↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物使いの進化論 ~最弱スライムから始める神話級魔物育成~  作者: 庵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/73

第33話「成長の加速」



翌朝、ルークは冒険者ギルドの訓練場で石を拾っていた。


昨日マッドリザードの尾を腹に受けた場所にはまだ鈍い痛みが残っている。治療を受けるほどではなかったが、湿地へ戻る前にできることがあると考え、朝から投石紐の練習を始めていた。


「……また外れた」


放った石は木製の標的から大きく右へ逸れ、地面を二度跳ねて壁際まで転がった。


レイが無言でその軌道を目で追う。


プルは標的の横で身体を揺らし、ソラは柵の上からルークを見下ろしていた。


「そんな目で見なくても、昨日始めたばかりだからね」


レイが顔を背ける。


なぜか余計に悔しい。


ルークはもう一つ石を入れた。


投石紐を回し、標的を見る。


敵を倒す必要はない。


狙うのは顔、脚、あるいは攻撃の直前。


昨日のように自分が前へ出てマッドリザードの尾を受けるくらいなら、離れた場所から一瞬でも動きを止められた方がいい。


投げる。


今度は標的の端に当たった。


「よし」


「ぷる!」


プルだけは素直に喜んでくれた。


その直後、ソラが嘴で小石を一つ弾いた。


転がった石が標的の中央付近に当たる。


偶然だ。


それでもソラは得意そうに胸を張った。


「……絶対、今の偶然だからね」


「キィ」


朝から妙に腹が立った。


ギルドへ戻ると、昨日対応してくれた男性職員が待っていた。


机の上には簡単な地図が広げられている。


「昨日の報告を確認した。毒性の件は、こっちでも調べる」


「前からあったんですか?」


「いや。少なくとも、普通のマッドリザードから毒が出たなんて記録は俺は知らん」


男性は地図の西側を指で叩いた。


「それと昨日拾った木札の持ち主だが、名前はハルト。ここを拠点に五年近く活動してる。湿地の地形には詳しい」


「そんな人が十二日も……」


「だから捜索は出してる。ただし奥へ入る依頼は今のところ止めてる」


ルークは地図を見る。


「昨日の場所は?」


「まだ浅い。町から半日もかからん」


それでも異常は起きていた。


ルークは少し考えた。


行方不明者を探したい気持ちはある。


だが昨日、自分で追わないと決めたばかりだ。


情報も経験も足りない。


「今日は奥には行きません」


男性がルークを見る。


「その代わり、町に近い場所で魔物を調べながら戦いたいです。湿地での戦い方を覚えたいので」


「なら南西側へ行け。西の異常区域からは外れてる。マッドクラブとポイズンフロッグが多いが、今のお前たちなら相手にはなる」


そこで男性はプルを見た。


「ただし、毒を舐めるなよ」


「分かりました」


「昨日、尻尾を腹に食らった奴の返事としては信用しづらいがな」


ルークは何も言い返せなかった。


南西側の湿地は、昨日の場所より開けていた。


浅い水場と小さな陸地が点在し、その間を背の低い草が埋めている。


ルークは最初から戦う場所を決めた。


中央にある乾いた陸地。


周囲を見渡せる。


「今日は無理に追わない。こっちに誘い込んで戦おう」


レイが周囲の匂いを確認する。


ソラは空へ。


プルはルークの隣で待機する。


しばらくすると、ソラが一度大きく旋回した。


合図。


ルークたちはそちらへ向かった。


いたのは三匹のマッドクラブだった。


昨日も見た魔物だ。


【マッドクラブ】


【Lv:5】


【甲殻 Lv.1】


【挟撃 Lv.1】


「三匹か」


以前なら一匹ずつ慎重に戦ったかもしれない。


だが今のプルとレイにとって、Lv5は明確に格下だ。


「プル、任せるよ」


「ぷる!」


プルが跳ねた。


