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魔物使いの進化論 ~最弱スライムから始める神話級魔物育成~  作者: 庵


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第6話 変形 Lv.2

【変形 Lv.1】


その文字が。


一瞬だけ、揺れた。


「……ん?」


ルークは足を止めた。


「ぷる?」


少し前を進んでいたプルが振り返る。


「ちょっと待って」


ルークはもう一度、プルの情報を確認した。


【種族:スライム】


【Lv:2】


【スキル】


【吸収 Lv.1】


【変形 Lv.1】


変わっていない。


「気のせい……?」


「ぷる?」


先ほど確かに。


【変形 Lv.1】の文字が揺らいだように見えた。


グリーンキャタピラーとの戦い。


プルは糸に絡め取られた。


そこから逃げるため。


身体を細く変形させた。


さらに敵へ巻きつき。


何度も【変形】を使った。


「もしかして……」


ルークは考える。


スキルには熟練度がある。


【吸収】を使った時にも表示された。


なら。


【変形】にも当然、熟練度があるはずだ。


「あと少しなのかな」


「ぷる!」


「帰る前に、ちょっと試してみようか」


「ぷる!」


ルークは辺りを見回した。


森の浅い場所。


危険な魔物の気配はない。


少し開けた場所を見つける。


「プル。あの枝に巻きついて」


「ぷるっ!」


ルークが指差す。


プルの身体が伸びた。


ぺたり。


木の枝へ巻きつく。


「そのまま少し上ってみて」


「ぷる?」


プルが止まる。


今までは。


伸びる。


巻きつく。


引っ張る。


そこまではできた。


だが。


自分の身体を引き上げる動きは、まだ試したことがない。


「こう……縮めながら上に」


ルークが両手を使って身振りで説明する。


「伸ばして、つかんで、縮める」


「ぷる……」


プルの身体が伸びる。


枝へ巻きつく。


そこから。


「ぷるるる……!」


身体を縮め始めた。


ずる。


ほんの少し。


地面から身体が浮く。


「おお!」


「ぷるっ!」


さらに縮む。


十センチ。


二十センチ。


プルの身体が完全に宙へ浮いた。


「できてる!」


「ぷるー!」


喜んだ瞬間。


べちゃ。


枝から外れた。


「ぷっ!?」


地面へ落ちる。


「大丈夫!?」


「ぷる……」


平気そうだ。


「でも今のすごかったよ」


ルークはすぐにノートを取り出した。


『変形』


『身体を伸ばして固定』


『縮めることで、自重を引き上げられる』


「これなら……木にも登れる?」


スライム。


基本的には地面を這う魔物。


少なくともルークの知っているスライムはそうだ。


だが【変形】を使えば。


枝から枝へ身体を伸ばすことで。


立体的に移動できるかもしれない。


「もう一回やってみよう」


「ぷる!」


再び伸びる。


巻きつく。


縮む。


今度は先ほどより速い。


「その上!」


さらに上の枝を指差す。


「ぷるっ!」


身体の一部を残したまま。


別の部分が伸びた。


「あ」


ルークが目を見開く。


今までとは違う。


一か所を固定したまま。


別方向へ身体を伸ばしている。


「二か所同時に……?」


プル自身も驚いたのか。


「ぷる?」


動きが止まる。


その瞬間。


文字が浮かんだ。


【スキル熟練度が一定値に達しました】


「来た!」


【変形 Lv.1 → Lv.2】


「やった!」


「ぷる!?」


ルークの声に驚いて。


プルが枝から落ちた。


べちゃ。


「ご、ごめん」


「ぷぅ……」


少し不満そうだった。


「でも見て! 変形がLv2になった!」


「ぷる?」


「強くなったんだよ」


「ぷる!」


やはり「強くなった」だけは分かるらしい。


勢いよく跳ねる。


ルークはすぐに情報を確認した。


【種族:スライム】


【Lv:2】


【スキル】


【吸収 Lv.1】


【変形 Lv.2】


それだけ。


新しい説明は出ない。


「……自分で調べろってことだね」


「ぷる?」


「うん。知ってた」


