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魔物使いの進化論 ~最弱スライムから始める神話級魔物育成~  作者: 庵


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第58話「限界を止める」

いつもお読みいただきありがとうございます!

皆さまの応援のおかげで、ランキングに掲載していただくことができました!

少しずつ順位も上がっており、本当に嬉しく思っています。

毎日のPVやブックマーク、評価のひとつひとつが、続きを書く大きな励みになっています。

本当にありがとうございます!

ルークと魔物たちの物語は、まだまだここからです。

今回も楽しんでいただけたら嬉しいです!


ソラが泥の上へ降りるより早く、ルークは走り出していた。


「ソラ!」


「ピィ!」


翼を畳んだゲイルホークが、差し出された腕へ飛び乗る。呼吸は少し荒いが、怪我はない。


「ありがとう。間に合った」


脚に結ばれた白い布を外すと、内側に黒い文字が並んでいた。


紙では湿地まで持たないと判断したのだろう。短い文章だけが、太い線で書かれている。


『薬液接触の可能性あり』


『高熱時は魔力を使わせるな』


『汚染した水から離し、可能なら清水で洗浄』


『無理に水を飲ませるな』


『治療班は深部入口へ向かう』


最後に、小さく付け足されていた。


『原因が不明な以上、薬は使うな』


ルークはそこを二度読んだ。


「やっぱり……力を使わせないのは間違ってなかった」


「答え合わせしてる暇はないぞ」


レイが主を見る。


「うん」


グランドマーシュタートルの周囲では、水がまた浮き始めていた。


【出力上限:突破開始】


さっき現れた表示は消えていない。


主の脚は震えている。


それでも魔力だけが、身体へ次の力を要求している。


「汚染した水から離す……」


ルークは足元を見る。


ここも湿地だ。


どこまで白い液体が流れているか分からない。


水場で撒かれていた量は多くなかったが、水路は繋がっている。


「レイ。甘い匂いは?」


レイが鼻を動かす。


「ここにもある。薄いがな」


「方向は?」


数秒。


レイが北西を向いた。


「そっちはほとんどない」


ルークも見る。


少し高くなった地面。


太い木々の根が張り出し、その間を細い水が流れている。


深い泥も少ない。


「ソラ、上から見てきて。北西に、流れのきれいな場所があるか確認して」


「ピィ!」


ソラはすぐ飛んだ。


指示を聞き終わる前から、翼が開いていた。




グランドマーシュタートルが動く。


前脚が泥を押した。


水が膨れる。


「動かすな」


レイが言った。


次の瞬間、銀灰色の身体が走った。


主の右前方。


攻撃の届くぎりぎり外。


そこで急停止する。


グランドマーシュタートルの眼がレイへ向いた。


「イズナ、反対」


ルークが言う前に、レイが短く指示した。


イズナの耳が立つ。


すぐに左側へ走る。


途中で姿が消えた。


数秒後、主の左前方へ灰白色の狐が現れる。


幻だ。


右にレイ。


左に幻。


どちらを見るか迷った主の動きが、一瞬止まる。


その一瞬で。


「プル、前脚!」


「ぷる!」


六本の触手が走った。


二本は木の根へ。


二本は地面へ。


残る二本が主の前脚近くへ伸びる。


巻きつかない。


足首を締めつけもしない。


ただ、踏み出そうとした場所の泥をすくい上げ、さらに深くする。


主が一歩を出そうとする。


前脚が沈む。


踏ん張れない。


水は動かない。


「いい!」


ルークは杖を握ったまま、周囲を見る。


誰も主へ攻撃していない。


それなのに。


動きを止められている。


さっきまでは暴走した力を受け止めていた。


今は違う。


力を出す前に。


そのきっかけを消している。




主が首を上げた。


口元へ水が集まりかける。


「ソラ!」


呼ぶ必要はなかった。


戻ってきたソラが、そのまま主の頭上を横切った。


翼が大きく振られる。


【風纏 Lv.1】


集まり始めた水の表面が崩れた。


一度。


