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魔物使いの進化論 ~最弱スライムから始める神話級魔物育成~  作者: 庵


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第50話「強くなるということ」

いつもお読みいただきありがとうございます!

おかげさまで日間ランキングに入ることができました。

読んでくださる皆さまのおかげです。本当にありがとうございます!

これからもルークと魔物たちの物語を楽しんでいただけるよう、更新を続けていきます。

今回もよろしくお願いします!



南水路から戻った翌朝、ルークは治療所の椅子で目を覚ました。


ベッドで眠った記憶はない。救出した魔物たちの様子を見ているうちに、そのまま机へ突っ伏していたらしい。


「……朝?」


身体を起こすと、肩から毛布が落ちた。


足元ではプルが丸くなっている。その向こうにはレイが伏せ、窓枠にはソラ。イズナだけは隣の椅子を占領し、尾へ鼻先を埋めて眠っていた。


結局、全員残っていたらしい。


「君たちも宿に戻ればよかったのに」


「お前が戻らなかった」


レイが片目を開ける。


「だから?」


「だからだ」


説明する気はないらしい。


プルも目を覚まし、「ぷる」とルークの膝へ触手を伸ばした。


「ごめん。心配させた?」


「ぷるる」


今度は少し強めに叩かれた。


怒られたらしい。




救出した魔物たちは、治療所の奥にある広い部屋へ集められていた。


最初に目へ入ったのはリードバードだ。


昨日まで翼を縛られていた小さな鳥は、布を敷いた箱の中で身体を起こしていた。まだ弱っているものの、呼吸は落ち着いている。


ルークが鑑定する。


【リードバード Lv13】


【状態:衰弱】


【特殊状態:限界刺激・停止】


変化なし。


ただ、胸元に広がり始めていた黒い変色は薄くなっていた。


「黒いところ、減ってる……」


「昨日よりはな」


背後から治療師が現れた。


「熱も下がった。餌も少し食った」


「元に戻れるんですか?」


「そこまでは言えん」


即答だった。


治療師は隣の寝台を見る。


そこにはマーシュラットとポイズンフロッグがいる。


「刺激が止まった連中は、少なくとも悪化していない。だが一度壊れた部分が全部元通りになるかは別の話だ」


ポイズンフロッグの毒袋はまだ腫れている。


スワンプクラブの異常に大きくなった右鋏も、そのままだ。


止まった。


治った。


二つは違う。


「じゃあ……マッドリザードは?」


ルークが尋ねる。


治療師の表情が少し険しくなった。


「今から棘を抜く」


「抜けるんですか?」


「ここならな」


南水路では設備がなかった。


暴れる可能性もあった。


だが治療所なら薬も、人手も、道具もある。


「ただし、抜けば治るとは思うな」


「……はい」


ルークもそれは分かっている。


それでも。


進行し続けるよりはいい。




マッドリザードは別室へ移されていた。


巨大化した身体を寝かせるため、寝台を二つ繋げている。


本来のマッドリザードなら必要ない大きさだった。


右前脚。


肩。


背。


どこも身体の均衡が取れていない。


特に背中の黒い棘の周囲は、鱗が盛り上がるように変形している。


「眠らせてある」


治療師が説明する。


「棘が深い。引っ張るだけじゃ危ない。周囲を開いて、位置を確認しながら抜く」


ルークは邪魔にならない場所まで下がった。


プルたちも外で待たせる。


ただ一匹。


イズナだけが扉の前から動かなかった。


以前、変異した双尾狐から棘を抜いた時のことを思い出しているのかもしれない。


治療は長かった。


黒い棘の周囲を切り開き、何度も血を止める。


棘そのものにも細かな枝のような突起があり、無理に引けば肉を裂く構造になっていた。


「……わざと抜けにくくしてる?」


ルークが呟く。


治療師は答えなかった。


分からないことを推測だけで決めるべきではない。


ルークもそれ以上は言わなかった。


やがて。


黒い棘が抜かれた。


床へ置かれた金属皿に、硬い音が響く。


以前の物より長い。


そして太い。


中央には、あの印。


円。


枝分かれする線。


傷を閉じ、包帯を巻き終えるまでさらに時間がかかった。


「これで刺激そのものは止まるはずだ」


ルークは鑑定する。


【マッドリザード Lv31】


【状態:衰弱/筋損傷/骨格負荷】


【特殊状態:進化限界突破】


表示は残っている。


「レベルも……変わらない」


Lv31。


棘を抜いても下がらなかった。


「止まってない?」


ルークが焦って見直す。


違う。


【変異進行】


その表示だけは消えている。


黒い変色も広がってはいない。


しかし。


異常に膨れた脚。


歪んだ骨。


Lv31という数字。


一度起きた変化までは消えていなかった。


「……戻らないんだ」


治療師が首を振る。


「今日の時点では分からん」


慰めるような言い方ではなかった。


「身体がこの状態へ適応するかもしれん。逆に耐えられず弱っていくかもしれん。俺たちに分かるのは、これ以上悪化させないよう面倒を見ることくらいだ」


ルークは黙ってマッドリザードを見た。


Lv31。


数字だけなら強くなっている。


以前の個体よりずっと大きく、力も強い。


だが。


自分で立つことすらできない。


