第63話「小さな追跡者」
いつもお読みいただきありがとうございます!
皆さまの応援のおかげで、ランキングに掲載していただくことができました!
少しずつ順位も上がっており、本当に嬉しく思っています。
毎日のPVやブックマーク、評価のひとつひとつが、続きを書く大きな励みになっています。
本当にありがとうございます!
ルークと魔物たちの物語は、まだまだここからです。
今回も楽しんでいただけたら嬉しいです!
宿場町を出てから一時間ほど。
ルークは三度目にして、ようやく確信した。
「……やっぱり、ついてきてる」
街道脇へ目を向ける。
乾いた土。
低い草。
ところどころに転がる赤茶色の岩。
その一つの陰から、小さな頭が引っ込んだ。
昨夕、宿場町の手前で見かけた蛇だった。
「気づくのが遅い」
レイは前を向いたまま言った。
「知ってたの?」
「朝からいる」
「言ってよ」
「害はない」
それで終わりらしい。
ソラも上空から何度か見つけていたようで、ルークが見上げると小さく鳴いた。
イズナに至っては興味すらなさそうだった。
「みんな知ってたんだ……」
「ぷる?」
唯一分かっていなかったらしいプルが、きょろきょろと周囲を見る。
少し安心した。
ルークは歩く速度を落とした。
蛇を捕まえるつもりはない。
ただ、どんな魔物なのかは気になる。
昨日は一瞬しか見られなかった。
今なら。
岩陰から小さな頭が覗く。
距離は二十歩ほど。
ルークは鑑定した。
【サンドスネーク】
【Lv:2】
【潜砂 Lv.1】
【咬撃 Lv.1】
「普通のサンドスネークか」
名前も。
能力も。
特別なものはない。
体長もルークの腕ほどしかなく、胴は細い。砂に紛れる黄褐色の鱗と、黒い小さな眼。
強そうには見えなかった。
むしろ。
「よく一匹で生きてるな……」
乾燥地帯の入口とはいえ、昨日はLv9のロックハウンドが群れでいた。
こんな小さな魔物なら、狙われる側だろう。
ルークが一歩近づく。
蛇の頭が消えた。
「逃げた」
「当たり前だ」
レイが言う。
「追うなよ」
「追わないよ」
言いながら少し残念そうだったのか。
レイがこちらを見る。
「顔が追いたそうだ」
「見るだけならいいかなって」
「それを追うと言う」
ルークは諦めて街道へ戻った。
昼前。
休憩のため岩陰へ入った。
日差しは昨日より強い。
まだ砂漠と呼べるほどではないが、空気から湿り気が減っている。
ルークが水袋を開くと、プルがすぐ近づいた。
「はい」
身体へ少し水をかける。
「ぷるる」
気持ちよさそうに波打った。
「やっぱり暑いんじゃない?」
「ぷる」
違うらしい。
水は好きなだけ。
という主張に見える。
レイは日陰へ伏せ、ソラは岩の上で翼を休めていた。イズナはルークから少し離れたところで丸くなっている。
ルークは乾燥肉を取り出した。
自分の分。
レイ。
ソラ。
イズナ。
プルは食べられなくはないが、今日は興味を示していない。
その時だった。
足元で。
かさっ。
音がした。
ルークが視線を落とす。
乾燥肉が一切れ。
動いている。
「……え?」
岩の隙間へ向かって。
ずるずると。
肉が引きずられていく。
その端。
小さな口が噛みついていた。
「あ」
蛇と目が合った。
止まる。
ルークも止まる。
サンドスネークも動かない。
乾燥肉だけが口から半分出ている。
「それ、僕のなんだけど」
蛇が一気に後退した。
肉ごと岩の隙間へ消える。
「取られた!」
レイが片目を開いた。
「油断するからだ」
「いや、まさかこんな近くまで来ると思わないでしょ」
「来てる」
「結果論だよ」
岩の隙間を見る。
出てこない。
ルークは少し考えたあと、もう一切れ肉を取った。