家へ戻ると。


ルークは昼食もそこそこに、家の裏へ向かった。


「またやってるの?」


母が呆れたように声をかける。


「変形がLv2になったんだ」


「そう」


「もっと驚かない?」


「スライムの変形がどれくらいすごいのか、母さんには分からないもの」


「かなりすごいよ」


「そうなのね」


「かなり」


「分かったから、ご飯はちゃんと食べなさい」


「食べたよ」


「半分しか食べてないでしょう」


「…………」


母には勝てなかった。


昼食を食べ直した後。


改めて実験を始める。


「まず距離から」


前回。


プルが伸ばせた距離は約一・二メートル。


ルークは地面に目印をつける。


「できるところまで伸ばしてみて」


「ぷるっ!」


身体が伸びる。


一メートル。


一・二メートル。


まだ止まらない。


「おお……」


一・四。


一・五。


そこで止まった。


「一・五メートルくらい」


一気に三十センチほど伸びている。


「戻して」


「ぷる!」


戻る速度も速い。


「次、連続で」


伸びる。


戻る。


伸びる。


戻る。


五回。


六回。


七回。


「まだ大丈夫?」


「ぷる!」


十回。


それでも。


以前ほど疲れていない。


「持久力も上がってる」


ルークは夢中で書き込む。


『変形 Lv.2』


『最大距離 約1.5m』


『速度上昇』


『連続使用可能回数増加』


そして。


一番気になること。


「さっきの二か所同時」


木の杭を二本立てる。


少し離して置く。


「右と左、同時に触れる?」


「ぷる?」


ルークが両腕を左右へ伸ばす。


「こう」


「ぷる……」


プルの身体が揺れる。


そして。


左右へ伸びた。


「できた……!」


一本。


二本。


まるで腕のように。


身体の一部を別々に動かしている。


「すごいよ、プル!」


「ぷる!」


「じゃあ片方でつかんで、もう片方で――」


ルークは小さな木片を置いた。


「これを取って」


右側。


杭へ巻きつく。


左側。


木片へ伸びる。


ぺたり。


「そのまま持ち上げて」


「ぷるるっ!」


持ち上がった。


ほんの小さな木片だ。


それでも。


「両方同時に動かせる……」


これは大きい。


今までのプルは。


相手の脚へ巻きつけば。


その間はほとんど何もできなかった。


だが。


二方向へ身体を伸ばせるなら。


「敵を押さえながら、別の攻撃ができるかもしれない」


問題は。


攻撃手段がないこと。


「…………」


ルークはホーンラビットの角を吸収した時のことを思い出す。


先端を尖らせる。


【変形 Lv.2】なら。


もっと鋭くできるのではないか。


「プル」


「ぷる?」


「昨日やった、尖らせるやつ」


ルークは指先を尖らせるように見せる。


「できるだけ細く。できるだけ尖らせて」


「ぷる……」


プルの身体の一部が伸びる。


細く。


さらに細く。


先端が尖る。


昨日より。


明らかに鋭い。


「…………」


ルークは近くに置いてあった木の板を見る。


「ちょっと当ててみよう」


「ぷる?」


「突く感じ」


ルークが棒で軽く突く動作を見せる。


「こう」


「ぷる!」


プルが身体を縮める。


次の瞬間。


シュッ。


尖った先端が伸びた。


コツッ。


板へ当たる。


「……跡がついた」


ほんの小さな傷。


だが。


以前の柔らかい身体では絶対につかなかった傷だ。


「もう一回」


「ぷるっ!」


シュッ。


今度は少し深い。


「これ……」


攻撃になる。


まだ弱い。


魔物の皮膚を簡単に貫けるほどではない。


それでも。


体当たりしかできなかったプルに。


初めて。


明確な攻撃手段が生まれた。


「すごい」


「ぷる!」


ルークは嬉しくなって。


思わずプルを持ち上げた。


「本当に強くなってるよ!」


「ぷるー!」


プルも嬉しそうに身体を震わせる。


その時。


ルークの頭に一つ浮かんだ。


ホーンラビットの角。


硬さ。


グリーンキャタピラーの糸。


柔軟性と強靭さ。


それらを吸収したことで。


プルの【変形】は、確実に戦闘向きになっている。


なら。


三つ目は?


