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魔物使いの進化論 ~最弱スライムから始める神話級魔物育成~  作者: 庵


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第62話「湿地を越えて」

いつもお読みいただきありがとうございます!

皆さまの応援のおかげで、ランキングに掲載していただくことができました!

少しずつ順位も上がっており、本当に嬉しく思っています。

毎日のPVやブックマーク、評価のひとつひとつが、続きを書く大きな励みになっています。

本当にありがとうございます!

ルークと魔物たちの物語は、まだまだここからです。

今回も楽しんでいただけたら嬉しいです!



出発の朝、リューデンは薄い霧に包まれていた。


水路沿いの石畳はまだ濡れており、荷車の車輪が通るたびに小さな水音が響く。湿地の街らしい朝だった。


ルークは宿の前で最後の荷物を確認した。


水袋。


乾燥食。


薬。


包帯。


砂避け用の布。


地図。


そして、黒い棘と透明な液体を入れた小さな容器。


「これで全部かな」


「三回目だぞ」


レイが呆れたように言う。


「忘れ物したら困るでしょ」


「三回見ても忘れる奴は忘れる」


「朝から厳しいなあ」


足元ではプルが身体の一部を袋のように変え、その中へ予備の水袋を三つ収めていた。


吸収しているわけではない。


透明な身体の中に空間を作り、落ちないよう包み込んでいる。


「ぷる」


「うん、それは持ってて大丈夫」


得意げに身体が揺れた。


ソラは宿の屋根から街の外を眺めている。


イズナは荷物には興味がないらしく、門の方向へ身体を向けていた。


一本の尾。


進化候補が現れてからも変わらない姿だ。


ルークはそれを見て、何も言わなかった。


急がせない。


イズナが決めるまでは、それでいい。




南門へ向かう途中。


ルークたちは治療所へ寄った。


長く滞在するつもりはなかった。


それでも、リューデンを出る前に確認したいことがあった。


「昨日よりいいよ」


治療師はそう言って、最新の報告を見せてくれた。


グランドマーシュタートルは自力で少しずつ移動できるようになっている。


まだ長距離は無理。


水流操作も使わせていない。


それでも食事は取ったらしい。


「魔力循環の異常は?」


「残ってる。でも悪化はしてない」


「筋肉は?」


「そこは時間が必要ね」


完全に元通りではない。


けれど。


生きている。


回復している。


それだけで十分だった。


「また見に来てもいいですか?」


「もちろん」


治療師は笑った。


「その頃には向こうの方が元気かもしれないね」


ルークも笑う。


「だったら嬉しいです」


治療所を出る時。


プルが一度だけ奥を振り返った。


ルークは何も言わず、その横を歩いた。




南門を抜ける。


湿地都市リューデンが少しずつ遠ざかる。


最初は水路が多かった。


次第に。


浅い水辺。


柔らかな草地。


乾いた街道。


景色が変わっていく。


昼を過ぎる頃には、靴へ泥がまとわりつくこともなくなった。


「地面、固いね」


ルークが歩きながら言う。


「普通はこっちだ」


レイが答える。


「湿地に慣れすぎたのかな」


ソラは上空。


イズナは街道脇。


プルはルークの隣。


配置も。


歩く速度も。


いつの間にか自然に決まっていた。


以前なら。


少し進むたびにルークが声をかけていた。


ソラへ偵察を頼み。


レイへ匂いを確認し。


イズナの位置を気にして。


プルが離れていないか見る。


今は違う。


ソラは自分で先へ飛ぶ。


レイは立ち止まらず周囲の匂いを拾う。


イズナは姿を消したり現したりしながら、街道脇の死角を確認している。


プルは荷物を運びつつ。


たまにルークの足へ触手を伸ばす。


「楽になったな」


ルークが呟いた。


「何がだ」


「旅するの」


レイは前を見たまま答えた。


「お前が細かすぎただけだ」


「それもあるかも」


否定できなかった。




街道を二時間ほど進んだ頃。


ソラが高い鳴き声を上げた。


一度。


少し間を空けて。


二度。


「前に何かいる」


ルークが止まる。


レイも鼻を上げた。


「四……いや、五匹」


「魔物?」


「ああ」


逃げてくる匂いではない。


待っている。


街道脇。


岩が増え始めた辺り。


「待ち伏せかな」


「たぶんな」


ルークは杖を抜いた。


しかし。


全員を呼び寄せることはしなかった。


「レイ、どうする?」


ダイアウルフの耳が僅かに動く。


「俺とソラで足りる」


「じゃあ任せる」


それだけだった。




街道の曲がり角。


岩陰から獣が飛び出した。


黄土色の毛。


長い牙。


犬に似ているが、前脚だけが異様に太い。


ルークは鑑定する。


