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魔物使いの進化論 ~最弱スライムから始める神話級魔物育成~  作者: 庵


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第18話 スキルの組み合わせ

レイがハイウルフへ進化してから、三日が経った。


ルークたちは今日も森に来ていた。目的はレベル上げだが、それだけではない。


「今日は、スキルの使い方を色々試してみたいんだ」


「ぷる?」


プルが小さく跳ね、レイも興味を示すように耳を動かした。


これまでの戦闘では、覚えたスキルを必要な場面で使ってきた。【変形】なら身体を伸ばし、【硬化】なら身体を固くする。【疾走】なら速く走り、【爪撃】なら爪で攻撃する。


もちろん、それだけでも十分に強い。


だがルークは、前世で育成ゲームをやり込んでいた頃から、単純に強いスキルを覚えるだけでは満足できない性格だった。


どの能力と組み合わせるのか。どんな状況で使うのか。


それによって、同じスキルでもまったく違う使い方ができる。


「まずはプルからやってみよう」


「ぷる!」


森の中でも少し開けた場所を選び、ルークは一本の木を指差した。


「いつもみたいに【変形】してみて」


プルの身体から青い触手が伸び、真っ直ぐ木へ向かっていく。


「次は【硬化】。でも、先端じゃなくて途中だけ固くできる?」


プルはしばらく身体を震わせていたが、やがて触手の中央付近だけ色が濃くなった。そこだけが硬化しているらしい。


「その状態で先を曲げてみて」


柔らかい先端部分が、硬化した場所を支点にしてゆっくりと折れ曲がる。


「できた!」


これまでは槍のように真っ直ぐ伸ばしていた触手が、途中で方向を変えられるようになった。


ルークが木の反対側を指差すと、プルは一度木を通り過ぎてから触手を曲げ、そのまま後ろ側へ巻きつかせた。


「そのまま引いて!」


「ぷるっ!」


触手が縮み、木が大きく揺れた。


正面から伸ばすだけなら避けられるかもしれない。しかし、相手の後ろへ回り込ませることができれば、戦い方の幅は大きく広がる。


「次は【吸収】も使ってみよう」


ルークは足元に落ちていた拳ほどの石を拾い、プルの前へ置いた。


プルが石を身体の中へ取り込み、青い身体の中央に石が浮かぶ。


「それを身体の中で移動させられる?」


「ぷる……」


石がゆっくりと動き始めた。


身体の中心から触手へ移り、そのまま先端近くまで運ばれていく。


「そこで【硬化】」


プルの触手の先が固まり、石を包み込んだ。


「そのまま振ってみて」


プルが触手を大きくしならせる。


石を包んだ先端が勢いよく木へ叩きつけられ、鈍い音とともに樹皮が大きくへこんだ。


「……強いな」


槍のように刺すだけではない。


【吸収】で取り込んだ物を重りにし、【変形】で伸ばし、【硬化】で武器として固定する。


三つのスキルを組み合わせれば、まるで鉄球のような攻撃まで作れる。


「プル、これ覚えておこう。かなり使えそうだよ」


「ぷる!」


褒められたのが嬉しいのか、プルは得意そうに何度も跳ねた。


次はレイだった。


ハイウルフへ進化してから、レイの身体能力は大きく上がっている。以前より身体も大きくなり、【疾走】の速度も【爪撃】の威力も明らかに増していた。


だが、ルークが一番気になっていたのは、新しく覚えた【気配察知 Lv.1】だった。


「レイ、この辺りに何かいる?」


レイはその場に立ったまま、ゆっくり周囲を探る。


鼻を動かし、耳を立てる。


それだけではない。


しばらくすると、レイは迷うことなく右手の森へ顔を向けた。


「右?」


尻尾が一度だけ動く。


ルークたちが静かに進んでいくと、少し先の茂みに一匹のフォレストラットがいた。


「本当にいた……」


【嗅覚】は匂いを追う能力だ。


だが【気配察知】は、それとは違う。


姿が見えなくても、風向きが悪くても、生き物がそこにいることを感覚的に捉えているようだった。


「じゃあ、今度はそのまま狩ってみて」


レイが姿勢を低くする。


次の瞬間、地面を強く蹴った。


【疾走 Lv.2】による加速で、銀灰色の身体が一気にフォレストラットとの距離を縮める。


気づいたフォレストラットが逃げ出したが、レイは真っ直ぐ後ろを追わなかった。


相手が逃げようとしている方向を先に読み、少し外側から回り込む。


フォレストラットが慌てて向きを変えた瞬間、レイが再び加速した。


逃げ道を完全に塞いだところで鋭い前脚が振り抜かれ、【爪撃 Lv.2】が一撃で獲物を仕留める。


「……レイ、もう自分で組み合わせてるんだ」