「ハイスライムになるために必要なもの……」


単純に強い素材ではない。


プルの身体を。


より上位のスライムにするために必要な性質。


「硬さ」


「ぷる?」


「強靭さ」


「ぷる」


あと一つ。


ルークは『魔物観察録』を取り出した。


スライムの項目をめくる。


『スライムは柔らかな身体を持つが、その身体は決して一様ではない』


「……ん?」


ページをめくる。


『水辺に棲む個体は、乾いた土地に棲む個体より身体の水分が多い』


次。


『洞窟で見つけた個体は、地上の個体よりも身体表面が硬かった』


さらに。


『同じスライムであっても、長く暮らす環境によって性質が変わる可能性がある』


「環境……」


ルークの手が止まった。


これまでは。


魔物の素材ばかりを考えていた。


だが。


【素材吸収】


素材。


必ずしも魔物から取れるとは限らない。


「鉱石……?」


「ぷる?」


洞窟。


硬い身体。


鉱石。


石。


いや、小石はすでに試した。


普通の石では反応しなかった。


「特殊な鉱石なら……」


ルークは考える。


この村の近くに。


採掘できる場所があったはずだ。


昔は少量の鉄鉱石を取っていた。


今ではほとんど使われていない。


小さな洞窟。


「…………」


そこなら。


森とは違う素材があるかもしれない。


「明日は洞窟に行ってみようか」


「ぷる!」


ルークはすぐに立ち上がりかける。


だが。


「待て待て待て」


背後から声がした。


振り返る。


父が立っていた。


「父さん」


「今、洞窟って言ったか?」


「言った」


「行くな」


「なんで?」


「なんでって……」


父が頭を抱える。


「お前、数日前までホーンラビット一匹に殺されかけてただろうが」


「でもプル、強くなったよ」


「ぷる!」


プルが身体の一部を尖らせる。


シュッ。


木の板を突く。


コツッ。


「…………」


父が黙った。


「ほら」


「いや、確かにちょっとすごいけどな」


父は板へついた小さな傷を見る。


「洞窟は森とは違う」


「魔物がいる?」


「いる可能性がある」


父の表情が少し真剣になる。


「暗い。逃げ道も少ない。落石もある」


「…………」


「それに、あそこは昔からコウモリ型の魔物が出る」


「コウモリ……」


ルークの目が変わる。


「おい。その顔やめろ」


「どんな魔物?」


「興味持つな」


「素材は?」


「聞け」


「何か特徴的な――」


「ルーク」


父が低い声を出す。


「一人では行くな」


「…………」


ルークは黙る。


いつもの冗談交じりではない。


元冒険者。


危険を知っている人間の声だった。


「分かった」


「本当だな?」


「うん」


父が少し安心する。


「行かない」


「そうか」


「一人では」


「…………」


父の眉が動いた。


「プルと二人で――」


「それを一人って言ってるんだ!」


「ぷる!?」


父の声にプルが飛び上がった。


結局。


その日の洞窟行きは却下された。


夜。


ルークはベッドに寝転びながら。


進化情報を眺めていた。


【ハイスライム】


【条件】


【Lv:???】


【吸収:???】


【変形:???】


【素材吸収:2/3】


そして。


【変形 Lv.2】


一つ。


確実に進んだ。


「もしかして……」


ルークは【変形:???】へ意識を向ける。


すると。


文字が揺れた。


「え?」


【変形:条件達成】


「…………!」


ルークが飛び起きた。


「プル!」


「ぷる!?」


寝ていたプルも飛び起きる。


「一個埋まった!」


【ハイスライム】


【条件】


【Lv:???】


【吸収:???】


【変形:達成】


【素材吸収:2/3】


「やっぱり!」


スキルレベル。


【変形 Lv.2】に上がったことが。


ハイスライムへの進化条件だった。


「ってことは……」


【吸収:???】


おそらく。


こちらも同じ。


【吸収 Lv.2】


それが必要なのではないか。


そしてレベル。


素材。


一つずつ。


答えが見えてきている。


「あと少しだ」


「ぷる?」


「ハイスライムまで」


「ぷる!」


プルがベッドの上で跳ねる。


ルークはその身体を受け止めた。


最初に出会った時。


プルは傷だらけで。


人間を怖がり。


震えることしかできなかった。


それが今では。


身体を自在に伸ばし。


敵を拘束し。


少しだけだが、自分で攻撃することもできる。


まだLv2。


まだスライム。


それでも。


確実に。


進化へ近づいている。


「絶対に進化させよう」


「ぷる!」


明日から。


次に狙うものは決まった。


【吸収 Lv.2】。


そして。


最後の進化素材。


ただし。


村の外れにある古い洞窟が。


ルークとプルにとって。


森とは比べものにならない危険を秘めていることを。


この時の二人は。


まだ知らなかった。


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