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魔物使いの進化論 ~最弱スライムから始める神話級魔物育成~  作者: 庵


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第54話「湿地の主」

いつもお読みいただきありがとうございます!

皆さまの応援のおかげで、ランキングに掲載していただくことができました!

少しずつ順位も上がっており、本当に嬉しく思っています。

毎日のPVやブックマーク、評価のひとつひとつが、続きを書く大きな励みになっています。

本当にありがとうございます!

ルークと魔物たちの物語は、まだまだここからです。

今回も楽しんでいただけたら嬉しいです!



倒木の向こうで、金属が擦れる音がした。


レイが示した場所へ目を凝らすと、葦の隙間に人影が見える。男は片膝をつき、両手で細長い筒のようなものを構えていた。


先端が向いているのは、こちらではない。


水の中にいる巨体だった。


「……黒い棘を飛ばす気だ」


ルークは腰の石袋へ手を入れた。


距離はある。


男そのものを狙って当てられるほど、ルークの投石は上手くない。


だが、狙う必要もなかった。


男の前にある倒木。


その上から筒を固定している右腕。


外してもいい。


動かせればいい。


石を投石紐へ入れる。


一度。


二度。


回転させる。


男の指が動いた。


「今!」


石を放つ。


真っ直ぐには飛ばなかった。


狙った腕より少し下。


だが石は倒木の縁へ当たり、乾いた音と木片を撒き散らした。


「なっ!?」


男が反射的に身体を引く。


その瞬間、筒の先端から何かが飛び出した。


黒い線。


それは主の首元を掠め、水面へ突き刺さった。


届かなかった。


「よし……!」


喜んだのは一瞬だった。


水中にいた巨体が動く。


水面が爆発した。


大量の泥水が数メートルの高さまで跳ね上がり、周囲の葦が一斉に倒れる。


「プル!」


「ぷるっ!」


プルがルークの前へ飛び出す。


身体を横へ広げ、三本の触手を地面へ固定。


【硬化 Lv.4】


泥と水が叩きつける。


衝撃でプルの身体が大きくへこむが、後ろのルークまではほとんど届かなかった。


「大丈夫!?」


「ぷるるっ!」


身体を震わせ、泥を飛ばす。


平気らしい。


それより。


ルークは水場を見る。


そこに、ようやく湿地の主が全身を現していた。




巨大な亀だった。


甲羅だけでルークの身長を軽く超える。


黒褐色の甲羅には泥と苔、水草がびっしりと張りつき、一部からは小さな草まで伸びている。


太い四肢が浅瀬へ踏み出すたび、泥が沈んだ。


長い首。


硬そうな鱗。


そして小さく見えるほど遠い頭部。


だが、その眼だけははっきりこちらを向いている。


ルークは鑑定した。


【グランドマーシュタートル】


【Lv:34】


【状態:興奮】


【甲殻 Lv.4】


【水流操作 Lv.3】


【泥地適応 Lv.4】


「グランドマーシュタートル……」


聞いたことのない種族だった。


少なくとも、これまで湿地で見た魔物とは明らかに格が違う。


Lv34。


南水路で救出したマッドリザードは、無理やりLv31まで引き上げられ、身体そのものが壊れ始めていた。


目の前の主には、その歪さがない。


大きな甲羅。


太い脚。


長い首。


どれも、その力を支えるために育ってきた身体だった。


これが、本来の成長。


積み重ねた時間に身体が追いついている強さなのだ。


「来るぞ!」


レイの声。


グランドマーシュタートルが首を振った。


大きな口が開く。


次の瞬間、水面が持ち上がった。


「右!」


ルークが叫ぶ。


全員が散る。


水の塊が直前までいた場所へ叩き込まれ、地面を抉った。


攻撃してきた。


だが狙いは一匹に定まっていない。


視線が落ち着かない。


何度も頭を振り、鼻先を上げている。


「やっぱり匂いだ」


ルークは気づく。


グランドマーシュタートルは自分たちを見ている。


しかしそれ以上に、空気を嗅いでいる。