さらに旋回。


二度目の風。


水塊は形になる前に周囲へ落ちる。


「ピィ!」


ソラが北西へ飛びながら鳴いた。


一度だけ。


その先には、木の根に囲まれた浅い流れがある。


水が澄んでいる。


「見つけたんだ」


ソラが大きく翼を開く。


肯定。


「よし。そこまで動かす」


「動かすなと言ったばかりだろ」


レイが振り返る。


「大きく動かさない。少しずつ」


ルークは主を見る。


「一気に歩かせれば、また力が出る。だから一歩ずつ」


レイは一瞬だけ黙った。


「面倒だな」


「主に言って」


「聞くと思うか?」


「思わない」


レイが鼻を鳴らした。




それでも。


方法はあった。


主を押す必要はない。


追い立てる必要もない。


進んでほしい方向以外を、選びにくくすればいい。


「イズナ、右側を嫌がらせて」


灰白色の狐が尾を振る。


右側の葦が激しく揺れた。


何か大型の魔物がいるような幻。


グランドマーシュタートルの眼がそちらへ向き、首を引く。


左側にはレイ。


真正面だけが空く。


主が一歩。


前脚を出す。


「プル、まだ」


ルークは地面を見る。


脚が沈む。


だが大きな踏み込みではない。


水も反応しない。


二歩目。


その前にレイが動く。


「止めろ」


主の前を横切る。


グランドマーシュタートルが立ち止まった。


休ませる。


呼吸を整える。


また一歩。


今度はイズナが幻を消す。


代わりに少し後ろへ現れ、主の視線を戻す。


プルは泥を均している。


主が踏み込む場所だけを少し固くし、その先はまた柔らかくする。


歩幅を作っている。


「……すごい」


ルークは思わず呟いた。


「誰がだ」


「みんな」


レイは答えなかった。


その間にも、主が踏み込みすぎそうになる。


「プル、左を狭めろ」


今度はレイの声。


「ぷる!」


ルークが指示を出す必要はなかった。


プルが触手を動かす。


イズナもレイの位置を見て、自分から反対側へ回る。


ソラは上空で旋回しながら、主の口元へ水が集まるたび風を送る。


一人ずつ動かしていた頃とは違う。


一つの目的を共有して。


それぞれが、自分の役割を選んでいる。




北西の浅瀬まで、距離にすれば大したことはなかった。


だが二十歩ほど進むのに、かなりの時間を使った。


最後の一歩。


グランドマーシュタートルが澄んだ流れへ前脚を入れる。


「止めて」


レイが前へ。


イズナが幻を出す。


主はそこで立ち止まった。


「プル、今度は冷やしたい」


「ぷる?」


「水をぶつけるんじゃなくて、身体へ流す。甲羅の隙間と脚。ゆっくり」


プルが流れへ触手を伸ばす。


一度、水をすくう。


そのまま主へ持っていく。


グランドマーシュタートルが反応した。


首が動く。


「待って」


ルークはプルを止めた。


嫌がっている。


無理にかければまた暴れる。


「もっと遠くから」


プルが触手を細くした。


先端だけを流れへ浸し、吸い上げるように水を身体へ通す。


その水を、別の触手の先から少しずつ落としていく。


ぽた。


ぽた。


最初は主の甲羅の端。


反応しない。


次は後脚。


少しだけ身体が震える。


だが暴れない。


「その速さ」


プルが続ける。


冷たい水が赤く熱を持った鱗を流れていく。


一度に大量ではない。


少しずつ。


熱を奪って。


流れ落ちた水を、また別の触手で外側へ押し出す。


「ぷる……」


プルの身体が真剣そうに細かく揺れている。


六本の触手のうち。


二本で清水を運ぶ。


一本で排水。


二本で足場を固定。


最後の一本はルークの近くに残している。


いつでも守れるように。


ルークはそれに気づいて、何も言わなかった。




「レイ」


「何だ」


「匂いは?」


レイが主の周囲を回る。


少し時間をかける。


「薄くなった」


「本当に?」


「ああ。さっきよりはな」


主の体表についていた薬液が、流れ始めている。


身体の中に入った分までは分からない。


それでも。


外から加わり続ける刺激を減らせるなら意味はある。