【気配察知】で相手を見つけ、逃げる方向を予測し、【疾走】で先回りする。最後に【爪撃】で仕留める。


ただ速く走って攻撃するのとは、まったく違う。


「自分で考えた?」


レイは何も答えず顔を逸らしたが、尻尾だけが少し動いていた。


「絶対そうじゃん」


「ぷる!」


プルも感心したように跳ねて近づいたが、調子に乗ってそのままレイへ体当たりした。


ぽよん、とぶつかったプルを、レイは前脚で軽く押し返す。


「ぷる!?」


転がるプルを見ながら、ルークは笑った。


「そこは全然変わらないね」


午後からは、実戦で試すことにした。


今日受けてきた依頼は、オーク三体の討伐。


ゴブリンより身体が大きく、力も強い。簡単な武器を使う程度の知能もあり、これまで戦ってきた相手より一段上だ。


ただし、群れは小さい。


今の自分たちなら十分戦えると、ルークは判断していた。


森の奥へ進んでいると、突然レイが足を止めた。


「いる?」


レイの耳が左へ向く。


それとほぼ同時に、ルークも胸の奥がわずかにざわつくのを感じた。


共生恩恵で得た【危険察知:微弱】。


まだ場所までは分からない。


しかし、近くに何か危険なものがいることだけは感じ取れる。


「左だね」


レイが一度尻尾を振る。


少し進むと、木々の向こうに三体のオークが見えた。


一体は棍棒。


一体は斧。


そしてもう一体は素手だった。


ルークは木陰に隠れながら、二匹へ小さな声で指示を出す。


「武器を持ってる二体から崩そう。レイは斧持ち。プルは棍棒持ちを止めて」


プルとレイがそれぞれ相手を見る。


「僕は素手のやつを引きつける」


以前のルークなら、絶対にそんな役目は選ばなかった。


だが今は、プルから得た【身体操作補正】と、レイから得た【敏捷補正】【感覚補正】がある。


もちろんオークを一人で倒せるとは思っていない。


必要なのは、二匹が一体ずつ崩すまで時間を稼ぐことだ。


「無理だと思ったらすぐ合流する。行こう」


最初に動いたのはレイだった。


地面を蹴り、【疾走 Lv.2】で一気に斧持ちの側面へ回り込む。


オークが気づいて斧を振り上げた時には、レイはすでに背後へ抜けていた。


鋭い【爪撃 Lv.2】が背中を切り裂く。


「グオォッ!」


怒ったオークが振り向きざまに斧を薙ぎ払う。


だがレイは、まるで攻撃が来ることを先に知っていたかのように低く身を沈め、その下を滑り抜けた。


【気配察知】。


周囲の敵を見つけるだけではなく、戦闘中の相手の動きまで察知する助けになっているのかもしれない。


レイは一撃入れては離れ、相手が追えば再び【疾走】を使って死角へ回る。


速さを見せつけるような戦いではない。


必要な時だけ一気に加速し、相手に攻撃させて体力を削っている。


「うまい……」


ルークが感心している暇もなく、素手のオークがこちらへ向かってきた。


太い腕が振り下ろされる。


その直前、ルークの胸の奥が強くざわついた。


「っ!」


反射的に横へ飛ぶ。


拳がすぐ横を通過した。


以前なら棒で受けようとしていただろう。


だが今は、相手の肩が動いた瞬間に攻撃が来ることを察知できる。


オークが二撃目を放つ。


ルークは半歩下がって避け、すぐに棒を振り抜いた。


脇腹へ一撃。


「グッ!」


効いてはいる。


しかし倒れない。


続く横薙ぎの腕を避けたつもりだったが、服の端をかすめた。


身体が大きく傾く。


それでも転ばない。


プルから得た【身体操作補正】のおかげか、崩れた姿勢からすぐに踏ん張ることができた。


「まだ!」


今度は膝へ棒を叩き込む。


オークの身体がわずかに沈んだ。


一方、プルは棍棒持ちのオークと戦っていた。


棍棒を振り上げたオークへ、二本の触手が伸びる。


一本は足首へ巻きつき、もう一本は近くの木の枝へ伸びた。


「固定!」


枝に巻きついた部分が【硬化】する。


プルは自分の身体を木へ固定したまま、オークの足を強く引いた。


「グオォ!」


しかし、力はオークの方が上だった。


プルの身体が大きく引き伸ばされる。


「無理しない!」


ルークの声を聞き、プルはすぐに足を離した。


急に抵抗がなくなったことで、オークが勢い余って前へよろめく。


その瞬間、もう一本の触手がオークの身体を通り過ぎた。


以前なら、そのまま空振りだった。


今は違う。


触手の途中を【硬化】させて支点を作り、柔らかい先端だけを曲げる。


オークの背後から回り込み、その首へ巻きついた。


「今だ、プル!」


プルの体内に取り込まれていた石が動く。


【吸収】で保持していた石を、【変形】させた別の触手の先端へ運ぶ。


さらに【硬化】。


石を包んだ触手が、大きくしなった。


ガンッ!


