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魔物使いの進化論 ~最弱スライムから始める神話級魔物育成~  作者: 庵


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第19話 王への一歩

翌朝、冒険者ギルドへ向かう道を歩きながら、ルークは昨日表示されたプルの進化条件について考えていた。


【キングスライム】


【進化条件】


【Lv:???】


【統率行動:0/?】


【スキル条件:???】


【???】


ハイスライムへの進化条件は比較的分かりやすかった。レベルを上げ、【吸収】と【変形】を成長させ、特定の素材を取り込む。


だが、今回は違う。


「キングだから統率……。やっぱり誰かを率いるってことなのかな」


「ぷる?」


足元を跳ねながら進んでいたプルが、自分のことだとは分かっていない様子でルークを見上げる。


「プルが王様になるための条件だよ」


「ぷる!」


「絶対分かってないでしょ」


それでも嬉しそうに跳ねるプルを見て、ルークは苦笑した。


その隣を歩いていたレイが、ちらりとプルを見る。


「レイ。プルが王様になるかもしれないよ」


レイはしばらくプルを見つめた後、何事もなかったように前を向いた。


「今、無理だと思った?」


「ぷる!?」


プルが抗議するように大きく跳ねる。


「大丈夫。僕も今のプルから王様はあんまり想像できないから」


「ぷるる!」


「冗談だって」


レイの尻尾がわずかに揺れた。


どうやら笑っているらしい。


こうして二匹と一緒にいる時間が長くなるほど、言葉がなくても何を考えているのか少しずつ分かるようになってきた。


特にレイは頭がいい。


こちらの言葉も、簡単なものならほとんど理解しているように見える。


「そのうち本当に喋ったりしてね」


何気なく言った言葉に、レイの耳がぴくりと動いた。


ルークは気づかなかった。


この日は、プルとレイのスキルを鍛きながらレベルも上げられる依頼を選ぶことにした。


掲示板を眺めていると、ちょうど良さそうな一枚が見つかる。


【討伐・調査依頼】


【対象:ゴブリン】


【場所:西部森林】


【内容:増加傾向にあるゴブリンの討伐及び生息状況の確認】


【推奨ランク:F】


「これにしよう。森を広く動くなら、レイの【気配察知】も鍛えられそうだ」


レイが依頼書を見上げ、尻尾を一度振った。


受付で手続きを済ませ、そのまま西部森林へ向かう。


森へ入ってから、ルークは意識的にレイへ索敵を任せた。


「今日はできるだけ遠くから敵を見つけてみよう。見つけたら教えて」


レイはすぐに意味を理解したらしい。


歩く速度を少し落とし、周囲へ意識を向け始めた。


ハイウルフへ進化する前は、鼻と耳を頻繁に動かしていた。しかし【気配察知】を覚えてから、その動作は明らかに減っている。


時折立ち止まり、静かに森を見るだけ。


それでも。


「……何かいる?」


レイが顔を向けるより少し遅れて、ルークの胸の奥にもわずかな違和感が走った。


共生恩恵による【危険察知:微弱】だ。


まだ敵の場所や数までは分からない。ただ、近くに何か危険なものがいることだけは感じ取れる。


レイが左を向く。


「左?」


尻尾が一度動いた。


ルークとプルが後を追い、百メートルほど進んだところで木々の向こうに二体のゴブリンを発見した。


「こんなに遠くから分かるのか……。やっぱり【気配察知】はかなり便利だな」


レイが少しだけ胸を張る。


「褒めるとレイも意外と分かりやすいね」


すぐに元へ戻った。


「そこまでプルの真似しなくてもいいんだけど」


「ぷる?」


「プルは何もしてないよ」


ゴブリンは二体。


今の三人なら苦戦する相手ではない。


「レイは右。プルは左。僕は二匹の間を見る」


ルークの指示と同時に、二匹が左右へ分かれた。


ゴブリンがこちらに気づいた時には、すでにレイが【疾走 Lv.2】で一体の側面へ回り込んでいる。


もう一体が棍棒を振り上げた。


プルから二本の触手が伸びる。


一本目は正面。


ゴブリンが警戒して棍棒を構えたところで、プルは触手の途中だけを【硬化】させた。


硬化した部分を支点に、柔らかい先端が大きく曲がる。


正面から来ると思っていた触手がゴブリンの横を通り過ぎ、そのまま背後から腕へ巻きついた。


「引いて!」


「ぷる!」


ゴブリンの腕が後ろへ引かれ、身体が大きく仰け反る。


そこへルークが踏み込み、棒を腹へ叩き込んだ。


一撃。


さらに膝へ二撃目。


ゴブリンが崩れたところで、プルが別の触手を槍のように尖らせる。


【硬化】。


青い槍がゴブリンを捉えた。


その瞬間、ルークは違和感を覚えた。


「……今の」


以前より、硬い。


攻撃を受けた時のプルの身体の崩れ方が明らかに少なかった。


「プル。もう一回【硬化】を使ってみて」


「ぷる?」


残る一体は、レイがすでに追い詰めている。


倒すのではなく、【疾走】を短く使いながら左右へ回り込み、ゴブリンの逃げ道を塞いでいた。


「レイ、こっちに誘導して!」


レイがすぐに方向を変えた。


ゴブリンの背後へ回り、ルークたちの方へ追い込んでくる。


「プル、正面から!」


プルが触手を伸ばす。


ゴブリンが棍棒で迎撃した。


ガンッ!


硬い音が響く。


しかし、プルの触手は崩れなかった。


逆に、ゴブリンの持っていた古びた棍棒へ亀裂が走る。


「やっぱり!」


同時に表示が現れた。


【スキル熟練度が一定値に到達しました】


【硬化 Lv.1 → Lv.2】


「プル、【硬化】がLv2になった!」


「ぷる!」


嬉しそうにプルが跳ねる。


その隙に逃げようとしたゴブリンの前へ、レイが無言で回り込んだ。


「あ」


レイがルークを見る。


「……ごめん。まだ戦闘中だった」


最後はレイの【爪撃 Lv.2】がゴブリンを仕留めた。


戦闘を終えたところで、ルークはすぐに【硬化 Lv.2】の性能を確かめることにした。


「まず、いつも通り一本だけ」


プルが触手を伸ばし、先端を硬化させる。


触れてみると、Lv1の時より明らかに密度が増していた。


「じゃあ、二本同時は?」


二本の触手が伸び、両方の先端が濃い青へ変わる。


問題ない。


「三本はどう?」


「ぷる……!」


少し苦しそうに身体を震わせながらも、三本目が伸びた。


時間はかかったが、三本すべての先端が硬化する。


「できるんだ……」


プルは以前から複数の触手を同時に伸ばすことはできた。


だが、すべてを攻撃に使うほど器用に硬化させることは難しかった。


今なら。


「プル、あの木に三本同時」


「ぷる!」


一本目が正面。


二本目が右。


三本目は木の横を通り過ぎ、途中を硬化させて方向を変える。


三方向からほぼ同時に触手が襲いかかった。


ガガガッ!