「ソラ、風は弱く」


「ピィ」


強い風では主を驚かせる。


ソラが高度を下げる。


翼をゆっくり動かす。


甲羅の上を風が通る。


水。


風。


休息。


それだけだ。


特別な薬はない。


万能な治療もない。


今分かっていることを。


一つずつ反対にしているだけだった。




時間が過ぎる。


ルークは何度目か分からない鑑定を使った。


【グランドマーシュタートル】


【Lv:34】


【状態:高熱/魔力循環異常/筋損傷】


【特殊状態:限界刺激・進行】


【出力上限:突破開始】


変わらない。


「まだ……」


焦りが出る。


これで駄目なら。


次は何をする。


透明な液体を調べる。


治療班を待つ。


もっと身体を冷やす。


いや。


冷やしすぎても駄目かもしれない。


ルークの思考が速くなる。


「ルーク」


レイが呼ぶ。


「何?」


「主を見ろ」


表示ではなく。


主を見る。


グランドマーシュタートルの首が、水面近くまで下がっていた。


さっきまでの荒い呼吸ではない。


ゆっくり。


一度。


また一度。


前脚の震えも小さくなっている。


ルークは息を吐いた。


「……そうだ」


鑑定だけ見ていた。


状態表示が変わる前に。


身体は変わり始める。


ルークは主の呼吸を数えた。


少し待つ。


もう一度、鑑定。




【グランドマーシュタートル】


【Lv:34】


【状態:高熱/魔力循環異常/筋損傷】


【特殊状態:限界刺激・停滞】


【出力上限:突破停止】


「……止まった」


ルークの声が掠れた。


プルが触手を止める。


「ぷる?」


「止まったよ」


もう一度表示を見る。


変わらない。


【限界刺激・停滞】


進行ではない。


【出力上限:突破停止】


成功した。


完治ではない。


高熱も。


筋損傷も。


魔力循環異常も残っている。


それでも。


壊れ続ける状態からは抜けた。




「やった……!」


ルークが拳を握る。


プルが跳ねた。


「ぷるっ!」


イズナの尾が一度大きく振られる。


ソラが低空を旋回し、得意げに鳴いた。


「ピィ!」


レイだけは主を見ている。


「喜ぶのはまだ早い」


「分かってる」


「本当に?」


「今だけは少しくらいいいでしょ」


レイがルークを見る。


数秒。


「少しだけだ」


それだけ言って、また主へ顔を戻した。


ルークは笑った。


戦って。


倒したわけではない。


けれど。


Lv34の主が、自分でも制御できないほどの力を暴走させていた。


それを。


誰一人倒れず。


主自身も殺さず。


止めた。


少し前の自分たちなら、できなかった。


誰か一匹が強くなったからでもない。


プル。


レイ。


ソラ。


イズナ。


そして自分。


全員が、以前よりできることを増やした結果だった。




遠くから人の声が聞こえた。


複数。


治療班だろう。


レイが鼻を動かす。


「人間。五人」


「治療師?」


「知らん。街の臭いはする」


主はもう暴れない。


ルークは杖を地面へ置いた。


ようやく。


肩の力を抜ける。


だが視線の先。


グランドマーシュタートルの前脚には、薄い赤みが残っている。


強制的に引き出された力。


身体が耐えられない出力。


止めることはできた。


なら次に知るべきなのは。


なぜこんなことが起きたのか。


そして。


研究側は、この先に何を起こそうとしていたのか。


ルークは布に包んだ黒い棘へ手を添えた。


今度は追いかけるだけでは終わらない。


ここまで分かったものを全部持ち帰って。


次は、相手が何を作ろうとしているのかを突き止める。

最後までお読みいただきありがとうございます!

ランキングをきっかけに、この作品を見つけてくださった方も増えてきました。

本当にありがとうございます!

「続きも読みたい」と思っていただけましたら、ブックマーク・評価で応援していただけると、とても励みになります。

次回もよろしくお願いします!

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