重い一撃がオークのこめかみへ叩き込まれる。


「グッ……!」


巨体がふらつく。


「できた!」


実戦でも使える。


ルークが考えた三つのスキルの組み合わせが、きちんと攻撃として成立していた。


その時、ルークが相手をしていたオークが再び距離を詰めてきた。


今度は両腕を広げて掴みに来る。


避けきれない。


そう判断した瞬間だった。


「ぷる!」


横から伸びてきたプルの触手が、オークの片足へ絡みついた。


体勢を崩したオークへ、ルークが一歩踏み込む。


「ありがとう!」


棒を頭へ振り下ろす。


一撃では倒れない。


もう一度。


オークが膝をついた。


そこへレイが駆け込んできて、首元へ【爪撃】を叩き込んだ。


一体目が倒れる。


「レイ、もう終わったの?」


レイが相手をしていた斧持ちは、すでに血を流して地面へ倒れていた。


どうやら何度も空振りさせた末に、一瞬の隙を狙って急所へ攻撃したらしい。


残るのは棍棒持ちだけ。


「三人で行くよ!」


棍棒がプルへ振り下ろされる。


プルは身体を薄く広げ、【変形】で地面へ張りつくように潰れた。


棍棒が空を切る。


すぐに元の形へ戻り、硬化させた先端を槍のように突き出す。


オークは棍棒で受けた。


ガンッ、と硬い音が響く。


正面からの力比べでは負ける。


プルの先端がわずかに崩れた。


「正面はやめよう!」


その声より早く、レイが走り出す。


【疾走】でオークの横を抜け、注意を引く。


オークがレイへ顔を向けた瞬間、プルの触手が背後から回り込み、棍棒を持つ腕へ絡みついた。


「グオ!?」


引っ張られ、腕が止まる。


そこへレイが正面から一気に踏み込んだ。


【疾走 Lv.2】で作った速度をそのまま乗せ、【爪撃 Lv.2】がオークの腹を深く切り裂く。


巨体が前へ崩れる。


ルークも走った。


以前より身体が軽い。


オークの懐へ入り込み、棒を顎へ振り上げる。


ゴッ、と鈍い音が響いた。


最後はプルだった。


体内に保持していた石を触手の先へ運び、【硬化】。


しならせた触手が横から振り抜かれ、石を包んだ先端がオークの頭を捉えた。


巨体が地面へ倒れる。


「……勝った」


ルークは棒を下ろし、大きく息を吐いた。


プルもレイもすぐには喜ばない。


レイは【気配察知】を使って周囲を確認し、プルも身体を伸ばして木々の間を警戒していた。


数秒してから、レイが座る。


「もういない?」


尻尾が一度動いた。


それを見て、ようやくルークも肩の力を抜いた。


「二匹とも、すごかったよ」


今日の戦いでは、これまでとは明らかに違う手応えがあった。


プルは【吸収】【変形】【硬化】を組み合わせ、一つのスキルだけではできなかった攻撃を作った。


レイも【気配察知】で相手の動きを読み、【疾走】で位置を変えながら【爪撃】を狙っていた。


スキルは、ただ使えばいいわけではない。


組み合わせ方次第で、まったく別の強さになる。


