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魔物使いの進化論 ~最弱スライムから始める神話級魔物育成~  作者: 庵


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第44話「四匹目の名前」


翌朝。


宿の部屋で目を覚ましたルークは、最初にいつもと違う気配を感じた。


ベッドの横ではプルが丸くなり、窓際にはソラ。入口近くにはレイが伏せている。そこまでは昨日までと同じだった。


もう一つ。


椅子の上に、灰白色の尾が見える。


「……本当にいる」


ルークが身体を起こすと、小狐も目を開けた。


逃げない。


ただし近づいてもこない。


昨夜、共生契約を結んだ。


それでも一晩で性格まで変わるわけではないらしい。


「おはよう」


小狐の耳が一度動いた。


「ぷる!」


先にプルが飛び起きる。


そのまま椅子へ向かおうとして、小狐が低く唸った。


プルが急停止する。


「ぷ……」


「昨日もやったでしょ。急に近づいたら嫌がるって」


「ぷるる……」


しょんぼり身体が沈む。


小狐はそんなプルをしばらく見た後、椅子から降りた。


一歩。


二歩。


プルのすぐ近くまで来る。


「ぷる?」


青い身体へ鼻先を寄せた。


そして。


ぺしっ。


尾で軽く叩く。


「ぷるっ!?」


すぐ離れる。


レイが片目を開けた。


「嫌なら近づくなという意味だろ」


「たぶん違うと思う」


「何が違う」


「本当に嫌なら、わざわざ近づかないよ」


プルも同じ結論に至ったらしい。


嬉しそうに跳ねた。


小狐がまた距離を取る。


完全に仲良くなるには、もう少しかかりそうだ。




朝食を終えると、ルークは小狐と向き合った。


共生契約を結んだ以上、いつまでも「小狐」と呼ぶわけにはいかない。


プル。


レイ。


ソラ。


みんな名前がある。


「名前、決めようか」


小狐が首を傾げる。


「嫌だったら反応してね」


レイが横から口を挟む。


「分かるのか」


「たぶん」


「昨日も似たことを言ってたな」


「今回はもう少し分かるよ」


共生契約を結んだことで、以前より小狐の感情が近い。


言葉が聞こえるわけではない。


ただ、嫌がっているのか、興味を持っているのかくらいは感じ取れる。


ルークは灰白色の毛を見る。


霧の中へ溶けるような気配遮断。


幻惑を使えば、輪郭すら曖昧になる。


しばらく考えてから、ふと一つの名前が浮かんだ。


「……イズナ」


小狐が顔を上げた。


「短くて呼びやすいし、なんとなく君に合う気がする」


灰白色の尾がゆっくり動く。


嫌ではないらしい。


「イズナ」


もう一度呼ぶ。


今度は近づいてきた。


鼻先がルークの手へ触れる。


【個体名が設定されました】


【ミストフォックス:イズナ】


ルークの頬が緩んだ。


「よろしく、イズナ」


「ぷる!」


プルも呼んでいるつもりなのか跳ねる。


ソラが窓から短く鳴いた。


レイだけはいつも通りだったが、イズナを見る目は以前より少し柔らかい。


四匹目の仲間。


ようやく名前まで揃った。




その日の午前中、ルークたちは町の外へ出た。


三日後には石箱を調べる予定がある。


それまで何もしないわけにはいかない。


何より、イズナが仲間になったばかりだ。


「まず戦い方を合わせよう」


人の少ない湿地手前の草地。


相手にするのは敵ではない。


木の枝に布を巻き、簡単な標的をいくつか作る。


「イズナの幻惑を中心にやってみたい」


イズナが耳を立てる。


現在のスキルは、


【幻惑 Lv.1】


【気配遮断 Lv.1】


まだ攻撃能力はない。


だが昨日の戦いで分かった。


使い方次第では、かなり強い。


問題もある。


「レイまで騙されてたからね」


「余計なことを言うな」


「事実でしょ」


「一度だけだ」


そこは気にしていたらしい。


イズナがレイを見る。


そして。


姿が二つになった。


【幻惑 Lv.1】


一匹が左。


一匹が右。


レイの耳が動く。


「……またか」


「見分けられる?」


「匂いは薄い。近ければ分かる」


つまり遠距離では難しい。


ソラも上空から首を動かしている。


幻は姿だけではない。


動きまでかなり自然だ。


「じゃあ、まずは一つ決めよう」


ルークは地面に二本の線を引く。


「幻は敵の外側へ出す。僕たちの間には作らない」


昨日、仲間まで混乱した原因だ。


イズナが線を見る。


ルークを見る。


理解したらしい。