地面へ置く。
「置くのか」
「お腹空いてるみたいだから」
「さっき盗られただろ」
「だから次は盗らなくていいように置く」
レイはしばらくルークを見た。
「そういうところだぞ」
「何が?」
返事はなかった。
休憩を終える。
置いていった肉は、その場ではなくならなかった。
だが。
百歩ほど進んで振り返った時。
もうなかった。
「食べたかな」
「知らん」
「レイなら匂いで分かるでしょ」
「分かる」
「じゃあ教えてよ」
「食ってる」
ルークは笑った。
「やっぱり」
レイは面倒そうに息を吐いた。
午後になると、道の周囲から草がさらに減った。
赤茶色の地面に、細かな砂が混じり始める。
サンドスネークはまだついてきていた。
近づかない。
一定の距離より前には出ない。
止まれば止まる。
進めば進む。
「何でついてくるんだろう」
「餌だろ」
レイが即答する。
「僕じゃなくて乾燥肉?」
「お前を食いたいなら大した度胸だ」
「そこまでは思ってないよ」
ただ。
餌だけなら。
もっと離れてから落ちているものを探してもいいはずだ。
わざわざ自分たちを追う理由があるのか。
考えても答えは出なかった。
ソラが急に鳴いた。
短い警戒音。
レイも同時に止まる。
「前じゃない」
「後ろだ」
ルークが振り返る。
サンドスネークがいた辺り。
砂が盛り上がった。
一つ。
二つ。
さらに三つ。
黒い節足が砂から突き出す。
大きな鋏。
湾曲した尾。
「スコーピオン?」
鑑定する。
【ロックスコーピオン】
【Lv:8】
【ロックスコーピオン】
【Lv:9】
【ロックスコーピオン】
【Lv:8】
三匹。
そして。
その間を小さな影が走っている。
サンドスネークだ。
速くない。
砂へ潜ろうとする。
だが。
一匹のロックスコーピオンが鋏を地面へ突き立て、砂を弾き飛ばした。
小さな身体が転がる。
「レイ!」
ルークが呼ぶ。
だが。
レイは動かなかった。
「お前が行け」
「僕?」
「三匹とも必要ない」
一瞬だけ意味を考える。
次の瞬間。
ソラが飛んだ。
一匹目へ。
急降下。
ロックスコーピオンが尾を振り上げる。
遅い。
ソラはその直前で軌道を変えた。
風刃が飛ぶ。
狙ったのは身体ではない。
尾の付け根。
甲殻の薄い部分へ風が叩き込まれ、尾が横へ弾かれる。
そのまま。
ソラの脚が背甲へ当たった。
衝撃。
ロックスコーピオンが砂の上を転がる。
一匹。
戦闘不能。
「ピィ!」
得意げに上昇。
「一匹はソラか」
残り二匹。
「プル、蛇をお願い!」
「ぷる!」
プルの触手が伸びる。
蛇とロックスコーピオンの間へ滑り込み、小さな身体をすくい上げた。
サンドスネークが暴れる。
「噛ませていいよ! その子を潰さないで!」
「ぷるっ」
プルが触手を柔らかく変える。
蛇を包んだまま後方へ運ぶ。
残った二匹のうち、一匹がプルへ向かう。
ルークは杖を構えた。
レイは動かない。
イズナも。
任されている。
そう理解した。
ロックスコーピオンが突っ込んでくる。
Lv8。
昔なら。
プルを前へ出していた。
今は。
脚を見る。
鋏を見る。
尾を見る。
一番危険なのは毒針。
だから正面へ立たない。
ルークは左へ一歩ずれた。
鋏が来る。
杖を縦に出す。
受けない。
当たる直前に角度を変える。
鋏が杖を滑る。
身体の横を通過。
すぐに。
ルークは石を蹴った。
違う。
狙うのは目じゃない。
前脚。
杖の石突きを低く振る。
関節へ当たる。
ロックスコーピオンの身体が傾いた。
尾が上がる。
読める。
ルークは踏み込んだ。
振り下ろされる前に。
投石紐を使わず、石袋から一つだけ石を掴む。
近距離。
投げる。
