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魔物使いの進化論 ~最弱スライムから始める神話級魔物育成~  作者: 庵


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第46話「石箱の受取人」

いつもお読みいただきありがとうございます!

おかげさまで日間ランキングに入ることができました。

読んでくださる皆さまのおかげです。本当にありがとうございます!

これからもルークと魔物たちの物語を楽しんでいただけるよう、更新を続けていきます。

今回もよろしくお願いします!



翌朝、空が白み始める前にルークたちはリューデンを出た。


昨日見つけた足跡のことは、すでにギルドへ報告してある。石箱の周囲には冒険者を何人か配置する案も出たが、人数が増えれば相手に気づかれる可能性が高い。


結局、少し離れた場所でギルドの職員二人が待機し、実際に石箱へ近づくのはルークたちだけになった。


「絶対に追いすぎるなよ」


出発前、職員から何度も言われた。


相手の正体を知ることが目的であって、捕まえることが目的ではない。


それはルークも分かっている。


分かってはいるが。


「……緊張するな」


「ぷる?」


足元のプルが身体を傾ける。


「大丈夫。怖いって意味じゃなくて、失敗したくないだけ」


「同じようなものだ」


レイが横から言う。


「レイは緊張しないの?」


「する」


意外な答えだった。


ルークが見ると、レイは前を向いたまま続ける。


「だから匂いを確認する」


「なるほど」


緊張しないのではなく、やることへ集中しているだけ。


それは参考になる。


ルークも杖の位置を確かめ、腰の投石紐へ触れた。


今日は戦闘をするために来たわけではない。


それでも、何が起きるかは分からない。




枯れた柳が見える場所まで来ると、一行は三つに分かれた。


ソラは上空。


ただし昨日よりずっと高い。


ゲイルホークの姿を見られないよう、雲に近い高さまで上がっている。


レイとプルはルークの近く。


イズナだけが先へ進む。


【気配遮断 Lv.2】


灰白色の身体が、草の向こうへ溶ける。


昨日よりさらに見失いやすい。


「もう分からない」


「左前だ」


レイが即答する。


「匂い?」


「ああ」


「便利だなあ」


「お前も少しは感じてるだろ」


言われて意識を向ける。


確かに。


目では見えない。


でも、共生契約を通してイズナが遠くへ進んでいることだけは何となく分かる。


細い糸のような感覚。


レイほど正確ではない。


それでも昨日よりは少し分かりやすい。


「これも慣れるのかな」


「使えばな」


ルークは小さく頷いた。


魔物たちだけではない。


共生契約そのものも、一緒に過ごすほど深くなっている。




予定の時間になっても、石箱の周囲に変化はなかった。


朝。


昼前。


ソラから警告もない。


イズナも時々戻ってくるが、誰かが近づいた痕跡はない。


「来ないね」


「焦るな」


レイは伏せたまま動かない。


プルは最初こそ大人しくしていたものの、暇になったのか地面の小石を身体の中へ入れて転がしている。


「食べちゃ駄目だよ」


「ぷる!」


食べていない、と言っているらしい。


ルークは少し笑った。


その時。


上空からソラの鳴き声が一度だけ響いた。


短い。


合図。


ルークの表情が変わる。


「来た?」


レイが立つ。


鼻を動かす。


「人間。一人」


昨日の二人とは違う匂いなのかまでは、まだ分からない。


「イズナは?」


「動いてる」


共生契約を意識する。


微かに分かる。


石箱の近く。


ルークは姿勢を低くした。


「見るだけ。まだ動かない」


プルが身体を縮める。


レイも茂みの中へ伏せた。




やがて一人の男が現れた。


年齢は四十前後。


薄茶色の外套。


腰には剣。


見た目だけなら、どこにでもいる旅人に見える。


だが男は周囲を何度も確認しながら柳へ近づいた。


迷っていない。


石箱の場所を知っている。


ルークは息を潜める。


男が三本目の柳の根元へしゃがむ。


土を掘る。


石箱を出す。


「依頼主……?」


そう思った瞬間。


男は箱を開けず、そのまま別の紙を置いた。


そして蓋を閉じる。


「置くだけ?」


受け取りに来たのではない。


依頼書を補充しに来た。


男が立つ。


その時。


イズナが動いた。


姿は見えない。


だがルークには僅かに感じられた。


男の後ろへ回っている。


「近づきすぎるな……」


小声が漏れる。


もちろん届かない。


男が突然止まった。


ルークの心臓が跳ねる。


気づいた?


