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魔物使いの進化論 ~最弱スライムから始める神話級魔物育成~  作者: 庵


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第42話「並んで戦う」



古い施設を出た頃には、空がすっかり赤く染まり始めていた。


負傷したミストフォックスはプルの背に乗せ、捕獲を請け負っていた男はレイの前を歩かせる。小狐はその二匹の間を行き来しながら、何度も後ろを振り返っていた。


「日が落ちる前に、少しでも安全な場所まで戻りたいな」


ルークはハルトから借りた地図を開く。


来た時にソラが見つけた経路をそのまま戻るのが一番安全だ。ただし今は、負傷した狐と人間一人を連れている。


速度は出せない。


「ソラ、先をお願い」


「ピィ!」


ゲイルホークへ進化したソラが飛び上がった。


一度の羽ばたきで高さを稼ぎ、そのまま木々の上へ消える。


「昨日までと全然違うな……」


飛び立った後に残った風で、ルークの前髪が揺れた。


進化直後だというのに、飛翔そのものが一段上がっている。


男が空を見上げた。


「その鳥、昨日までウィンドホークじゃなかったか?」


「知ってるんですか?」


「遠目に見た。お前らが施設に来た時にな」


ルークの視線が男へ戻る。


「見てた?」


「施設へ入る前だ。あんな派手な鳥が飛んでりゃ分かる」


「派手じゃないよ」


思わず言うと、ソラが遠くから鳴いた。


聞こえていたらしい。


男が呆れたような顔をする。


「そこ否定するところか?」


ルークも少し考えた。


確かに今のソラはかなり目立つ。


「……次から気をつけよう」


「遅い」


レイが横から言った。


また負けた気がした。




しばらくは順調だった。


ソラが安全な道を選び、レイが足元の匂いを確認する。


プルは負傷したミストフォックスを揺らさないよう、身体を平たく保ったまま進んでいた。


その周囲を小狐が歩く。


ルークから離れすぎることはなくなった。


ただ、こちらから近づけば少し距離を取る。


まだ完全には信用されていない。


それでいい。


むしろ、それくらいの方が自然だった。


「お前、本当に契約してないのか?」


男が小狐を見る。


「まだです」


「なのについてくる?」


「この子の都合で」


「変な話だな」


「そうですか?」


「普通の魔物使いなら、とっくに契約を試す」


ルークは少し黙った。


「嫌がってる相手と契約しても、たぶん上手くいかないから」


男は鼻で笑った。


「効率悪そうだな」


「そうかもしれません」


反論しなかった。


共生契約は便利な魔法ではない。


命令できない。


勝手に動く。


時には言うことも聞かない。


それでもルークは、その方が好きだった。


「でも、選んでくれた仲間は強いですよ」


前を歩くレイの耳が少しだけ動いた。


プルが「ぷる」と小さく鳴く。


男は何も言わなくなった。




西湿地の中央に差しかかる頃、ソラが急降下してきた。


鳴き方が違う。


警戒。


レイもすぐに止まった。


「前にいる」


「何匹?」


「六……いや、七」


ルークは周囲を確認する。


左は浅い沼。


右には低木。


後ろへ戻れば施設方面。


戦えない地形ではない。


「種類は?」


ソラが西側を向いて鳴く。


その直後、低木が揺れた。


現れたのはポイズンフロッグ。


一匹。


二匹。


続く。


【ポイズンフロッグ Lv.8】


【ポイズンフロッグ Lv.9】


【ポイズンフロッグ Lv.8】


低レベル。


以前なら警戒した相手。


今なら十分倒せる。


だが最後に出てきた二匹だけは違った。


【ポイズントード Lv.17】


【ポイズントード Lv.18】


「蛙に囲まれたな」


男が言う。


「笑ってる場合じゃないです」


「笑ってねえよ」


レイが前へ出る。


「俺とプルで止める」


「待って」


ルークは一歩前へ出た。


昨日までなら、レイに任せていたかもしれない。


しかし今は負傷者もいる。


プルも運搬中。


普段通りの戦い方はできない。


「プルはそのままミストフォックスを守って。前に出なくていい」


「ぷる?」


「今日は僕もやる」


レイが振り返った。


何か言いたそうだったが、止めなかった。


ルークは投石紐を取り出した。


右手に杖。


左腰に石袋。


以前なら両方を同時に扱うだけで手間取っていた。


今は違う。


杖を片手で構えたまま、もう片方で石をセットする。


共生恩恵で身体が少しずつ思い通りに動くようになった。


まだ速くはない。


それでも、前より確実だ。


「ソラ、上からトードを牽制。レイは右!」


戦闘が始まった。




三匹のポイズンフロッグが跳んだ。


毒液。


ルークの危険察知が反応する。


来る。


頭で考えるより先に身体を横へずらした。


一発目が肩の横を通過。


二発目は地面。


三発目だけが正面。


杖を振る。


毒液そのものを弾くのではない。


近くの泥を払う。


跳ね上げた泥が壁になり、毒液を受けた。


「……できた!」


プルが以前使った方法。


それを真似した。


レイが一匹を倒す。


ソラの風刃が上空からポイズントードの進路を塞いだ。


ルークは投石紐を回す。


狙う。


ポイズンフロッグの喉。


放つ。


命中。


紫色に膨らんでいた喉が潰れ、毒液が横へ逸れた。


「一発で当てた……」


自分で言ってから、油断した。


左から別の一匹。


近い。


投石紐を使う暇はない。


ルークは杖を両手に持ち替えた。


飛びかかってくる。