三匹のマッドクラブが鋏を上げる。


その瞬間、プルの身体から三本の触手が同時に伸びた。


一匹目の鋏を押さえる。


二匹目の脚を絡め取る。


三匹目は甲殻ごと持ち上げた。


「ぷるぅ!」


そのまま地面へ叩きつける。


一撃。


マッドクラブの身体が泥へ沈んだ。


残る二匹が左右から挟もうとする。


プルは逃げない。


身体の前面を硬化させる。


鋏が当たる。


弾かれた。


次の瞬間、二本の触手が同時に動いた。


一匹を水辺へ。


もう一匹を反対側の地面へ。


ほとんど一方的だった。


【マッドクラブを討伐しました】


【マッドクラブを討伐しました】


【マッドクラブを討伐しました】


ルークは思わず笑った。


「強くなったな、プル」


「ぷる!」


キングスライムへの進化を改めて実感する。


昨日はLv15のマッドリザードを相手にしたため分かりにくかったが、以前のプルとは身体能力そのものが違う。


そして表示が浮かんだ。


【プルのLvが上がりました】


【Lv:1 → 3】


「二つ?」


進化直後だったことに加え、これまで蓄積した戦闘経験も影響しているのかもしれない。


さらに表示が続く。


【変形 Lv.2 → Lv.3】


ルークの目が輝いた。


「プル、触手を増やせる?」


プルが身体を震わせる。


一本。


二本。


三本。


そして四本目。


以前より細い。


それでも確かに動いている。


「四方向……!」


プル自身も面白いらしく、四本を別々に動かし始めた。


一本で石を拾い、一本で草を触り、一本でルークの肩を叩く。


最後の一本がレイの尻尾へ伸びる。


レイが振り返った。


「プル、それはやめた方が――」


遅かった。


触手が尻尾に触れる。


レイが低く唸った。


プルは即座に全部引っ込めた。


ソラが上空から鳴いた。


笑っているように聞こえた。


その後もルークたちは浅い区域で戦いを続けた。


今度は四匹のポイズンフロッグ。


【Lv:7】


【Lv:8】


【Lv:8】


【Lv:10】


毒液があるため油断はできない。


しかし正面から近づく必要はなかった。


「ソラ、上から追い込んで!」


ソラが高度を落とす。


一匹が毒液を吐いた。


ソラは翼を傾けて回避する。


そのまま背後へ回り込み、風刃を水面へ叩き込んだ。


水と泥が跳ね上がる。


驚いた四匹が一斉に陸地へ逃げる。


そこにレイがいた。


「レイ、左から!」


疾走。


以前なら一匹へ飛びかかっていた。


だが今回は違う。


レイは攻撃せず、逃げ道を塞ぐように走った。


右にはプル。


上にはソラ。


四匹のポイズンフロッグが一か所へ集まる。


「今!」


プルの四本の触手が伸びた。


二匹を同時に捕らえる。


残る二匹が跳んだ。


一匹はレイが迎え撃つ。


爪撃。


空中では方向を変えられない。


首元へ直撃する。


もう一匹がルークの方向へ飛んだ。


「こっちか!」


ルークは投石紐へ石を入れた。


回す。


狙う。


朝の練習を思い出す。


倒す必要はない。


軌道を変えればいい。


放つ。


石は狙った頭ではなく、ポイズンフロッグの肩へ当たった。


それでも十分だった。


空中で身体が傾く。


着地に失敗した。


「プル!」


一本の触手が飛んでくる。


地面へ落ちたポイズンフロッグを捕らえ、そのまま引き寄せる。


レイが仕留めた。


【ポイズンフロッグを討伐しました】


【ポイズンフロッグを討伐しました】


【ポイズンフロッグを討伐しました】


【ポイズンフロッグを討伐しました】


ルークは投石紐を握ったまま、自分の手を見る。


当たった。


狙った場所ではない。


それでも戦闘中に使えた。


「もう一回やれば、もう少し上手くできそうだ」


レイが近づき、石の当たった場所を見る。


それからルークを見る。


「何、その顔」


