↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物使いの進化論 ~最弱スライムから始める神話級魔物育成~  作者: 庵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
51/73

第51話「祖先が見た湿地」

いつもお読みいただきありがとうございます!

おかげさまで日間ランキングに入ることができました。

読んでくださる皆さまのおかげです。本当にありがとうございます!

これからもルークと魔物たちの物語を楽しんでいただけるよう、更新を続けていきます。

今回もよろしくお願いします!



出発予定は夜明け。


それでもルークは、空が明るくなるよりずっと早く目を覚ました。


宿の机には、西湿地の地図と『魔物観察録』が広げたままになっている。昨夜は準備を終えた後も眠れず、祖先の記録を何度も読み返していた。


『西の湿地。傷つけられた獣を食べるな。土地そのものが病んでいる場所がある』


以前読んだ一文。


その時は、黒い変異が湿地そのものに原因を持つ可能性を考えた。


今なら少し違って見える。


「棘だけじゃないのかもしれない」


黒い棘は魔物へ異常な刺激を与える。


それは分かった。


だが、同じ棘を刺された魔物でも結果は違った。


マッドリザードは限界突破。


ポイズンフロッグは失敗。


スワンプクラブは途中停止。


個体差だけで説明できるのか。


ルークはページを戻した。


祖先の記録は整理された研究書ではない。見たこと、気づいたこと、予想をそのまま書き込んだ観察記録だ。


だから同じ話が、何十ページも離れた場所に突然出てくる。


「何かないかな……」


指で文字を追う。


その時、背後で布が擦れた。


レイが起きたらしい。


「まだ見ていたのか」


「起こした?」


「とっくに起きてる」


「まだ夜だよ」


「お前に言われたくない」


返す言葉がない。


足元ではプルが丸くなったまま眠っている。イズナはベッドの端。ソラは窓の外の庇で羽へ頭を埋めていた。


「今日、湿地の主を探すでしょ」


「ああ」


「何も知らずに近づくのが怖くて」


「だから全部分かってから行く気か」


ルークの手が止まった。


レイは机の横へ座る。


「それなら朝になっても出られない」


「……そうだね」


正しい。


分からないから調べる。


だが、全部分かるまで動かないのも違う。


ルークは観察録を閉じようとした。


その時。


紙の端に描かれた小さな線が目に入った。


「待って」


閉じかけたページを戻す。


文章ではない。


湿地を簡単に描いた図。


丸い水場。


何本かの木。


その周囲を囲むような線。


横に、小さな字。


『ここより先、大型個体の縄張りか』


ルークは地図を引き寄せた。


昨日見つけた研究側の地図。


『候補 確認済』


と印がついていた場所。


完全に同じではない。


昔と今で地形も変わっている。


それでも。


「近い」


レイが地図へ鼻先を寄せる。


「何がだ」


「祖先も、湿地の奥で強い魔物の縄張りを見つけてる」


さらに記録を読む。


その下。


ほとんど消えかけた文字が続いていた。


『周囲の獣、少ない』


『争った痕はあるが、食われた跡は少ない』


そして最後。


『強いから支配するのではなく、ここにいることで他が避ける?』


ルークは黙った。


湿地の主が何者なのかは分からない。


だが少なくとも祖先が見た大型個体は、周囲の魔物を片端から食べるような存在ではなかったらしい。


「縄張りを持ってるだけ……?」


「可能性だ」


レイが言う。


「うん。決めつけない」


少し前なら、文章を見つけた勢いで答えだと思っていたかもしれない。


今は違う。


祖先も間違える。


自分も間違える。


使えるのは、観察結果だけだ。


それでも十分だった。


今日探す相手は、見つけた瞬間に戦うべき敵ではない。


まず行動を見る。


そこからだ。




夜明け前。


西門にはギルドの職員が待っていた。


今回はルークたちだけで深部へ入る。


大人数で動けば、湿地の主にも研究側にも気づかれやすい。代わりに、一定時間ごとにソラを上空へ上げ、異常があれば街道側へ知らせることになっている。


「帰還期限は日没前だ」


職員が言う。


「見つからなくても戻れ」


「はい」


「研究側を発見しても追うな」


「はい」


「湿地の主が襲ってきたら?」


ルークは一瞬考えた。


「逃げます」


職員の眉が少し上がる。


「戦わないのか?」


「今は倒す理由がないので」


守りに行った相手と戦って死なせたら意味がない。


必要なら防ぐ。


仲間を守るためなら反撃もする。


だが勝つこと自体は目的ではなかった。


「それでいい」


職員が門を開ける。


「行ってこい」


朝霧の中へ、一行は踏み出した。




西湿地へ入ってしばらくは、以前と同じ道を使った。


しかし古い石造り施設へ向かう分岐を越えると、景色が変わり始める。


水が深い。


足場になる地面が減る。


背の高い葦が増え、十歩先すら見えない場所がある。


「ソラ、上から道を見て」


「ピィ!」


ゲイルホークが飛び上がる。


進化前より速い。


