↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物使いの進化論 ~最弱スライムから始める神話級魔物育成~  作者: 庵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/73

第2話 十二の進化先

【進化候補:12】


「十二……」


ルークはもう一度、その数字を確認した。


見間違いではない。


何度見ても、そこには確かに十二と表示されている。


「ぷる?」


目の前では、傷だらけのスライムが不思議そうに身体を揺らしていた。


どうやらルークに見えている文字は、スライムには見えていないらしい。


「ちょっと待ってね。今、大事なところだから」


「ぷる」


ルークは【進化候補:12】へ意識を向けた。


すると、表示が変化する。


【進化候補】


【ハイスライム】


【条件:???】


【???】


【条件:???】


【???】


【条件:???】


その下にも、同じような表示が続いている。


全部で十二。


しかし、名前が表示されているのは【ハイスライム】だけだった。


残る十一種は、進化先どころか条件すら分からない。


「……なるほど」


ルークの口元が緩んだ。


「そういう感じなんだ」


何でも最初から教えてくれるわけではない。


分かっているのは、このスライムに十二もの進化候補が存在することだけ。


どうすれば進化できるのか。


残り十一種が何なのか。


それは分からない。


「いいね」


「ぷる?」


スライムがまた身体を揺らした。


「いや、ごめん。君の話なんだけどね」


ルークはしゃがみ込み、スライムを見つめた。


目があるのかと言われれば微妙だが、なんとなくこちらを見ていることは分かる。


「君、十二種類も進化できるみたいだよ」


「ぷる」


当然、意味は分かっていないだろう。


「普通のスライムって、そんなに進化先があるのかな……」


ルークの知る限り、そんな話は聞いたことがない。


そもそも魔物の進化そのものが、それほど一般的な知識ではなかった。


長く生きた魔物が、通常より強力な個体になる。


特定の地域では、普通とは異なる魔物が生まれる。


その程度なら知られている。


だが――。


何をすれば。


どんな条件を満たせば。


どの魔物へ変化するのか。


体系立てて研究されているとは言い難い。


少なくとも、村で暮らしてきたルークが読めるような本には載っていなかった。


「ハイスライム……」


名前から考えれば、スライムの上位種だろう。


珍しい魔物ではあるが、父から話を聞いたことがある。


普通のスライムより大きく、身体も丈夫。


それでも冒険者からすれば、それほど恐ろしい魔物ではない。


「まずはこれかな」


最初から正体不明の進化先を狙う必要はない。


何より、条件が分からない。


ならば、分かるところから調べればいい。


前世で育成ゲームをしていた時もそうだった。


ルークは最初から攻略情報を見るより、自分で条件を探す方が好きだった。


「レベルかな。それとも吸収? 変形のスキルレベルも関係するかもしれないし……」


考え始めると止まらない。


特定の食べ物。


特定の敵。


戦闘回数。


生存日数。


スキルの使用回数。


考えられる条件はいくらでもある。


もしかすると、一つではなく複数の条件を同時に満たす必要があるのかもしれない。


「ぷる……」


小さな声がした。


「あ」


そこでようやく、ルークは我に返った。


目の前にいるスライムは瀕死だった。


進化どころではない。


「ごめん!」


「ぷっ!?」


突然大声を出され、スライムがびくりと跳ねた。


「まず傷を治さないとね」


ルークは改めて傷を確認した。


薬草を吸収したおかげなのか、先ほどより流れ出す液体は減っている。


それでも深い傷であることに変わりはない。


このまま森に置いていくわけにはいかなかった。


「家に連れて帰ろう」


「ぷ……」


ルークが手を伸ばした瞬間。


スライムが震えた。


ルークの手が止まる。


「…………」


まだ怖いのだ。


当然だった。


人間に傷つけられたばかりなのだから。


契約を結んだからといって、その恐怖が突然消えるわけではない。


「大丈夫」


ルークは伸ばした手を引っ込めた。


「無理やり連れていったりしないよ」


言葉が通じているかは分からない。


それでもルークは、少し離れた場所に腰を下ろした。


「歩けるようになるまで待つから」


「ぷる……」


それからしばらく。


ルークは何もしなかった。


ただ隣に座っていた。


時々、スライムが身体を揺らす。


ルークもちらりと見る。


目が合ったような気がする。


そんなことを何度か繰り返した。


やがて。


「ぷる」


スライムの身体が少しだけ伸びた。


ゆっくり。


本当にゆっくりと。


ルークの方へ近づいてくる。


そして、革靴に触れた。


「……来る?」


「ぷる」


今度はルークが手を差し出した。


スライムは逃げなかった。


両手ですくい上げる。


ひんやりとしていて、想像していたよりずっと軽い。


「よし。帰ろうか」


「ぷる」


家に戻った頃には、空が赤く染まり始めていた。


「ただいま」


「遅かったじゃない。もう少しで父さんが探しに――」


玄関まで来た母の言葉が止まった。


視線がルークの腕へ向く。


「…………ルーク」


「うん」


「それは?」


「スライム」


「それは見れば分かるわ」


母は額に手を当てた。


「今日、魔物使いになったのよね?」