そして少しずつ、南東へ身体を向け直そうとしていた。


さっき三人の男たちが白い液体を撒いていた水場。


「僕たちを襲いに来たんじゃない」


レイが一歩下がる。


「だとしても、次は当たるぞ」


「分かってる」


興奮している。


この状態で近づけば危険だ。


なら、近づかなければいい。


「ソラ!」


枝の上にいたソラが飛び上がる。


「匂いを散らせる?」


「ピィ?」


伝わりきっていない。


ルークは南東を指さす。


「あっちから来る匂い。風で押し返して!」


ソラが一度高度を取った。


翼を大きく羽ばたく。


一度。


二度。


【風纏 Lv.1】


風がルークたちの頭上を抜け、南東へ吹き返した。


甘い匂いが薄くなる。


グランドマーシュタートルの動きが止まった。


「……効いた」


だが完全ではない。


少しすると再び鼻先を持ち上げる。


あの液体は水にも混ぜられている。


風だけで全部を消せるわけではない。


「もう一回! 今度は横へ流して!」


ソラが旋回する。


甘い匂いが流れてくる方向。


主。


自分たち。


ルークは位置を見る。


主と誘導地点を結ぶ匂いの流れを切る。


それだけでいい。


ソラが低空を横切った。


強い横風。


水面が波立ち、葦が大きく倒れる。


グランドマーシュタートルの首が、初めて南東以外へ向いた。


「今だ」


ルークはイズナを見る。


「戦わなくていい。あっち」


指したのは北側。


何もない水路。


研究側から離れる方向。


イズナは一瞬だけ主を見る。


その大きさに耳が僅かに寝た。


それでも前へ出る。


【幻惑 Lv.2】


北側の葦の間に、影が現れた。


狐ではない。


大きな揺れ。


何かが水辺を通ったように見える。


正確な姿を作る必要はない。


主の注意を向ければいい。


グランドマーシュタートルの眼が動いた。


北。


南東。


もう一度、北。


迷っている。


「レイ」


「分かってる」


レイは攻撃しない。


主の正面から少しずつ外へ動き、南東側へ回る。


低い唸り。


威嚇。


ただし主へではない。


それ以上こちらへ進ませないよう、誘導地点へ続く方向を塞ぐ位置へ立つ。


プルも続く。


身体を低く広げ、薄い壁になる。


誰も攻撃していない。


それでも、四匹が一つの目的で動いていた。


ルークは主を見る。


倒そうとすれば、勝てる相手ではない。


少なくとも今は。


なら、倒さなくていい。


戦わずに進む方向を変えればいい。


「こっちへ来なくていい」


ルークは声を出した。


言葉が通じるとは思っていない。


「僕たちは、君と戦いに来たんじゃない」


グランドマーシュタートルがこちらを見る。


眼が合った。


ぞくりと背中が震える。


怖い。


それでも武器は構えなかった。


杖を地面へ置く。


投石紐からも手を離す。


一歩だけ。


前へ。


「ルーク」


レイの声。


「これ以上は行かない」


返事をして止まる。


無理に近づく必要はない。


信頼を得に来たわけでもない。


契約したいわけでもない。


ただ。


黒い棘を刺されない場所へ行ってほしい。


それだけだ。




主がゆっくり首を下げた。


水を嗅ぐ。


北を見る。


その時だった。


倒木の向こうにいた男が立ち上がった。


「邪魔するな!」


男がソラへ向かって何かを投げた。


小さな金属球。


「ソラ!」


球が開く。


中から細い網が広がった。


だがソラは止まらない。


翼を畳む。


【急降下 Lv.1】


一瞬で高度を落とし、網の下を抜けた。


そのまま水面ぎりぎりを滑る。


男が舌打ちする。


「レイ!」


ルークが叫ぶより早かった。


銀灰色の身体が走る。


泥を蹴り、一気に倒木へ。


男は筒を捨てた。


戦わない。


すぐ後ろへ飛び退く。


「撤退!」


離れた水場の方角から声が飛んだ。


先ほど白い液体を撒き、主を誘い出す準備をしていた三人だ。


主の近くに潜んでいた男も迷わなかった。


腰から小さな筒を抜き、泥へ叩きつける。


白煙が一気に広がる。


「追わなくていい!」