【ロックハウンド】


【Lv:9】


五匹。


群れで旅人を襲う魔物らしい。


先頭の一匹がレイへ飛びかかった。


レイは避けなかった。


半歩。


身体を横へずらす。


牙が空を噛む。


その横を。


爪が一度通った。


ロックハウンドの身体が地面へ転がる。


致命傷ではない。


だが立てない。


二匹目と三匹目が左右へ分かれる。


「ピィ!」


上空からソラが落ちた。


急降下。


風が地面へ叩きつけられる。


左の一匹が体勢を崩す。


同時に。


細い風刃が右の個体の前脚の直前を切り裂いた。


地面が割れる。


驚いたロックハウンドが跳び退く。


その着地点。


レイがいる。


一撃。


倒れる。


残り二匹。


そこでようやく。


群れが不利を理解した。


逃げる。


だが。


一匹は右へ。


もう一匹は左へ。


そう思った瞬間。


左へ走った個体が方向を変えた。


そこには何もない。


いや。


ロックハウンドには何か見えている。


イズナの幻だ。


逃げ道をずらされた。


結果。


二匹とも同じ場所へ集まる。


上空から風が落ちる。


正面にはレイ。


逃げ場がない。


戦闘開始から。


二十秒も経っていなかった。


ロックハウンドたちは地面へ伏せ、低く唸っている。


レイは一歩近づいた。


「消えろ」


殺気が消える。


五匹は。


立てる個体を支えるようにしながら。


岩場の奥へ逃げていった。




ルークは杖を下ろした。


結局。


一度も使わなかった。


「本当に二匹で終わった……」


正確には。


イズナも少し手を貸している。


でも。


プルは何もしていない。


ルークも。


「ぷる?」


プルが首を傾げるように身体を変える。


「今回は出番なしだったね」


「ぷる……」


少し萎んだ。


「またあるよ」


すぐ丸く戻る。


単純だ。


レイが戻ってくる。


「遅い」


「何が?」


「判断」


「僕?」


「あいつら」


ルークは笑った。


「逃げるのが?」


「ああ」


ソラも降りてくる。


勝ったことより。


運動を終えたような顔だった。


以前なら。


Lv9が五匹。


十分に警戒する相手だった。


今は。


レイとソラを中心に。


イズナが少し手を貸しただけ。


それで終わった。


「こういうのが普通になっていくのかな」


「弱い奴相手ならな」


レイの返事は冷静だった。


それでいい。


自分たちが強くなったからといって。


世界で一番強いわけではない。


もっと上はいる。


主のような相手も。


その先の存在も。


だからこそ。


今まで苦戦していた相手を軽く越えていく感覚が、ルークには嬉しかった。




夕方。


最初の宿場町へ到着する少し前。


景色はさらに変わった。


草が減る。


岩が増える。


風が乾いている。


プルの身体を触る。


いつもより少し温かい。


「大丈夫?」


「ぷる」


平気らしい。


水袋を一つ取り出し、少し身体へかける。


表面が嬉しそうに震えた。


「やっぱり暑いんじゃない」


「ぷるる」


否定。


でも水は吸収している。


レイが呆れたように見る。


「強がりまで覚えたか」


プルが触手を一本伸ばす。


レイが避ける。


「遅い」


もう一本。


また避ける。


三本目。


イズナの前を通る。


イズナが跳び退く。


ソラが上から鳴く。


いつの間にか。


旅が少し賑やかになっていた。




日が沈む前。


宿場町の屋根が見え始める。


ルークは街道脇へ目を向けた。


岩場。


乾いた土。


少しだけ生えた低い草。


湿地では見なかった景色。


「あと六日くらいか」


ラグナまで。


まだ遠い。


でも。


もう旅は始まっている。


その時。


イズナが急に止まった。


耳が右へ向く。


レイも一拍遅れて顔を上げた。


「何かいる」


「魔物?」


「小さい」


岩の隙間。


そこから。


何かがこちらを見ていた。


細い身体。


砂とほとんど同じ色。


小さな頭。


ルークが一歩近づく。


影はすぐに引っ込んだ。


「蛇……?」


追おうとした瞬間。


レイが首を横へ振る。


「逃げた」


「そっか」


ルークは少し残念そうに岩場を見る。


「初めて見る種類だったかも」


「また見つければいい」


「そうだね」


ルークたちは宿場町へ向かう。


誰も追わなかった。


岩の奥。


人の目が届かない細い隙間で。


小さな蛇は身体を丸めたまま。


遠ざかっていく五つの背中を。


じっと見送っていた。

最後までお読みいただきありがとうございます!

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次回もよろしくお願いします!

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