レイは何も言わず歩いていった。


褒めているのか、まだ下手だと言っているのか分からない。


戦闘を重ねるほど、湿地での動き方が分かってきた。


水辺へ追わない。


泥に入らない。


ソラの空からの視界で敵の位置を把握し、レイが逃げ道を制限する。プルが複数をまとめて止め、ルークは全体を見ながら指示と牽制に回る。


山で戦っていた頃とは違う。


四人になったからできる戦い方だった。


そして昼過ぎ。


五匹目のポイズンフロッグを倒した直後、待っていた表示が現れた。


【レイのLvが上がりました】


【Lv:19 → 20】


ルークの呼吸が止まる。


「レイ」


レイも何かを感じたのか、こちらを振り返った。


ルークはすぐに進化条件を確認する。


【進化候補:ダイアウルフ】


【進化条件】


【Lv:20/20 達成】


【疾走 Lv.3:達成】


【爪撃 Lv.3:達成】


【気配察知 Lv.3:達成】


【群体戦闘:達成】


【特殊条件:???】


「やっぱり、まだ一つ残ってる」


レイが近づく。


ルークは表示を見ながら考えた。


レベルではない。


スキルでもない。


群れで戦うことも達成している。


なら最後に必要なのは、行動か。


プルのキングスライム進化と同じように。


「何をすればいいんだろう」


答えは表示されない。


レイは一度だけ鼻を鳴らした。


焦っているようには見えなかった。


ルークはその頭へ手を伸ばす。


レイは避けなかった。


「まあ、分からないなら試していこう」


その時、別の表示が浮かんだ。


【共生恩恵が強化されました】


【敏捷補正:小】


【感覚補正:小】


【危険察知:微弱 → 小】


ルークは目を見開いた。


直後。


背筋がぞくりとした。


考えるより先に身体が動いた。


「伏せて!」


ルークはプルを押しながら地面へ倒れ込んだ。


ほぼ同時に、頭上を何かが通過する。


太い舌。


さっきまでルークの首があった場所を薙いでいった。


「何だ!?」


草むらの奥。


巨大な影が動く。


今まで倒していたポイズンフロッグとは大きさが違う。


立ち上がればルークの胸近くまである。


黒に近い緑色の皮膚。


背中には紫色の斑点。


【種族:ポイズントード】


【Lv:18】


【毒液 Lv.3】


【舌撃 Lv.3】


【跳躍 Lv.3】


【毒耐性 Lv.2】


「上位種……!」


ポイズントードの喉が膨らむ。


ルークは即座に動いた。


「散って!」


紫色の毒液が飛ぶ。


プルは右。


レイは左。


ルークは後ろへ。


ソラは上空へ逃げる。


毒液が地面へ落ちた。


草が変色する。


「触らないで!」


ポイズントードが跳んだ。


狙いはレイ。


速い。


だが今のレイも速い。


疾走で横へ抜ける。


巨大な身体が地面へ着地した瞬間、ルークは投石紐を回した。


「こっち!」


石を放つ。


今度は頭ではない。


大きく膨らんだ喉。


命中した。


ポイズントードの身体が僅かに仰け反る。


毒液が途中で漏れ、地面へ落ちた。


「当たった!」


喜ぶ暇はない。


「ソラ!」


風刃が飛ぶ。


目元。


ポイズントードが顔を逸らす。


「レイ!」


疾走。


死角へ。


爪撃。


後脚を深く切る。


ポイズントードが反転するが、そこにはもうレイはいない。


「プル!」


四本の触手。


前脚。


後脚。


胴体。


逃げ道。


一斉に絡みつく。


ポイズントードが暴れる。


以前のプルなら引きずられていた。


今は違う。


キングスライムの身体が地面へ広がり、四本の触手が別々の方向から巨体を押さえ込む。


「ぷるぅぅ!」


「そのまま!」


ルークは走った。


スタッフを両手で握る。


狙うのは、レイが傷つけた後脚。


振り下ろす。


一撃。


骨までは折れない。