木の幹に三つの傷が刻まれる。


「すごい。これなら複数の敵を同時に止めることもできそうだ」


「ぷる!」


プルが得意そうに大きく膨らんだ。


「本当に褒めるとすぐ調子に乗るね」


レイが近づき、前脚を上げる。


ぽす。


プルの頭へ置いた。


「ぷる!」


なぜかプルはさらに嬉しそうだった。


「それ、褒められてるのかな……」


その後も森を進みながら、ルークたちはゴブリンとの戦闘を重ねた。


二体。


三体。


また二体。


ただ倒すだけではない。


ルークは意識的に、二匹自身に考えさせるようにしていた。


「レイ。次に敵を見つけたら、僕じゃなくてプルに場所を教えてみて」


レイが首を傾げる。


「敵がどこにいるか、プルに伝えるんだ」


レイがプルを見る。


プルも見返した。


「ぷる」


やってみる。


そんな感情が共生契約を通じて伝わってきた。


しばらく進むと、レイが突然立ち止まった。


【気配察知】。


だが今度は、ルークを見なかった。


代わりにプルを見る。


そして、顔を右へ向けた。


「ぷる?」


もう一度。


右。


プルが理解したらしい。


音を立てないように右側へ移動する。


レイは反対側。


ルークは中央。


三人が少しずつ距離を詰めると、その先に三体のゴブリンがいた。


「ちゃんと伝わってる……」


左右へ分かれた二匹が、ほぼ同時に飛び出した。


レイが一体を追い込めば、その逃げ道へプルが触手を伸ばす。


別のゴブリンがプルを狙えば、レイが【疾走】で間へ入る。


ルークが細かく指示しなくても、二匹が互いの動きを見て判断している。


「僕の仕事、どんどん減ってない?」


「ぷる!」


「それ慰めてる?」


その瞬間、胸の奥に強い違和感が走った。


右。


ルークは反射的に身体を沈めた。


頭上を棍棒が通過する。


「危なっ!」


死角から近づいていたゴブリンだった。


だが以前とは違う。


驚いて身体が固まらない。


ルークはすぐに踏み込み、棒を相手の手首へ叩き込んだ。


棍棒が落ちる。


続けて足を払う。


ゴブリンが倒れた瞬間、青い触手がルークのすぐ横を通過した。


プルの攻撃。


ルークは避けなかった。


正確には。


避ける必要がないと分かった。


触手が自分の頬からほんの少し横を通過し、倒れたゴブリンへ突き刺さる。


「……今の」


プルを見る。


「ぷる?」


以前なら怖かったはずだ。


自分のすぐ近くを攻撃が通る。


だが今は、プルがどこを狙っているのか何となく分かる。


共生契約を結んだ直後は、伝わってくるのは曖昧な感情だけだった。


それが一緒に戦い続けることで、少しずつ変化している。


敵意。


狙っている場所。


動こうとしている方向。


言葉ではない。


それでも、分かる。


「もしかして……もっと近い距離でも連携できる?」


ルークの頭に、新しい戦い方が浮かんだ。


次の戦闘。


ゴブリン四体。


今度はルークが一体へ正面から向かった。


棍棒が振り下ろされる。


【危険察知:微弱】が反応する。


ルークは半歩横へ移動し、棍棒を避けた。


そのまま棒を腹へ。


ゴッ!


