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魔物使いの進化論 ~最弱スライムから始める神話級魔物育成~  作者: 庵


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第20話 次の目的地

レイがハイウルフへ進化してから、十日が経った。


その間、ルークたちはほとんど毎日のように森へ入り、依頼をこなしていた。


ゴブリン、オーク、フォレストボア。


時には複数の魔物を相手にしながら、プルとレイは着実に経験を積んでいく。


もちろん、ただレベルを上げているだけではない。


「プル、右!」


「ぷる!」


ルークの声に反応し、プルから三本の触手が伸びる。


一体のオークが正面から迫っていた。


一本目が棍棒を持つ右腕へ絡みつき、二本目が左足を拘束する。


残る一本はオークの横を通り過ぎると、途中だけを【硬化】させた。


硬化した部分を支点にして触手の向きが変わり、背後の木へ巻きつく。


「引いて!」


プルの身体が大きく縮む。


腕、足、そして背後の木。


三方向から引かれたオークの巨体が完全に止まった。


「グオォォ!」


力任せに暴れるが、以前のプルとは違う。


【硬化 Lv.2】。


必要な部分だけを硬くすることで、身体全体への負担を減らしながら相手の動きを封じている。


そこへ銀灰色の影が駆け込んだ。


レイだ。


【疾走 Lv.2】で一気に距離を詰め、オークの横を通り抜ける。


【爪撃 Lv.2】。


鋭い爪が脇腹を切り裂いた。


「グアッ!」


オークがレイへ顔を向ける。


だが、その瞬間にはもうレイはいない。


【気配察知 Lv.2】で周囲の状況を捉えながら、相手が反撃するより早く死角へ移動している。


「僕も!」


ルークも走った。


オークが振り向こうとした瞬間、【危険察知:微弱】が反応する。


来る。


ルークは足を止めた。


直後、オークの腕が目の前を通過する。


攻撃が空振りした瞬間に懐へ入り込み、父から教わった通りに身体を回転させながら棒を振り抜く。


膝。


ゴッ!


