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魔物使いの進化論 ~最弱スライムから始める神話級魔物育成~  作者: 庵


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第28話 風の向かう先

翌朝、ルークが目を覚ました時には、ウィンドホークはすでに岩の上で翼を広げていた。


朝日を受けた青灰色の羽が淡く輝き、昨日まで動かすことさえ難しかった左翼も、今日はかなり大きく広げられている。完全に治ったわけではないが、少なくとも地上を歩くしかなかった昨日とは明らかに違っていた。


「かなり良くなったね」


ルークが近づいても、ウィンドホークは逃げなかった。左翼に巻いていた布を外して傷を確認すると、深かった傷口は塞がり始めている。


「今日は少しだけ飛んでみる?」


「キィ!」


待っていたと言わんばかりの返事だった。


ウィンドホークは岩の端まで歩くと、左右の翼を大きく広げた。そのまま地面を蹴り、朝の空へ身体を浮かせる。


「飛んだ!」


「ぷる!」


プルが嬉しそうに跳ねた。


ウィンドホークは一度大きく羽ばたき、岩場の上を低く飛んでいく。まだ左翼を庇っているため身体がわずかに傾いているが、それでも昨日とは比べものにならないほど動きは軽い。


十メートルほど飛んだところで旋回し、ルークたちの頭上を通過する。そのまま近くの岩へ着地すると、得意そうに胸を張った。


「やっぱり空にいる方が似合うね」


「キィ!」


「ぷる!」


プルが負けじと身体を上へ伸ばした。


高さだけなら自分も負けていないと言いたいらしい。


「それは飛んでるんじゃなくて、伸びてるだけだからね」


「ぷる……」


しゅんと身体が縮む。


その様子を見たウィンドホークが、小さく鳴いた。


「今、笑った?」


ウィンドホークは何も知らないというように顔を逸らした。


プルは不満そうに身体を揺らしている。


少し離れた場所にいたレイも二匹の様子を見ていたが、不意に耳を前へ向けた。尻尾の動きが止まり、身体がゆっくりと起き上がる。


「レイ?」


レイは山の方を見ながら低く唸った。


昨日アイアンアントを見つけた時とは反応が違う。身体全体が緊張し、何かを強く警戒している。


「何かいるの?」


レイが見ているのは、グランゼルの北側に広がる山岳地帯だった。


しばらくすると、遠くから鳥の鳴き声が聞こえてきた。


一つではない。


複数の甲高い鳴き声が、山の方から重なるように響いてくる。


「ハーピー……?」


その瞬間、ウィンドホークの様子が変わった。


先ほどまで穏やかだった目つきが鋭くなり、山の方へ身体を向ける。翼を広げた時には、明らかに飛び立とうとしていた。


「待って。まだ完全に治ってないよ」


ルークが止めようとしたが、ウィンドホークは地面を蹴った。


試すための飛行とは違う。


強く羽ばたきながら一気に高度を上げ、そのまま山へ向かって飛んでいく。


「追おう!」


ルークはすぐに荷物を背負った。


プルが肩へ飛び乗り、レイはすでに走り出している。ウィンドホークがあれほど強く反応した以上、昨日襲ってきたハーピーと何か関係がある可能性が高い。


ルークもレイを追って走り出した。


山へ戻る途中、ウィンドホークの姿は何度か見えなくなった。


それでもレイが匂いと気配を追ってくれるため、完全に見失うことはない。昨日とは違う道を進み、グランゼル周辺の山をさらに北へ回り込んでいく。


やがて木々が少なくなり、巨大な岩壁が見えてきた。


その上空を複数の影が飛んでいる。


「いた……!」


ハーピーだった。


三体、四体と数えていくと、全部で七体もいる。


そして群れの中心には、一匹のウィンドホークがいた。


「無茶だよ!」


傷が治りきっていない状態で七体を相手にしている。


ただし、一方的に追われているわけではなかった。


背後から迫ったハーピーの鉤爪を直前でかわし、ウィンドホークはそのまま身体を捻る。翼を振ると【風刃 Lv.1】が飛び、追ってきたハーピーの翼を浅く切り裂いた。


今度は二体が左右から挟み込もうとする。


ウィンドホークは翼を畳み、一気に高度を落とした。


【急降下 Lv.2】。


岩壁すれすれまで降下し、二体の間を抜けていく。


「やっぱり空中だと全然違う……」


怪我をしていても、飛ぶことさえできれば動きは別物だった。


それでも七対一という状況は変わらない。


長く戦えば必ず捕まる。


「レイ、下から追うよ!」


ルークたちも岩場へ入った。


一体のハーピーがこちらへ気づき、急降下してくる。


「プル!」


プルの触手が伸びた。


しかし昨日の戦いを見ていた個体なのか、ハーピーは直前で身体を捻り、触手を避けながら再び上昇する。


「同じやり方じゃ駄目か」


