればかりだ。
宿場から少し離れたところで、ルークは休憩した。
サンドスネークも。
今日は三歩ほど先にいる。
「ずっとサンドスネークって呼ぶのも変かな」
レイが目を開く。
「好きに呼べばいい」
「名前つけてもいいと思う?」
「俺に聞くな」
もっともだった。
ルークは蛇を見る。
「名前、あった方が呼びやすいんだけど」
小さな黒い目がこちらを向く。
「嫌だったら離れてね」
反応はない。
ルークは少し考えた。
蛇らしい。
乾いた土地にも合う。
今は小さい。
でも。
もしこれからも一緒に進むなら。
成長しても呼べる名前がいい。
「サーヴァ」
蛇の頭が。
僅かに傾いた。
「どう?」
動かない。
「サーヴァ」
もう一度。
今度は。
こちらへ一歩。
いや。
蛇だから一歩ではない。
身体一つ分。
近づいた。
ルークは目を丸くする。
「気に入った?」
確かめる方法はない。
それでも。
離れなかった。
「じゃあ、嫌になるまではそう呼ぶね」
「適当だな」
「勝手に決めるよりいいでしょ」
「名付けた時点で勝手だ」
「……確かに」
ルークは笑った。
サンドスネーク。
Lv2。
潜砂Lv1。
咬撃Lv1。
特別な血統でも。
珍しい魔物でもない。
小さくて。
弱くて。
この土地では食べられる側。
でも。
水を見つけた。
危険を教えた。
砂嵐から守ってくれた。
そして。
自分で。
一緒に進む道を選んだ。
「よろしく、サーヴァ」
蛇は何も言わない。
ただ。
再び南を向いた。
午後。
一行は街道を進む。
先頭にレイ。
上空にソラ。
街道の端をイズナ。
ルークの隣にプル。
そして。
その少し前を。
サーヴァが進む。
まだ契約はない。
触れられない。
ルークの言うことを聞くわけでもない。
それでも。
名前を呼べば。
小さな頭が。
時々。
こちらを向くようになった。
最後までお読みいただきありがとうございます!
ランキングをきっかけに、この作品を見つけてくださった方も増えてきました。
本当にありがとうございます!
「続きも読みたい」と思っていただけましたら、ブックマーク・評価で応援していただけると、とても励みになります。
次回もよろしくお願いします!