「もっと色々できそうだな」


ルークの頭には、すでに次の案が浮かび始めていた。


プルなら、硬化させる場所や形を変えられる。


吸収する物が石ではなく、もっと重い鉱石ならどうなるのか。


レイなら、【気配察知】と【疾走】を使えば奇襲や索敵だけでなく、仲間への危険を先に察知して助けに入ることもできる。


前世で何時間もスキル構成を考えていた頃と同じ感覚だった。


いや。


目の前でプルとレイが実際に成長していく今の方が、ずっと楽しい。


その直後、表示が現れた。


【経験値を獲得しました】


【プルのレベルが上昇しました】


【Lv:10 → Lv:11】


「プル、上がったよ」


「ぷる!」


続けてレイにも表示が出る。


【レイのレベルが上昇しました】


【ハイウルフ Lv:1 → Lv:3】


「二つ上がった!」


進化したばかりでレベルが低いレイにとって、オーク三体から得られる経験値はかなり大きかったらしい。


レイが少しだけ胸を張る。


「すぐ追いつきそうだね」


「ぷる!」


プルも負けないと言わんばかりに跳ねた。


さらに、もう一つ表示が現れる。


【特定戦闘行動を確認しました】


「……何だ?」


ルークが確認すると、対象はプルだった。


これまで何度見ても条件が隠されていた【キングスライム】の項目に、初めて文字が浮かび上がっている。


【キングスライム】


【進化条件】


【Lv:???】


【統率行動:0/?】


【スキル条件:???】


【???】


「統率行動……?」


ルークは思わずプルを見る。


「ぷる?」


当の本人は何も分かっていない様子で首を傾げている。


キングスライム。


キングという名前。


そして、統率という条件。


「ただ強くなるだけじゃ駄目ってことか」


王になる。


ならば、自分以外の何かを率いる経験が必要なのかもしれない。


だが、ルークはすぐに三匹目を契約するつもりはなかった。


今はまだ、プルとレイをしっかり育てたい。


「契約しなくても、他の魔物と関わる方法はあるかもしれないな」


野生の魔物を助ける。


一時的に行動を共にする。


あるいは、同じ種族の魔物を守る。


統率という言葉だけでは、まだ答えは分からない。


だからこそ面白い。


「プル。次の進化、ちょっと難しそうだよ」


「ぷる……?」


不安そうに揺れるプルへ、ルークは笑いかけた。


「大丈夫。ちゃんと一緒に探すから」


「ぷる!」


隣ではレイも静かに二人を見ている。


レベルを上げる。


スキルを育てる。


新しい使い方を見つける。


そして、進化条件を探す。


三匹目を探さなくても、やることはいくらでもある。


ルークは二匹と並んで町への帰り道を歩きながら、次はどんな戦い方を試そうかと考え続けていた。

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