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魔物使いの進化論 ~最弱スライムから始める神話級魔物育成~  作者: 庵


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第47話「南水路」

いつもお読みいただきありがとうございます!

おかげさまで日間ランキングに入ることができました。

読んでくださる皆さまのおかげです。本当にありがとうございます!

これからもルークと魔物たちの物語を楽しんでいただけるよう、更新を続けていきます。

今回もよろしくお願いします!


リューデンへ戻ると、ルークたちはそのままギルドへ向かった。


受付の奥にある小部屋には、昨日から西湿地の調査を担当している職員と、見慣れない老人が待っていた。机の上には町周辺の地図が何枚も広げられている。


「戻ったか。何かあったか?」


「ありました」


ルークは依頼書と、イズナが拾ってきた濃紺の布切れを机へ置く。


さらに、石箱の近くで見つけた黒い棘。


最後に。


「依頼書の裏に、これが」


紙を裏返す。


薄く残った文字。


『次回適合試験――南水路』


職員の表情が変わった。


隣にいた老人も椅子から身を乗り出す。


「南水路だと?」


「知ってるんですか?」


老人はルークではなく、地図を見た。


何枚かを退け、一番下から黄ばんだ紙を引き出す。


「今の若い連中は知らんだろうな。もう使われておらん」


老人はギルドで長く資料管理をしているらしい。


指が町の南側をなぞる。


現在のリューデン。


南門。


湿地。


そのさらに下。


地図には細い線が何本も描かれていた。


「昔、町の南側には排水用の水路があった。雨季に水が溢れるのを防ぐためのものだ」


「今は?」


「新しい水路が東へ作られた。南側は三十年ほど前から使われておらん」


ルークは地図へ顔を近づける。


一本の線が南西へ伸びている。


途中で枝分かれ。


さらに奥。


「これ……西湿地まで繋がってる?」


「昔はな」


老人が頷く。


「一部は崩れている。入口も封鎖されたはずだ」


レイが地図を見る。


「昨日の男が向かった方向と同じだ」


「うん」


イズナも机の横から地図を覗いている。


もちろん読めてはいないだろう。


ただ、昨日男が消えた方向を指で示すと、耳が立った。


「ここだった?」


ルークが南水路の入口付近を指す。


イズナは少し考えた後、鼻先をそこへ近づけた。


そのまま南西方向へ指を動かす。


イズナも一緒に移動する。


「たぶん、この辺りまで追ったんだと思います」


職員が腕を組んだ。


「封鎖された水路に入った可能性が高いか」


「でも入口は閉じてるんですよね?」


老人が鼻を鳴らす。


「表向きは、だ」


嫌な言い方だった。


「水路は一本ではない。清掃用の横穴もあるし、昔の作業員しか知らん入口もあった」


「そこを使ってる……?」


「可能性はある」


ルークは地図を見る。


古い施設。


西湿地。


石箱。


南水路。


別々だと思っていた場所が、地下で繋がり始めている。




「それと、この布」


ルークが濃紺の布切れを差し出す。


銀色の刺繍。


中央の円から枝分かれする線。


老人はしばらく見つめた。


「知らんな」


「古い組織の印じゃないんですか?」


「少なくともリューデン周辺の商会、冒険者団、役所では見たことがない」


少し期待していただけに、肩透かしだった。


だが老人は続ける。


「ただし、刺繍そのものは新しい」


「新しい?」


「糸がほとんど傷んどらん。古代の布切れではない」


ルークは布を見る。


当たり前のことなのに、そこまで考えていなかった。


印は古い。


布は新しい。


「昔の印を、今の誰かが使ってる」


「そう考える方が自然だろうな」


職員が低く言う。


「古い施設を知っている。昔の進化誘導の印を使っている。そして進化しやすい魔物を集めている」


点が増えている。


だが、まだ名前はない。


誰なのか。


何のためなのか。


そこだけが見えない。




ギルドはすぐに南水路へ人を送る案を出した。


しかしルークは地図から目を離さなかった。


「待ってください」


職員が眉を上げる。


「何だ?」


「人数を出したら、また逃げられませんか?」


石箱に来た男も、ただの受取人だった可能性が高い。


捕獲者もそうだった。


末端を一人捕まえても、依頼主までは届かなかった。


南水路へ十人、二十人で踏み込めば、相手がいるなら気づく。


「じゃあお前はどうしたい」


ルークはすぐ答えなかった。


以前なら、ここで大人の判断に任せていたかもしれない。


だが今回は、自分たちの得意なことがある。


ソラは空。


レイは匂い。


イズナは隠密。


プルは護衛。


そしてルークは、それをどう使うか考えられる。


「まず入口だけ確認したいです」


「中へ入る気か?」


「いきなり奥までは行きません」


ルークは地図の南側を指す。


「表の入口と、イズナが男を見失った場所。その二つが繋がってるか確認する」


レイを見る。


「匂いが残ってれば追える?」


「時間が経ちすぎてなければ」


次にソラ。


「上から入口周辺を見てほしい。人が出入りしてそうな道がないか」


ソラが短く鳴く。


最後にイズナ。


「昨日と同じ。見つからない範囲で先を見る」


イズナは静かにルークを見る。


「無理はさせません」


職員に向き直る。


「僕たちだけで突入したいわけじゃないです。確認して、危険なら戻ります」


老人が少し笑った。


「十五にしては慎重だな」


「最近、突っ込むと怒られるので」


レイを見る。


「当然だ」