ルークが叫ぶ。


レイは煙の手前で止まった。


逃げる人間より、今は主だ。


ここへ来た目的を間違えてはいけない。




煙が薄くなる。


男たちはもう見えなかった。


追えば痕跡くらいは辿れるかもしれない。


だがグランドマーシュタートルは、まだ目の前にいる。


ルークはそちらへ向き直った。


主は人間が逃げた方向を見ていた。


追わない。


咆哮もしない。


やがて、ゆっくりと水へ身体を戻していく。


その周囲。


さっきまで姿を消していた小さな沼蛙が、一匹だけ水面へ顔を出した。


少し離れた場所では、小魚の波紋が戻る。


グランドマーシュタートルが進むと、その巨大な身体が葦を押し分け、水の通り道ができた。


そこへ小さな魚が入り込む。


ルークはそれを見て、祖先の観察録に残されていた言葉を思い出す。


『周囲の獣、少ない』


『争った痕はあるが、食われた跡は少ない』


『強いから支配するのではなく、ここにいることで他が避ける?』


「……そういうことか」


主は周囲を食い尽くしているわけではない。


その大きさで道を作る。


縄張りを持つことで、他の大型魔物を遠ざける。


小さな魔物たちは近づきすぎないだけで、主が通り過ぎればまた戻ってくる。


この巨大な魔物も。


湿地の中で、他の生き物と関わりながら生きている。


「倒しちゃ駄目なやつだ」


「最初から倒す気はなかっただろ」


レイが戻ってくる。


「そうだけど、もっとはっきり分かった」


主がゆっくり北へ向きを変える。


イズナが作った幻はもう消えている。


甘い匂いも、ソラの風でかなり薄くなった。


それでもグランドマーシュタートルは南東へ戻らなかった。


誰かに追い立てられたのではない。


最後に進む方向を選んだのは、主自身だった。


ルークは小さく息を吐く。


「よかった……」


「まだだ」


レイが言った。


ルークも頷く。


研究側は逃げた。


諦めたとは限らない。


むしろ今日のことで、ルークたちが邪魔をする存在だと知られた。


次は同じやり方では来ないだろう。


水面を進む主の背中を見送る。


その時。


プルが「ぷる?」と鳴いた。


一本の触手を水へ伸ばしている。


先ほど男が撃った黒い棘。


主の首元を外れたそれが、浅い泥の上に引っかかっていた。


プルが拾おうとする。


「待って」


ルークが止めた。


男も素手では触れていなかった。


ルークは薬を扱う時に使う厚手の布を何重か巻き、慎重に棘を拾い上げる。


南水路や古い施設で見たものとよく似ている。


中央の円。


そこから枝分かれする線。


同じ印。


だが、一つだけ違った。


先端が濡れている。


水ではない。


透明で、少し粘り気のある液体が薄く塗られていた。


ルークは棘へ顔を近づけないよう注意しながら観察する。


主を誘い出すため、水場へ撒かれていた白い液体。


そして。


魔物へ撃ち込む棘には、また別の何かが塗られている。


「……棘だけじゃないんだ」


黒い棘さえ刺せば、同じ現象が起こる。


そう考えていた。


だが違うのかもしれない。


棘。


薬。


魔物自身の状態。


あるいは周囲の環境。


いくつかの条件を重ねて、あの異常な限界突破を引き起こしている可能性がある。


まだ断定はできない。


それでも、持ち帰って調べる価値はあった。


ルークは棘を布で包み、他の道具とは別の容器へしまう。


湿地の主を守れた。


少なくとも、今回は。


だが研究側が何をしているのか。


その仕組みについては、ようやく入口が見え始めただけだった。

最後までお読みいただきありがとうございます!

皆さまの応援のおかげでランキングにも掲載され、たくさんの方にルークたちの物語を読んでいただけるようになりました。

本当にありがとうございます!

ですが、ルークと魔物たちの成長はまだまだこれから。

さらなる進化、新たな出会い、そして強敵との戦いも待っています。

続きが気になると思っていただけましたら、ブックマーク・評価で応援していただけると嬉しいです!

次回もぜひお楽しみに!

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