レイも地上から追うが、高度を取られてしまえば爪は届かない。


その時、上空のウィンドホークが大きく鳴いた。


「キィィッ!」


一体のハーピーへ向かって急降下する。


正面からぶつかるかと思った瞬間、ウィンドホークは直前で身体を横へ逸らした。


驚いたハーピーが回避する。


だが、その先にはプルが待っていた。


「プル!」


「ぷるぅ!」


触手が伸び、ハーピーの脚へ巻きついた。


今度は避けられない。


ウィンドホークがハーピーの逃げる方向を限定し、プルが待ち構えていた場所へ追い込んだのだ。


「引きずり下ろして!」


プルが身体を縮めるようにして触手を引き、ハーピーを地面へ引き寄せる。


そこへレイが走った。


【疾走 Lv.3】で一気に加速し、落ちてきたハーピーの着地点へ先回りする。そのまま【爪撃 Lv.3】を叩き込み、一体目を仕留めた。


「今の、僕たちに合わせたのか」


ウィンドホークはすでに上昇していた。


昨日一緒に戦ったことで、プルとレイが何をできるのか理解したのだろう。


「だったら僕たちも合わせよう」


ルークは上空を見る。


二体のハーピーがこちらへ向かっていた。


「プル、すぐには触手を出さないで。レイも待って」


二匹がその場で構える。


ハーピーが高度を下げてくる。


ルークは攻撃してくる二体ではなく、さらに上空を飛ぶウィンドホークを見ていた。


こちらへ向かっている。


「今!」


ウィンドホークが一体の背後へ急降下した。


背後から迫られたハーピーが慌てて進路を変える。


もう一体もつられて横へ逃げた。


そこへプルの触手が伸びる。


二本の触手が左右から逃げる二体のうち一体を捕らえ、翼と脚へ同時に絡みついた。


地面へ落ちたところへレイが飛び込む。


もう一体は上昇しようとした。


しかしルークはその動きを予想していた。


近くの岩へ駆け上がり、高さを稼ぐ。


ハーピーが目の前を通過した瞬間、スタッフを両手で振り抜いた。


金属で補強された先端が翼の付け根へ直撃し、ハーピーの飛行が大きく乱れる。


その瞬間、上空から【風刃】が飛んできた。


ルークが攻撃したのと同じ翼へ命中する。


ハーピーは体勢を維持できず、そのまま地面へ墜落した。


「レイ!」


一体を倒したばかりのレイが方向を変える。


墜落したハーピーへ駆け寄り、首元へ【爪撃 Lv.3】を振り抜いた。


これで三体。


残りは四体。


「いける!」


ルークがそう思った時だった。


山全体へ響くような鳴き声が聞こえた。


これまでのハーピーとは違う。


低く、力強い。


空気そのものを震わせるような声だった。


上空を飛んでいた四体のハーピーが一斉に離れていく。


逃げたわけではない。


何かのために道を開けている。


「何だ……?」


巨大な影が岩壁の向こうから現れた。


ハーピーだった。


しかし大きさが違う。


通常個体の倍近い身体に、太く発達した翼を持っている。脚から伸びる鉤爪は人間の腕ほどもあり、頭部には赤黒い羽が冠のように並んでいた。


ルークは息を呑みながら【従魔鑑定】を使った。


【種族:ハーピークイーン】


【Lv:24】


【スキル】


【飛翔 Lv.4】


【風刃 Lv.3】


【鉤爪 Lv.3】


【威圧 Lv.2】


「Lv24……」


グランゼルへ来てから戦ったどの魔物よりレベルが高い。


しかも飛行型。


今のルークたちにとって、最も戦いにくい相手でもある。


ハーピークイーンが鳴いた。


それだけで残っていた四体のハーピーが一斉に動き始める。


先ほどまでとは明らかに動きが違った。


二体がウィンドホークを狙い、残り二体がルークたちへ向かってくる。その間もハーピークイーン自身は高い位置を保ち、戦場全体を見下ろしていた。


「群れを指揮してるのか」


まるで戦場を支配しているようだった。


その時、ルークの足元でプルが動いた。


「ぷる……」


いつもより低い声だった。


プルはハーピークイーンだけを見ているわけではない。


周囲にいる敵。


レイ。


ウィンドホーク。


そしてルーク。


全ての位置を確認している。


「プル?」


一本の触手が伸びた。


敵を攻撃するためではない。


レイの前へ伸ばし、その先端を右側へ向ける。


レイがそれを見る。


次の瞬間、迷うことなく右へ走った。


そこへ一体のハーピーが急降下してくる。


レイは攻撃を受ける寸前で横へ跳び、鉤爪を避けた。


同時にプルが触手を伸ばす。


狙ったのはレイではなく、攻撃を終えたハーピーが通過する場所だった。


触手が脚へ絡みつく。


「ぷる!」


レイが反転し、【爪撃 Lv.3】を叩き込んだ。


一体が地面へ落ちる。


「今、レイに動きを指示した……?」


ルークは驚いてプルを見る。


偶然かもしれない。


だがプルはもう一度触手を動かした。