一歩下がる。


避けきれない。


なら止める。


杖の先を下から突き上げた。


顎。


手応え。


ポイズンフロッグの身体が浮く。


完全には倒れない。


だが着地が崩れた。


「レイ!」


「遅い」


銀灰色の影が通過した。


終わる。


「それでも来てくれたじゃん」


「呼ばれたからだ」


冷たい。


ただ、少しだけ口元が緩んでいる気がした。


その時。


小狐が動いた。




小狐の姿が二つになる。


【幻惑 Lv.1】


一匹が左。


一匹が右。


ポイズントードが反応する。


右へ向きを変えた。


「いい!」


ルークが声を上げる。


小狐がさらに走る。


幻の自分を敵の前へ出し、こちらから視線を逸らす。


狙いは分かる。


ただ。


「レイ、右――」


レイが一瞬止まった。


「どっちだ」


ルークも目を瞬いた。


小狐の幻が、仲間から見ても本物と区別できない。


ポイズントードだけではない。


こちらまで騙されている。


その一瞬を敵は逃さなかった。


Lv18のポイズントードが大きく跳ぶ。


狙いはプル。


正確には、その背にいる負傷したミストフォックス。


「プル!」


プルは逃げられない。


ミストフォックスを落とすからだ。


ソラが急降下する。


間に合わない。


レイも幻惑で一瞬遅れた。


ルークが走った。


考える前に。


プルの前へ。


「ルーク!」


レイの声。


大きな影が落ちてくる。


杖を横に構える。


無理だ。


力では勝てない。


なら、受けない。


危険察知が強く反応する。


正面ではない。


少し右。


ルークは半歩だけ左へずれた。


杖を斜めに出す。


ポイズントードの前脚が杖へ触れた瞬間、押し返さずに流す。


身体が横へ逸れた。


完全ではない。


肩へ衝撃。


ルークは地面を転がった。


それでもポイズントードはプルへ届かなかった。


「っ……!」


すぐ起きる。


以前なら痛みで止まっていた。


今は身体が動く。


レイから得た敏捷。


プルから得た身体操作。


積み重なった共生恩恵。


ルークは杖を地面について立ち上がった。


「まだ!」


ポイズントードが振り返る。


投石紐。


石を入れる。


回す。


一回。


二回。


狙うのは、目ではない。


足元。


放つ。


石が泥へ突き刺さる。


泥が跳ねた。


ポイズントードが反射的に目を閉じる。


「ソラ!」


風刃。


直撃。


身体が傾く。


その先にレイ。


爪撃。


決まった。


巨大な蛙が倒れる。


【ポイズントードを討伐しました】


残る敵も長くは持たなかった。


ソラが一匹。


レイが二匹。


最後の一匹は、小狐が再び幻を出した。


だが今度は違った。


幻を仲間の近くへ出さない。


敵の外側。


逃げ道だけに置く。


ポイズンフロッグが幻から逃げる。


進む先には。


「プル、今!」


運搬を終えたわけではない。


それでも一本だけなら使える。


触手が伸びた。


脚を払う。


倒れたところへルークの石。


頭部へ直撃。


戦闘が終わった。




「……今の、合わせてくれた?」


ルークが小狐を見る。


小狐は何も答えない。


ただ尾を一度だけ動かした。


最初の幻惑では、仲間まで混乱させた。


二度目は位置を変えた。


自分で修正した。


レイも気づいたらしい。


「頭はいい」


「褒めた?」


「事実だ」


「最近それ便利に使ってない?」


レイは無視した。


小狐はレイを見て、それからルークを見る。


少し迷う。


そして歩いてきた。


距離が縮まる。


いつもなら三歩ほど残して止まる。


今日は違う。


ルークのすぐ前まで来た。


肩へ鼻先を近づける。


先ほどポイズントードにぶつけられた場所。


「大丈夫だよ」


痛い。


だが折れてはいない。


小狐が匂いを嗅ぎ、今度はルークの手を見る。


少し前。


この子を助けようとして傷ついた時にも、似たことがあった。


ルークは手を出さない。


待つ。


小狐の方から一歩進む。


額が、ルークの指先へ触れた。


ほんの一瞬だった。


すぐ離れる。


しかし。


表示が浮かんだ。


【信頼行動を確認しました】


【信頼関係:2/3 → 3/3】


ルークは息を止めた。


続きがある。


【共生契約の条件を満たしました】


だが。


契約は発動しない。


「……あれ?」


以前とは違う。


条件は満たした。


それなのに契約されない。


小狐も何かを感じているようだった。


ルークを見る。


その後、背後。


プルの上で眠るミストフォックス。


さらに施設がある西の方角。


まだ何か残っている。


「今じゃないんだね」


小狐の耳が動く。


ルークは笑った。


「分かった」


無理に契約しない。


条件を満たしたからといって、今すぐ選ばなければならないわけではない。


それこそ共生契約のはずだ。


「君が決めていいよ」


小狐はしばらくルークを見ていた。


やがて、今度は離れなかった。


ルークの横を歩き始める。


レイが前へ向き直る。


「行くぞ」


「うん」


ルークは杖を握り直した。


肩は痛む。


投石もまだ完璧ではない。


レイのように速くもなければ、プルのように守れもしない。


それでも今日、自分の足で仲間の前へ出られた。


少しずつでいい。


魔物たちだけではなく。


ルーク自身も、確かに強くなっていた。

最後までありがとうございます!

今後も個性の違う魔物たちが登場していきます。

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