狭い葦の隙間から垂直に近い角度で高度を取り、そのまま一気に遠ざかる。


しばらくして戻ってきた。


右へ旋回。


左へ一度。


最後に正面で翼を広げる。


「右は駄目、左は行けるけど遠回り。正面が一番早い?」


「ピィ!」


返事。


以前なら鳴き声だけではここまで分からなかった。


共生契約が深くなっているのか。


それとも単に一緒にいる時間が増えたからなのか。


どちらかは分からない。


「いつか普通に教えてくれたら楽なんだけど」


ソラがルークの頭すれすれを飛んだ。


髪が風で乱れる。


「何で怒るの?」


レイが横から言う。


「今でも十分伝わってると言いたいんだろ」


「……それなら先に言ってよ」


ソラは返事をせず、また前へ飛んだ。


たぶん当たっている。




正面の道は早かった。


ただし安全ではない。


途中、腰ほどの水場を越える必要があった。


プルが先に入る。


触手を一本、底へ伸ばす。


二本目。


三本目。


地面の硬い場所を探し、その位置へ触手を固定する。


「通れる?」


「ぷる!」


ルークが一歩入る。


泥が沈む。


その瞬間、腰へプルの触手が巻きついた。


「まだ転んでないよ」


「ぷるる」


信用されていない。


イズナが横を通る。


小さな身体なので沈みやすいはずだが、プルが水面近くへ触手を一本伸ばすと、その上へ軽く前脚を乗せた。


足場として使っている。


「それいいね」


「ぷる!」


プルも嬉しそうだ。


さらにレイが渡る時には二本。


イズナには一本。


ルークには腰を支えながら一本。


相手によって支え方を変えている。


前なら、プルが守ると言えば身体を硬くして盾になることが多かった。


今は違う。


倒れないように支える。


足場を作る。


運ぶ。


仲間全体を見るようになっている。


「プル、最近すごく忙しいね」


「ぷるる!」


誇らしそうに王冠状の突起が揺れた。




昼前。


祖先の図に描かれていた場所へ近づくにつれ、魔物の姿が減った。


最初は偶然かと思った。


だが明らかだった。


鳴き声が少ない。


水面を泳ぐ小型魔物もいない。


レイが何度も地面を嗅ぐ。


「縄張りだ」


「もう?」


「ああ」


「主の?」


「分からん」


そこは区別する。


ルークも周囲を見る。


木の幹に傷。


高い。


ルークの胸より上。


何か大きなものが擦った跡。


地面には窪み。


足跡のようにも見えるが、水が溜まり形が崩れている。


「大きいな……」


鑑定できる対象は見えない。


それでも、この辺りに自分たちよりずっと大きな何かがいる。


イズナが突然止まった。


耳を前へ向ける。


鼻を動かす。


そのまま姿が薄くなる。


「イズナ」


呼ぶ前に、こちらを見る。


行っていいか確認している。


以前なら、そのまま一匹で進んでいた。


「近くだけお願い。何か見つけても戻ってきて」


尾が一度動く。


【気配遮断 Lv.2】


灰白色の姿が葦の中へ消える。


ルークたちはその場で待った。


数分後。


イズナが戻ってくる。


毛は逆立っていない。


危険ではない。


ただ、様子がおかしい。


ルークの前まで来ると、鼻先を西へ向ける。


そして地面を嗅ぐ。


「何かいる?」


耳が立つ。


「主?」


反応しない。


分からないらしい。


レイも同じ方向へ進み、匂いを確認した。


その顔が変わった。


「何?」


「魔物の匂いはある」


「大きい?」


「ああ」


一瞬、安心しかける。


だがレイは続けた。


「人間もいる」


ルークの表情が固まった。


「新しい?」


「かなり」


間に合った。


そう思った。


次の瞬間。


レイが低く唸る。


「だが一人じゃない」


ルークはすぐ地図を開いた。


自分たちがいる位置。


主の縄張りと思われる場所。


研究側の印。


ほぼ重なっている。


相手も来ている。


それでも、まだ戦闘音は聞こえない。


咆哮もない。


「まだ始まってない」


ルークは地図を畳んだ。


急ぎたい。


けれど走れば、こちらの存在も主へ伝わる。


研究側にも気づかれる。


ここから先は速さだけでは駄目だ。


「イズナ、先を見て。人間の数と位置だけでいい。近づきすぎないで」


耳が立つ。


「ソラは上。主の姿が見えても降りないで」


「ピィ!」


「レイはイズナが戻るまでここ。プルも僕と待機」


「分かった」


「ぷる」


全員が散る。


ルークだけが中央に残る。


以前なら。


自分だけ何もしていないように感じたかもしれない。


今は違う。


待つことも役割だ。


四方向から持ち帰られる情報をまとめて。


誰をどこへ動かすか決める。


腰の投石紐へ触れる。


杖の位置も確認する。


戦いに来たわけではない。


けれど、必要なら動ける。


葦の向こう。


研究側。


そして、まだ姿の見えない湿地の主。


両方へ気づかれずに近づける時間は、もう長くなかった。

最後までありがとうございます!

今後も個性の違う魔物たちが登場していきます。

「この先も読んでみたい」と思っていただけましたら、ブックマーク・評価をいただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。