今度は上空を指す。


そこにいるのはウィンドホーク。


「キィ!」


ウィンドホークも反応した。


一体のハーピーを追い、地上へ向かって追い込んでいく。


プルは複数の触手を広げて逃げ道を狭める。


ウィンドホークが追い込む。


プルが進路を限定する。


その先でレイが待つ。


三匹の動きが一つに繋がった。


ハーピーが地面へ落ちる。


レイが飛び込む。


そして敵が動かなくなった直後、ルークの目の前に表示が浮かんだ。


【統率行動を確認しました】


【複数個体との連携を確認しました】


【仲間からの自発的な追従を確認しました】


【統率行動:2/3】


「二つ目……!」


ついに条件が進んだ。


前回は野生のスライムたちを守り、安全な場所へ導いた。


今回は違う。


プル自身が仲間の動きを見ながら考え、レイとウィンドホークへ自分の意図を伝えた。


キングスライムに必要な統率とは、同種の魔物を従えることだけではないのかもしれない。


「自分で考えて、仲間を動かすこと……?」


プルはもうルークを見ていなかった。


ハーピークイーン。


残ったハーピー。


レイ。


ウィンドホーク。


全てを見ながら、自分にできることを考えている。


ルークはその姿を見て笑った。


「いいよ、プル。やってみよう。僕も合わせる」


「ぷる!」


力強い返事だった。


しかし、ハーピークイーンはそれ以上好きにさせてくれなかった。


巨大な翼が振られた瞬間、周囲の空気が歪む。


「来る!」


放たれたのは【風刃 Lv.3】だった。


ウィンドホークの【風刃 Lv.1】とは威力も大きさもまるで違う。巨大な三日月状の風が岩場を切り裂きながら迫り、ルークたちは左右へ散って回避した。


直後、背後で大きな音が響く。


風の刃が地面へ当たり、硬い岩が砕け散った。


「これをまともに受けたらまずい……!」


ハーピークイーンが再び翼を振る。


二発目。


今度の狙いはウィンドホークだった。


ウィンドホークは空中で回避しようとしたが、まだ完全に治っていない左翼では素早く方向を変えられない。


「危ない!」


風刃が迫る。


その瞬間、青い触手が空へ伸びた。


プルの触手がウィンドホークの脚へ巻きつき、強く引く。


突然身体を下へ引かれたことでウィンドホークの高度が落ち、その頭上を風刃が通過していった。


「キィ!?」


驚いたウィンドホークがプルを見る。


「ぷる!」


プルはすぐに触手を離した。


ウィンドホークは翼を羽ばたかせ、再び体勢を立て直す。


しかし、その隙をハーピークイーンは見逃さなかった。


巨大な身体が急降下する。


狙いはプル。


「プル!」


レイが走り出す。


ルークも地面を蹴る。


だが間に合わない。


ハーピークイーンの巨大な鉤爪がプルへ迫る。


その間へ青灰色の影が飛び込んだ。


「キィィッ!」


ウィンドホークだった。


至近距離から放たれた【風刃 Lv.1】がハーピークイーンの顔へ直撃する。


威力では敵わない。


それでも突然顔へ攻撃を受けたことで、ハーピークイーンの身体がわずかに逸れた。


巨大な鉤爪がプルのすぐ横へ突き刺さり、地面を砕く。


「ぷる!」


プルがウィンドホークを見る。


ウィンドホークも空中からプルを見た。


昨日までは、近づくだけで嘴を向けていた二匹だった。


今は互いに助け合っている。


まだ契約すらしていない。


それでもウィンドホークは、もう一匹だけで戦ってはいなかった。


「全員で倒そう」


ルークはスタッフを構え直した。


レイが隣へ立つ。


プルが一歩前へ出る。


ウィンドホークはルークたちの上空を旋回した。


相手はLv24のハーピークイーン。


これまで戦ってきた中で最も強い魔物だった。


それでも今なら戦える。


四人で力を合わせれば、届くかもしれない。


ハーピークイーンがさらに高度を上げた。


周囲の風が集まり始める。


一つではない。


複数の風の刃が、巨大な身体の周囲へ次々と生まれていく。


「次が来るよ!」


プルが身体を低くする。


レイもいつでも走り出せるように構える。


ウィンドホークは空中で翼を広げ、ハーピークイーンから目を離さない。


ルークもスタッフを両手で握り直した。


ここから先は、一度の失敗が致命傷になる。


それでも逃げるつもりはなかった。


プルの進化条件。


ウィンドホークとの共闘。


そして目の前にいる、これまでで最も強い敵。


その全てを乗り越えるため、ルークは三匹の位置を確認した。


「行こう。四人で倒す」


ハーピークイーンが巨大な翼を振り下ろした。


同時に複数の風刃が放たれ、岩場を切り裂きながらルークたちへ襲いかかってきた。

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