ゴブリンがよろめく。


左から何かが来る。


プル。


ルークは見なかった。


一歩だけ後ろへ下がる。


直後、青い触手が目の前を通り過ぎ、ゴブリンの腕へ巻きついた。


「今!」


プルが引く。


ルークが踏み込む。


棒を膝へ叩き込む。


ゴブリンが崩れる。


その瞬間。


背後。


危険。


ルークは反射的にしゃがんだ。


銀灰色の身体が頭上を飛び越えていく。


レイ。


【疾走 Lv.2】。


背後から近づいていた別のゴブリンへ、そのまま【爪撃 Lv.2】を叩き込んだ。


「すごい……!」


ルークは思わず笑った。


見なくても。


二匹がどこにいるのか。


何をしようとしているのか。


完全ではない。


それでも、分かる。


「もう一回!」


ルークが前へ出る。


プルの触手がその横を抜ける。


レイがルークの背後から飛び出す。


誰かが攻撃すれば、誰かが隙を埋める。


誰かが狙われれば、別の誰かが助ける。


三人が、まるで一つの生き物のように動く。


四体のゴブリンは、ほとんど反撃できないまま倒れていった。


「今の戦い方、かなり良かったよね」


戦闘後。


ルークが息を整えながら言うと、プルが勢いよく跳ねた。


レイの尻尾も大きく動いている。


三人とも、同じ手応えを感じていた。


「これも共生契約の力なのかな」


魔物を従わせるのではない。


一方的に命令するだけでもない。


互いを知り。


互いの動きを理解し。


一緒に戦うほど、連携が深くなる。


それこそが【共生契約】の本当の強さなのかもしれない。


その時、レイの前に新しい表示が現れた。


【スキル熟練度が一定値に到達しました】


【気配察知 Lv.1 → Lv.2】


「レイも上がった!」


レイの耳が勢いよく立った。


「ぷる!」


プルがレイの周りを跳ねる。


レイも珍しく少しだけ胸を張った。


「二匹とも、そういうところ似てきたよね」


プルとレイが同時にルークを見る。


「……何でもないです」


経験値も順調に増えていた。


【プル】


【Lv:11 → Lv:12】


【レイ】


【ハイウルフ Lv:3 → Lv:5】


「レイはもうLv5か。進化したばかりなのに早いな」


格上の相手を倒していることもあり、レイは一気にレベルを戻し始めている。


プルもLv12。


この調子なら、次の進化もそう遠くない。


問題は。


【キングスライム】の条件だった。


ルークが進化情報を開く。


【キングスライム】


【進化条件】


【Lv:12/??】


【統率行動:0/?】


【スキル条件:???】


【???】


「変わってないか……」


今日、プルはレイと何度も連携した。


時にはプルの動きにレイが合わせる場面もあった。


それでも【統率行動】はゼロ。


「仲間と連携することとは違うんだな」


そもそもレイは、プルの部下ではない。


同じルークと共生契約を結んだ仲間だ。


ならば、キングスライムに必要な統率とは何なのか。


その時だった。


プルが突然、森の奥へ身体を向けた。


「ぷる?」


ほぼ同時にレイも立ち止まる。


【気配察知 Lv.2】を覚えたばかりのレイが、じっと森の奥を見つめている。


「何かいる?」


レイはすぐには動かなかった。


敵を見つけた時とは反応が違う。


ルークも意識を集中してみる。


【危険察知:微弱】に反応はない。


「危険じゃない……?」


レイがゆっくり歩き始めた。


「行ってみよう」


ルークとプルも後を追った。


しばらく森の奥へ進むと、小さな水場が見えてきた。


そして、その周囲を見たルークは思わず足を止める。


「スライム……」


一匹。


二匹。


三匹。


さらに奥にもいる。


全部で七匹ほど。


青く、小さく、ぷるぷると揺れている。


どこにでもいる普通のスライムだった。


ハイスライムへ進化する前のプルと、ほとんど変わらない。


「プルと同じだね」


「ぷる……」


プルが七匹をじっと見つめる。


いつもとは少し違う声だった。


同じ種族だからなのか。


近づいてみたい。


そんな感情がルークにも伝わってきた。


だが、プルが一歩進んだ瞬間だった。