尾の根元へ命中。
毒針が大きく逸れた。
その隙に杖を横へ。
甲殻の下。
柔らかい腹部を打つ。
一撃。
ロックスコーピオンが横倒しになる。
起き上がろうとする。
二撃目。
動かなくなった。
ルークは息を吐いた。
「……倒せた」
レイが少し離れた場所で言う。
「遅い」
「初めて一人でやったんだから、もうちょっと何かない?」
「倒せたなら次は速くしろ」
厳しい。
だが。
ルークは笑っていた。
最後の一匹は。
もう終わっていた。
イズナが直接攻撃したわけではない。
ロックスコーピオンは、何度も誰もいない方向へ尾を振り下ろしている。
右。
左。
また右。
そのたびに。
幻のレイ。
幻のソラ。
幻のルーク。
次々と標的が変わる。
完全に混乱していた。
本物のレイが歩いて近づく。
「もういい」
イズナの耳が動く。
幻が消えた。
ロックスコーピオンが固まる。
目の前。
ダイアウルフ。
逃げようと身体を反転させる。
レイの前脚が一度動く。
甲殻が地面へ叩きつけられた。
それだけだった。
「本当に一撃……」
ルークが呟く。
レイは爪についた砂を払う。
「硬いだけだ」
ロックスコーピオン三匹。
かかった時間は一分もない。
しかも。
全員で一匹を囲んだわけではない。
ソラが一匹。
ルークが一匹。
イズナが一匹を完全に封じ。
最後だけレイが終わらせた。
プルは。
戦っていない。
守るべきものを守っていた。
「その子は?」
ルークが近づく。
プルの触手の中。
サンドスネークが身体を丸めている。
噛んでいる。
かなり噛んでいる。
でも。
プルにはほとんど効いていない。
「ぷるる……」
少しくすぐったいらしい。
「下ろしてあげて」
プルが触手を開く。
サンドスネークはすぐ逃げた。
三歩。
五歩。
岩陰まで走る。
そこで。
止まった。
逃げきらない。
こちらを見ている。
「怪我してる」
身体の横。
鱗が数枚剥がれている。
さっき転がされた時だろう。
ルークが近づこうとすると。
蛇が頭を低くした。
威嚇。
「分かった。行かない」
ルークはその場でしゃがんだ。
薬を取り出す。
塗り薬。
包帯は蛇には使いにくい。
「これ、置いとくね」
薬を塗った布を。
地面へ置くわけではない。
考える。
触らせなければ意味がない。
「……駄目だな」
諦めて薬を戻す。
代わりに。
乾燥肉を一切れ。
地面へ。
サンドスネークの目の前ではない。
自分との中間。
「食べるならどうぞ」
蛇は動かない。
ルークも近づかない。
「行こう」
「治さないのか」
レイが聞く。
「嫌がってるから」
「珍しいな」
「僕だって少しは学ぶよ」
レイが鼻を鳴らす。
ルークたちは歩き出した。
十歩。
二十歩。
後ろで。
かさ。
小さな音。
ルークは振り返らなかった。
しばらくしてから、レイが言う。
「食った」
「そっか」
「また来てる」
「うん」
今度は聞かなかった。
足音なんてしない。
匂いも分からない。
それでも。
なぜか分かった。
小さな蛇は。
また自分たちの後ろをついてきていた。
仲間ではない。
名前もない。
触ることすら許されていない。
それでいい。
今はまだ。
ルークは前を向いたまま歩く。
その少し後ろ。
誰にも追いつこうとせず。
けれど離れもしない距離を保って。
一匹の弱いサンドスネークが。
砂の上を進んでいた。
最後までお読みいただきありがとうございます!
ランキングをきっかけに、この作品を見つけてくださった方も増えてきました。
本当にありがとうございます!
「続きも読みたい」と思っていただけましたら、ブックマーク・評価で応援していただけると、とても励みになります。
次回もよろしくお願いします!