すぐ返ってきた。


「ほら」


職員が深く息を吐く。


「……分かった。ただしギルドから二人つける。入口までだ」


「はい」


「それと、異常があったら即撤退」


「はい」


「勝手に奥まで行くな」


「はい」


「返事だけはいいな」


否定できなかった。




午後。


ルークたちは南門から町を出た。


ギルドから同行したのは、以前にも西湿地を調査したことがある二人の冒険者だった。


南水路までは一時間ほど。


道は途中からなくなる。


背の高い草。


浅い水溜まり。


崩れた石垣。


そして古い柳。


「こんな場所に水路が?」


ルークが周囲を見る。


同行者の一人が指差した。


「昔はここまで町だったらしい」


今では湿地に飲み込まれている。


しばらく進むと、斜面が現れた。


土と蔦に覆われている。


一見、何もない。


だがプルが蔦へ触手を伸ばした。


「ぷる?」


「何かある?」


一本。


二本。


蔦を引く。


その下から石壁が現れた。


さらに剥がす。


半円形の入口。


大きな鉄格子。


錆びている。


「ここだ」


同行者が言う。


旧南水路。


確かに封鎖されている。


少なくとも表からは。




レイが格子へ近づく。


鼻を動かす。


「人が通ってる」


全員の空気が変わった。


「最近?」


「何度も」


ルークも入口を見る。


鉄格子は錆びている。


しかし。


「ここだけ新しい」


鍵。


正確には鍵穴ではない。


格子の端に取り付けられた金具。


周囲は古いのに、そこだけ黒い鉄。


誰かが交換している。


「封鎖されてないじゃん」


「表向きにはな」


同行者が顔をしかめる。


レイは入口周辺を歩く。


そして左。


石壁沿いへ進んだ。


「匂いがこっちにもある」


全員で追う。


十数歩。


何もない。


さらに進む。


イズナが急に止まった。


壁へ近づく。


【気配遮断 Lv.2】


姿を薄くして周囲を確認。


その後、一本の蔦へ前脚をかける。


「そこ?」


ルークが蔦を退ける。


隙間。


人一人が通れるほどの細い穴。


石壁の一部が内側へずれている。


「横穴……」


昨日イズナが男を見失った場所。


おそらくここだ。


レイが匂いを嗅ぐ。


「同じ男」


「当たりだ」


男はここから南水路へ入った。


つまり相手側は、旧水路を今も移動経路として使っている。


これで一つ繋がった。




ルークは穴へ入らなかった。


約束通り。


その代わり、イズナを見る。


「少しだけ中を見られる?」


同行者が止める。


「おい」


「入口から離れさせません」


ルークはイズナへしゃがむ。


「十歩だけ。何かいたら戻る」


イズナが穴を見る。


気配遮断。


灰白色の身体が消える。


数秒。


一分も経たない。


戻ってきた。


「早い」


何かあった。


イズナは口に何も咥えていない。


代わりに。


身体を低くしている。


毛が僅かに逆立っていた。


「人?」


反応なし。


「魔物?」


耳が動く。


魔物だ。


「何匹?」


それは答えられない。


その時。


穴の奥から音がした。


金属。


何かが擦れる。


さらに。


低い唸り声。


レイが前へ出る。


「近づいてくる」


「戻ろう」


ルークは即座に言った。


ここで戦う必要はない。


入口の位置は分かった。


人が使っていることも分かった。


中に魔物がいることも。


十分だ。


だが。


全員が下がろうとした、その瞬間。


穴の奥で何かが暴れた。


激しい金属音。


鎖。


そして獣の咆哮。


一度。


二度。


苦しそうな声だった。


ルークの足が止まる。


「……閉じ込められてる?」


レイが奥を見る。


「血の匂いがする」


さらに。


別の匂い。


レイの毛が立つ。


「黒い棘と同じ臭いだ」


ルークは唇を噛んだ。


約束は撤退。


中には何かがいる。


助けたい。


だが今飛び込めば、相手の思う壺かもしれない。


杖を握る手へ力が入る。


その時、イズナが穴の前へ出た。


行こうとしている。


「イズナ」


止まる。


灰白色の狐が振り返る。


ルークを見る。


次に穴を見る。


奥でまた鎖が鳴った。


「……分かってる」


助けたいのはルークも同じだった。


だからこそ。


「一回戻ろう」


イズナの耳が伏せる。


「助けないんじゃない」


ルークは目を逸らさなかった。


「助けるために、準備して戻る」


以前ならそのまま突っ込んでいたかもしれない。


だが自分一人ではない。


プル。


レイ。


ソラ。


イズナ。


全員を連れて帰る責任がある。


「今度は、ちゃんと助けに来よう」


少しして。


イズナが穴から離れた。


その時だった。


奥の暗闇から、鑑定表示が一瞬だけ浮かんだ。


距離が遠い。


完全には読めない。


それでも。


【種族:???】


【Lv:31】


【状態:変異進行】


そして。


【進化限界突破】


ルークの目が見開かれた。


今までの変異魔物にはなかった表示。


限界を越えている。


進化ではない。


それなのに、本来届かない場所まで無理やり力を引き上げられている。


祖先の言葉が蘇る。


『進化とは呼べない』


その意味が。


ようやく少しだけ分かった。

最後までありがとうございます!

今後も個性の違う魔物たちが登場していきます。

「この先も読んでみたい」と思っていただけましたら、ブックマーク・評価をいただけると嬉しいです!

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