「ソラは上からイズナの本体を見る。レイは匂い。プルは僕の近く」


「ぷる!」


「僕も投石で合わせる」


最初の訓練が始まった。




イズナが走る。


姿が二つへ分かれる。


左が本物。


右が幻。


標的へ近づく途中で、二匹が交差した。


「……あれ?」


ルークが見失った。


レイが即座に言う。


「左」


ソラも上から鳴く。


ルークは投石紐を回し、左側の標的へ投げた。


石が布の端に当たる。


「よし!」


狙った中央ではない。


それでもイズナの動きに合わせられた。


次。


今度は幻を標的の右側へ走らせる。


ルークたちは左から攻める。


レイが一気に距離を詰め、前脚で標的を倒した。


「これなら分かりやすい」


イズナも少し手応えを感じたようだった。


だが三度目。


問題が起きる。


イズナが幻を二つ出した。


「増えた?」


本体を含めて三匹。


標的を囲む。


見た目は強い。


しかし。


ソラが攻撃位置を迷った。


レイも一瞬遅れる。


ルークなど完全に分からない。


「止めよう!」


イズナが幻を消す。


「増やせばいいってわけじゃないね」


尾が下がる。


「責めてないよ」


ルークはしゃがんだ。


「たぶんイズナは一匹で戦うなら、いっぱい見せた方が強い。でも今は四匹いる」


イズナが仲間を見る。


プル。


レイ。


ソラ。


そしてルーク。


「みんなが使える幻にした方が、もっと強いと思う」


数ではなく位置。


騙すこと自体ではなく、相手を動かすために使う。


それがイズナの役割になりそうだった。




次の訓練では方法を変えた。


幻は一体だけ。


敵の正面ではなく、逃がしたい方向とは反対側。


イズナの幻が右。


レイが左。


標的役としてプルが伸ばした触手を動かす。


幻に押される形で触手が逃げる。


その先。


ソラが急降下する。


風だけで進路を変える。


さらにルークが石を投げる。


今度は中央近くに当たった。


「当たった!」


以前なら偶然だった。


今は動く対象を見ながら、ある程度狙える。


レイが標的へ飛び込む。


最後にプルが別の触手で拘束。


一連の流れが止まらなかった。


「もう一回」


イズナが自分から位置につく。


ルークは少し驚いた。


昨日までは、こちらの指示に従うこと自体ほとんどなかった。


二度目。


三度目。


失敗もする。


ルークの石が外れ、ソラの進路と重なった。


プルが早く触手を出しすぎてイズナの幻を突き抜けた。


その度に止めて、位置を直す。


五度目。


幻が敵の右へ。


レイが左から圧力をかける。


ソラが上。


逃げたところへルークの石。


今度は標的の中心へ当たった。


「よし!」


その瞬間。


イズナの身体が淡く光る。


【幻惑 Lv.1 → Lv.2】


「上がった」


ルークはすぐ鑑定する。


見た目に大きな変化はない。


ただ、幻の輪郭が先ほどより自然になっている。


それ以上に。


イズナ自身が、何をすれば仲間が動きやすいのかを理解し始めていた。


スキルだけではない。


使い方が変わった。


それが一番大きい。


「イズナ」


呼ぶ。


振り返る。


「すごく良かった」


イズナは少し顔を逸らした。


尾だけが大きく揺れている。


レイが言う。


「嬉しいらしい」


「分かってるよ」


「なら言うな」


最近、本当に口が達者になってきた。




訓練を終え、町へ戻る途中。


ルークは改めて四匹を見る。


守るプル。


率いるレイ。


空を見るソラ。


惑わせるイズナ。


今までの三匹へ、全く違う役割が加わった。


そして自分も、ただ見て指示するだけではなくなっている。


投石。


杖。


位置取り。


まだ弱い。


でも戦いの中へ入れる時間は確実に増えた。


「三日後か」


依頼書が置かれる石箱。


そこへ行けば、変異の先にいる相手へ近づけるかもしれない。


その前に。


ルークはイズナを見る。


新しい仲間になったばかりだ。


まだ知らないことの方が多い。


「明日は気配遮断も試してみようか」


イズナの耳が立つ。


「ぷる!」


なぜかプルまでやる気だ。


「プルは隠れるの苦手そうだけど」


青い身体が固まった。


レイが横を向く。


ソラは上空で鳴いた。


イズナの尾が僅かに揺れる。


笑ったように見えた。


四匹になった旅は、まだ始まったばかりだった。

最後までありがとうございます!

今後も個性の違う魔物たちが登場していきます。

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