「強くなったなら、立てるはずだ」


扉の外からレイの声がした。


ルークが振り返る。


「聞いてたの?」


「聞こえた」


レイはマッドリザードを見る。


「力が増えただけだ」


短い言葉だった。


それでも妙に残った。


力が増える。


強くなる。


同じではない。




昼頃。


ルークたちは治療所の中庭へ出た。


救出したリードバードも、日光に当てるため小さな籠ごと運ばれている。


ソラが屋根から降りてきた。


リードバードを見る。


少し近づく。


相手が身を縮めると、すぐ足を止めた。


「昨日もそうしてたね」


「ピィ」


短く鳴く。


ルークには以前より、その鳴き声に含まれる意図が分かる気がした。


嫌がっているから近づかない。


たぶん、それだけ。


人の言葉ではない。


それでも一緒にいる時間が長くなるほど、伝わるものが増えている。


イズナは中庭の反対側へ向かった。


そこには、以前助けた二匹の狐がいる。


ミストフォックス。


そして変異していた双尾狐。


双尾狐の黒い毛はまだ完全には戻っていない。


だが広がってもいなかった。


【状態:変異進行・緩慢/回復中】


「……回復中?」


初めて見る表示だった。


ルークはしゃがむ。


双尾狐がこちらを警戒して顔を上げる。


近づきすぎない。


イズナはその隣へ座った。


以前ならルークとの間に入るような位置だった。


今日は違う。


双尾狐の横から、ルークを見ている。


逃げない。


止めない。


「見てもいい?」


返事はない。


それでも双尾狐が牙を剥かなかったため、少しだけ近づく。


黒い変色の境目。


そこから短い灰色の毛が生えている。


元の毛色だ。


「戻ってきてる」


遅い。


何日もかかっている。


それでも身体は、自分で元の状態へ戻ろうとしている。


全部が失われるわけではない。


ルークは少しだけ息を吐いた。




午後。


ギルドの小部屋には地図と記録が広げられていた。


ルークたちのほか、調査担当の職員と昨日の治療師。


机の中央には、西湿地深部に丸印のついた地図がある。


「期限は三日以内、と書いてあった」


職員が言う。


「だが、その記録がいつ書かれたかは分からない」


つまり。


三日あるとは限らない。


今日かもしれない。


明日かもしれない。


「すぐ出た方がいいんじゃないですか?」


ルークが地図を見る。


職員が首を横へ振った。


「深部に夜から入る気か?」


「でも――」


「昨日までのお前なら行ったかもしれんな」


レイが横から言う。


ルークは口を閉じる。


図星だった。


「急ぐのと、準備を捨てるのは違う」


職員の指が地図を叩く。


「深部は道がない。日が落ちれば捜索どころじゃなくなる。今から行けば、相手より先に着くどころか、お前らが遭難する」


悔しいが正しい。


相手より先へ行きたい。


だからこそ失敗できない。


「……明日の夜明け」


ルークが言った。


「それが一番早いですか?」


「ああ」


そこから話を詰める。


大人数では入らない。


目的は研究者の捕縛ではない。


最優先は、


湿地の主を見つける。


黒い棘を刺される前に接触する。


研究側の人間を発見しても深追いしない。


「ソラは上から人の動きを探す」


ルークが地図へ駒を置く。


「レイは地上の匂い。イズナは先行して隠れて確認。プルは僕と一緒に中央」


「お前は?」


レイが聞く。


「全員から情報を受けて動く」


以前なら。


レイは前。


ソラは上。


プルは守る。


それだけだった。


今は違う。


四匹が別々の場所から情報を持ってくる。


ルークはその中心で、どこへ動くか決める。


自分が一番強い必要はない。


一番速い必要もない。


ただ。


全員が力を出せる場所を作る。


それが自分の役目だった。




話が終わった頃には夕方になっていた。


ルークは一人で治療所へ戻った。


正確には。


四匹ともついてきたので、一人ではない。


治療中の魔物たちをもう一度見る。


リードバードは眠っている。


マーシュラットも。


マッドリザードはまだ目を覚ましていない。


「明日、行ってくるよ」


当然、返事はない。


ルークは笑う。


「今度は、こうなる前に止めたい」


強くなること。


進化すること。


ルークはずっと、それを楽しみに旅をしてきた。


プルがどんな姿になるのか。


レイがどんな狼になるのか。


ソラがどこまで空を飛ぶのか。


イズナが何へ進化するのか。


知りたい。


見たい。


育てたい。


けれど。


それは「強い姿」だけを見たいという意味ではなかった。


そこへ至るまでに。


何を選び。


何を覚え。


誰を守り。


どう変わったのか。


その全部があるから、進化は面白い。


「明日は戦いに行くんじゃない」


ルークは地図を握る。


イズナが顔を上げた。


レイも耳を向ける。


ソラが翼を畳み、プルが足元へ寄る。


「進化させないために行こう」


明日の目的は。


倒すことでも。


捕まえることでもない。


まだ何もされていない一匹の魔物を。


そのままの姿で守ることだった。

最後までありがとうございます!

今後も個性の違う魔物たちが登場していきます。

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