だがポイズントードの身体が傾く。


その瞬間、レイが動いた。


ルークが指示するより早かった。


爪撃が首元へ入る。


ソラも続く。


風刃。


同じ場所。


プルが身体を捻った。


巨大な蛙が横倒しになる。


「レイ!」


最後の爪撃。


深く入った。


ポイズントードの身体から力が抜ける。


【ポイズントードを討伐しました】


数秒。


誰も動かなかった。


ルークは毒液が飛んでこないことを確認してから、ようやくスタッフを下ろした。


「……勝った」


昨日のマッドリザード戦とは違う。


相手は強かった。


一撃でもまともに受ければ危険だった。


それでも今回は、戦いの主導権をほとんど渡さなかった。


プルの進化。


レイの成長。


ソラの加入。


そして自分の投石。


全部が噛み合った。


「強くなってる」


その言葉に、プルが大きく跳ねた。


ソラが鳴く。


レイだけはいつも通りだったが、尾が一度だけ左右に動いた。


表示が続く。


【プルのLvが上がりました】


【Lv:3 → 5】


【硬化 Lv.3 → Lv.4】


さらに。


【ソラのLvが上がりました】


【Lv:7 → 9】


【風刃 Lv.1 → Lv.2】


「ソラも!」


ソラが翼を広げる。


風が集まった。


試すように離れた水面へ風刃を放つ。


昨日までより明らかに大きい。


水面が一直線に割れた。


「すご……」


ルークが言い終わる前に、水しぶきが全部こちらへ飛んできた。


頭から水を被る。


プルも濡れる。


レイは直前に避けていた。


「ソラ」


「キィ」


悪びれる様子はない。


「あとで練習しようね」


ソラは聞こえないふりをして飛び上がった。


帰る前に、ルークはポイズントードを確認した。


この個体は元々毒を持つ。


だから体内から毒性が確認されても異常とは言えない。


プルに吸収させるのは避けた。


その代わり周囲を調べる。


そこでレイが反応した。


ポイズントードが出てきた草むら。


その奥に、小さな水溜まりがある。


水の色が違った。


僅かに紫がかっている。


「これ……」


近づこうとした瞬間、危険察知が反応した。


昨日までより明確だった。


身体が近づくことを拒むような感覚。


ルークは足を止める。


「触らない方がいい」


ソラを呼び戻す。


プルも近づけない。


レイは水溜まりの周囲を嗅ぎ、少し離れた場所へ移動した。


そこに足跡があった。


人間のもの。


古い。


半分消えている。


それでも一方向へ続いている。


西。


昨日見つけた革袋の場所と同じ方向だった。


「また西か……」


ルークは追わなかった。


代わりに地図を出し、水溜まりの位置を書き込む。


今日の目的は強くなること。


湿地での戦い方を覚えること。


その二つは達成できた。


レイはLv20。


プルとソラも成長した。


自分も投石を戦闘で使えるようになった。


十分な成果だ。


それでもルークは、地図につけた印から目を離せなかった。


昨日の場所。


今日の水溜まり。


二つを線で結ぶ。


その先にあるのは、草木の色が暗く変わっていた区域だった。


そしてその方向を見つめていたレイが、突然低く唸った。


ルークが顔を上げる。


レイは遠くを見ているのではない。


自分の足元を見ていた。


泥の上に残された人間の足跡。


そのすぐ隣。


同じ方向へ続く、大きな獣の足跡があった。


ルークはしゃがみ込み、大きさを確かめる。


狼に似ている。


だがレイのものより、二回り以上大きい。


レイはその足跡へ鼻を近づけたまま、しばらく動かなかった。


やがて顔を上げる。


西を見る。


そして普段とは違う、短く鋭い唸り声を漏らした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。