「うん」


「それで?」


「契約した」


「…………今日?」


「今日」


母が黙った。


その奥から父もやってくる。


「どうした?」


「あなた」


「ん?」


「ルークが魔物を連れて帰ってきたわ」


「おお!」


父の顔が明るくなる。


「もう荷運び用の魔物を捕まえたのか?」


「これ」


ルークが腕の中を見せる。


「…………」


父が黙った。


「スライムだな」


「スライムだね」


「荷物、運べるか?」


「無理だと思う」


「畑は?」


「たぶん無理」


「…………そうか」


分かりやすく肩を落とした。


「ちょっと、あなた。そこじゃないでしょう」


母がスライムの傷に気づいた。


「この子、怪我してるじゃない!」


「森で見つけたんだ。たぶん冒険者に斬られてる」


「見せて」


母の表情が変わった。


先ほどまでの母親の顔ではない。


元回復魔法使いの顔だ。


ルークからスライムを受け取ろうとする。


その瞬間。


「ぷっ!」


スライムが激しく震えた。


「あら?」


母が手を止める。


スライムはルークの腕へ身体を押しつけていた。


「……人間が怖いみたい」


「ルークは平気なの?」


「助けたからかな」


母は少し考えてから手を引いた。


「じゃあ、ルークが抱いたままでいいわ」


母が傷口を確認する。


表情が険しくなった。


「かなり深いわね」


「治せる?」


「スライムに回復魔法を使ったことなんてないわよ」


「やっぱり?」


「でも、生き物には違いないでしょう」


母が傷口へ手をかざす。


淡い光が灯った。


スライムの身体がびくりと震える。


「大丈夫」


ルークが優しく声をかける。


すると。


震えが少しだけ弱くなった。


淡い光が傷口を包んでいく。


裂けていた身体が、ゆっくりと塞がり始める。


「……効いてる」


ルークが呟く。


「みたいね」


母も少し驚いているようだった。


やがて光が消える。


完全に治ったわけではない。


それでも、今すぐ命を落とすような状態ではなくなった。


「二、三日は無理させないこと」


「分かった」


「あと、何を食べるの?」


「何でも吸収するはず」


「はず?」


「ご先祖様の本に書いてあった」


「ああ……あの本ね」


母の顔に何とも言えない表情が浮かんだ。


フェルナー家では、やはりあの先祖は変人扱いらしい。


「ところで」


父が腕を組んだ。


「そいつ、名前は?」


「名前?」


そういえば、まだ考えていなかった。


ルークは腕の中のスライムを見つめる。


透き通るような青い身体。


丸くて、柔らかそうで。


少し動くたびに、ぷるぷると身体が揺れる。


「ぷる?」


その姿をしばらく眺めていたルークは、ふと思いついた。


「……プル」


「ぷる?」


「青くて、ぷるぷるしてるから。プル」


父が何とも言えない顔をする。


「そのまんまだな」


「分かりやすくていいでしょ」


「まあ、お前の魔物だからな」


ルークはもう一度、腕の中のスライムを見る。


「どう? プルって名前」


「ぷる!」


今までより少しだけ大きく身体が跳ねた。


まるで喜んでいるように見えた。


「気に入った?」


「ぷる! ぷる!」


「じゃあ決まりだね」


ルークが笑う。


「今日から君はプルだ」


「ぷる!」


こうして。


どこにでもいる一匹の青いスライムに。


プルという名前がついた。


その夜。


ルークは机の上に『魔物観察録』を何冊も積み上げていた。


ベッドの上では、プルが丸くなっている。


傷はまだ残っている。


今日は休ませる。


調べるのはルークの仕事だ。


「スライム……スライム……あった」


古びたページを開く。


『スライムについて』


何度も読んだ記録。


しかし、今日からは意味が違う。


ただ面白がって読むのではない。


目の前に本物がいる。


『スライムは摂取したものの性質を、その身にわずかに残すことがある』


ルークの手が止まった。


森で薬草を吸収させた時。


確かに身体の色が少し戻った。


「吸収……」


視線をプルへ向ける。


【吸収 Lv.1】


先祖の記録。


プルのスキル。


そして十二の進化先。


それぞれが、どこかで繋がっている気がする。


「食べたものが身体に影響するなら……」


薬草だけではない。


鉱石なら?


魔物の素材なら?


火の性質を持つものなら?


氷なら?


毒なら?


考えれば考えるほど、試してみたいことが増えていく。


「…………」


気づけば、ルークは笑っていた。


前世でも同じだった。


未知の育成要素を見つけた時。


攻略情報など存在しないゲームを始めた時。


何をすれば何が起きるのか。


自分で確かめる。


その時間が、一番楽しかった。


「十二種類か……」


ルークは再び進化情報を開いた。


【ハイスライム】


【条件:???】


【???】


【条件:???】


【???】


【条件:???】


まだ何も分からない。


だからこそ。


調べる価値がある。


「全部、見つけてみたいな」


「ぷる……」


ベッドから小さな声がした。


見ると、プルが眠ったまま身体を揺らしている。


ルークはそっと『魔物観察録』を閉じた。


「まずは元気になってからだね」


灯りを消す。


明日から。


ルークにとって、この世界では初めてとなる。


本当の意味での『育成』が始まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。