男は振り返る。


誰もいない。


イズナの気配が止まる。


数秒。


男は再び歩き出した。


そのまま柳から離れる。


「追う?」


レイが聞く。


ルークは迷う。


職員には追いすぎるなと言われた。


しかし、このまま見送ればどこから来たのか分からない。


「少しだけ」


判断する。


「ソラは上から。僕たちはここ。イズナだけ追ってもらう」


レイがルークを見る。


「戻す距離を決めろ」


「柳から五百歩。それ以上は行かせない」


「ならいい」


イズナへ意識を向ける。


言葉そのものは届かない。


それでも「行って」「深追いしない」という気持ちを強く持つ。


すると遠くにあるイズナの気配が、一瞬こちらへ向いたように感じた。


そして動き出した。




待つ時間は長かった。


男の姿はとっくに見えない。


ソラも遠くへ移動している。


ルークは何度も立ち上がりそうになるのを我慢した。


「まだ?」


「まだだ」


レイが答える。


「分かる?」


「イズナの匂いは戻ってきてない」


五分。


さらに数分。


上空のソラが戻ってきた。


一度旋回。


そして柳の南を示すように翼を傾ける。


「南へ行った?」


ソラが鳴く。


その直後。


草むらが揺れた。


イズナが現れた。


息は乱れていない。


怪我もない。


「おかえり」


ルークがしゃがむ。


イズナはそのまま近づき、口に咥えていた物を落とした。


糸。


いや。


細い布切れ。


黒に近い濃紺。


端に銀色の刺繍がある。


中央の円。


そこから伸びる枝のような線。


例の印。


「またこれ……」


レイが布の匂いを嗅ぐ。


「さっきの男のものだ」


「どこで取ったの?」


イズナが少し考えるように首を傾げる。


その後、自分の肩を木へ軽く擦りつけた。


「枝に引っかかってた?」


尾が一度動く。


どうやらそうらしい。


盗んだわけではないと分かって、ルークは少し安心した。


「男はどこへ?」


イズナは南を見る。


そして地面を前脚で掻く。


一度。


二度。


その後、止まる。


「途中で消えた?」


反応なし。


違う。


レイが口を挟む。


「道が変わったんじゃないか」


イズナの耳が立つ。


正解らしい。


「普通の道じゃない?」


今度は尾が動く。


ソラも上から南を見る。


何かある。


だが今日は追わない。


それが約束だ。


「ここまでにしよう」


ルークは布切れを包む。


イズナが少し不満そうに見える。


「追いたい?」


耳が立つ。


「僕も」


正直に言う。


「でも今行ったら、相手の場所へ入ることになる。何がいるか分からない」


イズナは南を見る。


それからルークを見る。


少しして、座った。


納得はしていない。


それでも従ってくれた。


「ありがとう」


頭へ手を伸ばしかける。


イズナがじっと見る。


ルークは止めた。


すると向こうから額を手へ寄せてきた。


ほんの一瞬。


すぐ離れる。


プルがその様子を見て飛んでくる。


「ぷる!」


イズナが素早くルークの反対側へ回った。


「まだプルには駄目なんだ」


「ぷるる……」


距離は少しずつ縮まっている。


たぶん。




石箱を開けるのは、男が十分離れてからにした。


中には一枚の紙。


昨日までなかった新しい依頼書。


ルークは布越しに取り出す。


そこには魔物の絵が描かれていた。


大きな蜥蜴。


湿地で何度も見ている種。


【マッドリザード】


ただし指定条件が異常だった。


『Lv20以上』


『同種との争いに勝利した個体』


『傷の治りが早い個体』


『可能なら、毒性環境への適応あり』


そして最後。


『生存状態で納品』


「また進化しやすそうな特徴ばかりだ」


ルークは紙を見つめる。


能力の高い個体。


特殊環境へ適応した個体。


群れの中で優位な個体。


偶然ではない。


何者かが、進化しやすい魔物を選んで集めている。


その時。


依頼書の裏に薄い文字があることに気づいた。


「ん?」


光へ透かす。


表からは見えない。


濡らした跡か。


何かを書いて消したような痕。


読める部分は少ない。


それでも一行だけ残っている。


『次回適合試験――南水路』


ルークは目を止めた。


「南水路……」


昨日。


男が向かった方向も南。


「場所の名前か?」


レイが聞く。


「たぶん」


リューデン周辺の地図を思い出す。


町の南側には、昔使われていた排水路や水路がいくつかある。


だが「南水路」という固有名は聞いたことがない。


「ギルドに戻って調べよう」


今度は追いかける必要がない。


相手が向かう可能性のある場所を、こちらから探せる。


ルークは依頼書を丁寧に畳んだ。




帰り道。


イズナがルークの少し前を歩く。


時々姿を薄くし、また現れる。


昨日までは自分だけで偵察していた。


今日は命令を待ち、距離を守り、情報を持ち帰った。


少しずつ。


イズナも「仲間として動く」ことを覚えている。


ルークはその背を見る。


ふと、鑑定表示の一部が変わった。


【特殊進化条件に変化があります】


「え?」


足を止める。


イズナも振り返った。


【特殊進化候補:妖狐】


【Lv:6/20】


【幻惑 Lv.2/3】


【気配遮断 Lv.2/3】


【仲間との連携:達成】


【???】


「一つ、見えた」


昨日まで二つあった未知条件。


その一つが開示されている。


仲間との連携。


ただ強くなればいいわけではない。


一匹で隠れ、一匹で騙すだけでも駄目。


誰かと一緒に力を使うことが、妖狐への条件になっている。


「イズナ」


呼ぶと、灰白色の狐が戻ってくる。


「一個、進化条件が分かったよ」


イズナが耳を立てる。


「仲間と一緒に戦うこと」


プルがすぐ寄ってくる。


「ぷる!」


イズナが半歩離れる。


だが今回は、それ以上逃げなかった。


ルークは笑う。


残る条件は、あと一つ。


そして南には、魔物を強制的に変える何者かの手がかり。


自然に成長するイズナと。


何かに進化を強いられている魔物たち。


その違いを確かめる場所が、少しずつ近づいていた。

最後までありがとうございます!

今後も個性の違う魔物たちが登場していきます。

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