「グッ!」


オークの身体が崩れた。


そこへプルが一本の触手を解除し、体内へ取り込んでいた石を先端まで移動させる。


【吸収】。


【変形】。


そして【硬化】。


三つのスキルを組み合わせた一撃。


石を包み込んだ触手が大きくしなり、オークの頭へ叩き込まれた。


巨体が地面へ倒れる。


「よし!」


だが、戦闘はまだ終わっていない。


背後では二体のゴブリンがレイを囲んでいた。


いや。


囲んでいるつもりなのだろう。


レイは慌てていない。


一体目が剣を振り上げるより早く、身体を低く沈める。


【疾走】。


一瞬だけ加速して相手の横へ抜けた。


追おうとした二体目の動きを【気配察知】で捉え、今度は反対方向へ切り返す。


二体のゴブリンが互いにぶつかりそうになる。


その瞬間だけ、レイの速度が上がった。


【爪撃】。


一体目の脚。


体勢が崩れる。


さらに身体を反転させ、もう一体の腕へ爪を振るう。


武器が落ちる。


「プル!」


「ぷる!」


青い触手が二本、レイの左右を通り抜けた。


レイは振り返らない。


プルの攻撃が来ることを理解している。


二本の触手がそれぞれゴブリンへ絡みつく。


レイが跳ぶ。


一体。


着地。


そのまま二体目。


わずか数秒で戦闘が終わった。


「……本当に強くなったな」


ルークは棒を肩へ乗せながら、二匹を見た。


十日前とはまるで違う。


プルは【変形】と【硬化】を組み合わせ、複数の触手を別々に動かせるようになっていた。


攻撃。


拘束。


防御。


一つの身体で、複数の役割を同時にこなせる。


レイも同じだ。


ハイウルフへの進化で得た【気配察知】と元々持っていた【疾走】の相性が良い。


相手の動きを読み、攻撃される前に最適な位置へ移動する。


そこへ【爪撃】を組み合わせることで、戦闘そのものを支配し始めていた。


そして。


ルーク自身も変わっている。


プルから得た身体操作。


レイから得た感覚と敏捷。


まだ二匹ほど強くはない。


それでも、以前のように後ろから指示を出しているだけではなくなった。


二匹が作った隙へ飛び込み、敵を崩す。


敵の注意を引きつけ、二匹へつなぐ。


三人で戦う。


それが少しずつ形になってきていた。


表示が現れる。


【経験値を獲得しました】


【プル Lv:14 → Lv:15】


【レイ Lv:8 → Lv:9】


「プルは十五。レイももう九か」


「ぷる!」


プルが嬉しそうに跳ねる。


レイも尻尾を振った。


ハイウルフへ進化したばかりだったレイが、もうLv9。


ここ最近は少し強い相手を狙っているため、成長も早い。


「そろそろ今までと同じ相手じゃ、物足りなくなってきたかな」


レイがルークを見る。


プルも身体を揺らす。


否定する気配はなかった。


夕方。


討伐証明を持って冒険者ギルドへ戻ると、受付の職員が少し驚いた顔をした。


「また全部倒したんですか?」


「はい。オーク三体とゴブリン六体です」


「……最近、討伐速度が上がってません?」


ルークはプルとレイを見る。


「二匹が強くなったので」


「ぷる!」


レイは何事もなかったように座っている。


受付の職員は依頼書と記録を何度か確認してから、少し考え込んだ。


「ルークさん。ちょっと待っててもらえます?」


「はい?」


奥へ消えていく。


しばらくして戻ってきた時、その手には一枚の紙があった。


「ギルド内で確認しました。これだけ安定して討伐依頼を達成しているなら、もうFランクに留めておく必要はないだろうということで」


紙が差し出される。


【冒険者ランク昇格】


【F → E】


「……上がった」


「おめでとうございます。今日からEランクです」


「ぷる!」


ルークより先にプルが喜んだ。


「プルのランクじゃないんだけどね」


レイの尻尾も動いている。


「レイも嬉しいんだ」


すぐに止まった。


「分かりやすいのになあ」


ルークは新しくなった冒険者証を受け取った。


E。


たった一段階。


それでも。


村を出たばかりの頃から考えれば、大きな一歩だった。


「これで受けられる依頼も増えますよ」


受付の職員が、別の依頼板を指差した。


Fランクの時には選べなかった依頼。


討伐対象を見る。


オーガ。


キラービー。


ロックリザード。


知らない名前もある。


ルークの目が輝いた。


「こんなにいるんだ……」


「この辺りにはあまりいませんけどね」


「え?」


「リーベル周辺は比較的安全な地域なんです。Eランク以上の魔物も出ますが、種類はそれほど多くありません」


受付の職員が地図を取り出した。


リーベル。


その周囲の森。


さらに外。


ルークがこれまで見たことのない広い世界が描かれている。


「魔物を中心に依頼を受けたいなら、ここなんか面白いと思いますよ」


指が。


リーベルから北東へ移動する。


山。


その麓。


大きな都市。


「グランゼル?」


「鉱山都市グランゼルです。ここから馬車で五日くらいですね」


リーベルより。


明らかに大きい。


周囲には森林だけではなく、山岳地帯や洞窟、鉱山まであるらしい。


「出る魔物は?」


思わず聞いた。


職員が笑う。


「やっぱりそこですか」


「すみません」


「ロックリザード、アイアンアント、オーガ、洞窟にはケイブスパイダー。山の上にはハーピーもいるって聞きます」


「ハーピー……!」


知らない魔物。


知らない生態。


知らないスキル。


もしかしたら。


知らない進化。


胸が高鳴る。


「ただ、リーベルより危険ですよ。Eランクになったからって、すぐ行く必要はありません」


「はい」


返事をしながらも。


ルークの目は。


地図から離れなかった。


その夜。


宿の部屋。


ルークはベッドの上へ祖先の『魔物観察録』を広げていた。


グランゼル。


その名前は。


記録の中にもあった。


何ページか探す。


見つける。


『北東山岳地帯に生息する魔物は、平地の個体とは性質が大きく異なる』


さらに。


『ロックリザードは岩を食すとされる。しかし、観察した個体によって体表の色と硬度に差があった』


「食べる物で……」


ルークがプルを見る。


【吸収】。


プルの進化にも。


素材が関係していた。


さらにページをめくる。


『山岳部の狼種は大型化する傾向があり、平地のウルフとは異なる群れを形成する』


今度は。


レイ。


レイも気づいたらしい。


本へ近づく。


「行ってみたい?」


尻尾。


一度。


「僕も」


プルを見る。


「プルは?」


「ぷる!」


即答。


「聞くまでもなかったね」


ルークは笑った。


この町には。


慣れてきた。


ギルドにも。


森にも。


魔物にも。


でも。


それは。


少し違う気がした。


自分が村を出た理由。


冒険者になること。


強くなること。


それだけではない。


「僕は……もっと見たい」


世界には。


どんな魔物がいるのか。


どんな場所で暮らし。


何を食べ。


どう戦い。


そして。


何へ進化するのか。


前世では。


画面の中だった。


知らないモンスターを見つけるたびに。


何時間でも調べた。


育てた。


進化させた。


でも。


今は違う。


本当に。


そこにいる。


「だったら、一つの町にずっといる必要はないよね」


プルが揺れる。


レイもルークを見る。


「世界中を回ろう」


口にしてみると。


不思議なくらい。


しっくりきた。


「色んな場所に行って、色んな魔物を見よう。戦って、調べて、僕たちも強くなる」


いつか。


プルがどこまで進化するのか。


レイが何になるのか。


そして。


この世界には。


どれだけの魔物がいるのか。


全部。


見てみたい。


「まずはグランゼル」


地図の。


次の都市。


ルークが指を置く。


「準備したら、出発しよう」


「ぷる!」


レイの尻尾も。


大きく振られた。


その時。


ルークは思い出した。


「そうだ。プルの進化も確認しないと」


キングスライム。


十日前。


一部だけ条件が見えるようになった。


情報を開く。


【キングスライム】


【進化条件】


【Lv:15/20】


【統率行動:???】


【スキル条件】


【硬化 Lv.2:達成】


【変形 Lv.2:達成】


【吸収 Lv.2:達成】


【特殊条件:???】


「レベル二十……!」


初めて。


必要レベルが表示された。


あと五。


スキル条件は。


すでに達成している。


「思ったより近い」


「ぷる?」


「プル。キングスライムまで、あと少しかもしれない」


「ぷる!」


嬉しそうに跳ねる。


だが。


まだ。


【統率行動】。


そして。


【特殊条件】。


二つが残っている。


「この辺りで分からないなら……」


ルークは。


地図を見る。


知らない土地。


知らない魔物。


知らない環境。


「旅をしながら探せばいい」


答えが。


この町にあるとは限らない。


むしろ。


世界中に。


散らばっているのかもしれない。


プルの進化も。


レイの進化も。


自分の【魔物使い】という職業も。


まだ。


知らないことばかりだ。


だから。


行く。


次の町へ。


その次へ。


もっと。


遠くへ。


ルークは地図を眺めながら。


まだ見たこともない魔物たちを。


思い浮かべていた。

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