「ギャギャッ!」


森の奥から、耳障りな声が響く。


「ゴブリン!」


現れたのは四体。


どうやら水場へ来たらしい。


野生のスライムたちが一斉に震え、逃げ始める。


だが遅い。


ゴブリンの一体が、最も近くにいたスライムへ棍棒を振り上げた。


「プル!」


ルークが叫ぶより早かった。


プルが飛び出す。


青い身体を大きく広げ、逃げ遅れたスライムの前へ入った。


棍棒が振り下ろされる。


【硬化 Lv.2】。


ガンッ!


鈍い音が響いた。


プルは正面から棍棒を受け止める。


「ぷるっ!」


そして。


振り返った。


逃げ遅れていたスライムたちへ向かって、強く声を上げる。


「ぷる!」


七匹が止まる。


プルを見る。


もう一度。


「ぷる!」


今度は。


七匹が一斉に動いた。


水場の奥へ逃げていく。


「今……」


ルークは目を見開いた。


言葉は分からない。


それでも。


分かった。


プルは今。


逃げろ。


そう伝えた。


「レイ!」


考えるのは後だ。


ルークが棒を握ると、レイがすぐに【疾走】で飛び出した。


四体程度なら、今の三人にとって大きな脅威ではない。


レイが一体の背後へ回り込み、【爪撃】で注意を引く。


二体がレイへ向かう。


残る二体へプルが三本の触手を伸ばした。


【硬化 Lv.2】。


二本が腕を止め、残る一本が足へ巻きつく。


「そのまま!」


ルークが一体へ踏み込む。


棒を腹へ叩き込み、体勢を崩す。


プルの触手がルークの肩越しを抜け、ゴブリンの胸へ突き刺さる。


振り返る必要はない。


レイが戻ってくるのが分かる。


「右!」


ルークが一歩左へ避けた直後、レイが【疾走】で横を通過した。


【爪撃 Lv.2】がゴブリンを切り裂く。


残り二体。


一体をプルが拘束。


もう一体をレイが追い込む。


ルークはレイが作った隙へ入り、棒を振り抜いた。


もう。


三人で戦うことに。


ほとんど迷いはなかった。


最後のゴブリンが倒れる。


ルークはすぐに野生のスライムたちを探した。


少し離れた水場の奥。


七匹。


全員いる。


「よかった……」


プルもそちらへ身体を向けた。


「ぷる……」


すると。


七匹の中から一匹が、ゆっくりと近づいてきた。


途中で何度も止まる。


それでも。


プルの前まで来た。


「ぷる……」


小さく鳴く。


プルも返す。


「ぷる」


何を話しているのか、ルークには分からない。


ただ。


怖がってはいない。


それだけは分かる。


やがて二匹目が近づく。


三匹目。


四匹目。


最後には、七匹すべてがプルの周りへ集まっていた。


ハイスライムへ進化し。


自分たちより大きく。


自分たちを守ってくれたプルを。


七匹のスライムたちが見上げている。


「…………」


ルークは何も言わず、その光景を見ていた。


プルは命令していない。


従わせてもいない。


危険から守り。


逃げるように伝えた。


その結果。


七匹の方から。


プルのところへ集まってきた。


その瞬間。


新しい表示が現れた。


【特殊条件を確認しました】


「……!」


ルークはすぐにプルの進化情報を開く。


【キングスライム】


【進化条件】


【Lv:12/??】


【統率行動:1/10】


【スキル条件:???】


【???】


「一……」


数字が増えた。


間違いない。


これが。


【統率行動】。


「そういうことか」


王だからといって。


力で従わせればいいわけではない。


自分より弱い者を守る。


導く。


そして。


相手の意思で。


ついてきてもらう。


少なくとも。


その一つが。


キングスライムへの条件になっている。


「プル」


「ぷる?」


七匹のスライムに囲まれたプルが、いつもと変わらない様子で振り返る。


ルークは思わず笑った。


「王様への一歩だよ」


「ぷる?」


やはり。


本人は。


何も分かっていなかった。

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