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魔物使いの進化論 ~最弱スライムから始める神話級魔物育成~  作者: 庵


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第1話 最弱との出会い

お読みいただきありがとうございます!


ルークとスライムの物語、ここから始まります。

続きも楽しんでいただけたら嬉しいです。

十五歳になった日。


ルーク・フェルナーは村の神殿で職業を授かった。


【魔物使い】


神官が告げた瞬間、神殿の中がほんの少しだけ静かになった。


剣士でもない。


魔法使いでもない。


騎士でも、狩人でも、鍛冶師でもない。


魔物使い。


珍しいといえば珍しい職業だった。


しかし、珍しいからといって優れた職業というわけではない。


むしろ逆だ。


魔物使いは、冒険者にはあまり向かない職業として知られている。


契約できる魔物は、基本的に自分より弱い魔物。


魔物使い本人の戦闘能力も、それほど高くならない。


しかも魔物を育てるには餌代がかかる。


怪我をすれば治療も必要になる。


強い魔物を従えられるようになるまでには、かなりの時間がかかるとも言われていた。


そのため、魔物使いの多くは荷運び用の魔物を扱ったり、農場で働いたりして生計を立てている。


少なくとも、冒険者として名を上げるような職業ではなかった。


「魔物使い、か」


神殿を出たルークは、自分の手を眺めた。


不思議と落ち込んではいない。


むしろ、ほんの少しだけ胸が高鳴っていた。


魔物を育てられる。


その一点だけなら、ルークにとってこれ以上ない職業だったからだ。


ルークには前世の記憶がある。


前世の彼は、決して胸を張れるような人生を送ってはいなかった。


真面目で、人に強く言い返すことが苦手だった。


学校ではうまく人間関係を築けず、いじめられ、やがて家からほとんど出なくなった。


そんな彼が夢中になったのがゲームだった。


中でも特に好きだったのが、育成ゲーム。


弱いキャラクターを育てる。


技を覚えさせる。


条件を探して進化させる。


誰も使わないようなキャラクターを、試行錯誤しながら強くする。


気がつけば朝になっていたことなど、一度や二度ではなかった。


結局、その生活が変わることはなかった。


死ぬ、その日まで。


夜食を買うため、久しぶりに外へ出た夜だった。


コンビニへ向かう途中、一匹の猫が道路へ飛び出した。


その先から車が迫っていた。


気づいた時には身体が動いていた。


猫を突き飛ばしたところまでは覚えている。


そして次に目を覚ました時。


彼はルーク・フェルナーという赤ん坊になっていた。


それから十五年。


前世の記憶は今も残っている。


けれど、十五年間この世界で生きてきたルークにとって、ここはもう第二の人生などという言葉では片づけられない場所だった。


父も母も、本当の家族。


生まれ育った村も、大切な故郷だ。


そして――。


世界が変わっても、育てることが好きなのは変わらなかった。


「ただいま」


家に戻ると、父が農具の手入れをしていた。


「おう。どうだった?」


ルークの姿を見るなり尋ねてくる。


その声を聞いて、母も台所から顔を出した。


二人とも元冒険者だ。


父は剣士。


母は回復魔法使い。


若い頃は同じパーティーで冒険していたらしい。


もっとも、有名な冒険者だったわけではない。


父自身、昔の話になると決まってこう言う。


「俺たちなんて中の下だ、中の下」


母のお腹にルークがいることが分かると、二人は揃って冒険者を辞めた。


今ではいくつかの畑を持つ、ごく普通の農家として暮らしている。


「魔物使いだった」


「…………」


父が黙った。


母も「あら」と小さく声を漏らした。


ルークは二人の反応をうかがった。


魔物使いが人気のある職業ではないことくらい知っている。


元冒険者の二人なら、なおさらその事情を理解しているはずだった。


やがて父がゆっくりと立ち上がった。


そして――。


「よし」


なぜか拳を握った。


「……何が?」


「これで畑を継ぐ理由ができたな」


「は?」


「荷物を運べる魔物と契約すればいい。畑仕事にも使えるぞ。ちょうど東の畑をもう少し広げようと思ってたんだ」


「ちょっと待って」


「牛系がいいんじゃない?」


母まで話に加わってきた。


「でも最初から大きな魔物とは契約できないでしょう?」


「じゃあ育てればいい」


「そうね」


二人の中では、すでにルークが農家を継ぐ未来が決まりつつあるらしい。


「いや、冒険者に――」


「ならなくていい」


父が即答した。


「早いよ!」


「冒険者なんてろくなもんじゃない」


元冒険者が言うのだから、妙な説得力があった。


「父さんもやってたじゃん」


「やったから言ってる」


父は笑った。


「昨日まで一緒に酒を飲んでた奴が、次の日には死んでる。そういう仕事だ」


一瞬だけ。


父の表情から笑みが消えた。


おそらく、本当にそういう経験があったのだろう。


「魔物使いなら農家でも役に立つ。食っていくには困らん。悪くない職業じゃないか」


「そうよ」


母も優しく笑う。


「ルークが危ない仕事をしなくて済むなら、お母さんは安心だわ」


二人とも本気で喜んでいた。


役に立たない職業だと落胆されるよりは、ずっといい。


ただ、ルークには別の夢があった。


「世界中の魔物を見てみたいんだけどな……」


小さく呟く。


幸い父には聞こえなかったらしい。


ルークがそんな夢を持つようになった原因は、この家にある。


自室の本棚。


その一番下には、何冊もの古びた本が並んでいる。


遠い先祖が残したものだ。


何代前の人物なのかも、今となってはよく分からない。


フェルナー家では、


『魔物に取り憑かれた変人』


として語り継がれている。


その先祖は、生涯をかけて魔物を観察していたという。


残された『魔物観察録』には、この世界の常識とはまるで違うことが書かれていた。


スライムは臆病である。


ゴブリンにも仲間意識がある。


ウルフは群れの仲間を見捨てない。


魔物にも食べ物の好みがある。


スライムは摂取したものによって、わずかに身体の性質が変化する。


世間では笑われるような内容ばかりだ。


だがルークは幼い頃から、この本を何度も何度も読んできた。


前世で育成ゲームばかりやっていた彼にとって、これほど面白い本はなかった。


だからルークにとっては。


魔物にも感情があることも。


魔物によって性格が違うことも。


それほど不思議なことではなかった。


「……ちょっと森まで行ってくる」


父に声をかける。


「暗くなる前に戻れよ」


「分かってる」


いつもの服。


履き慣れた革靴。


腰には父から譲ってもらった古い短剣。


背負い袋には水筒とロープ。


それから、母に教えてもらった薬草を少し。


職業を授かったからといって、突然立派な剣や鎧が手に入るわけではない。


どこからどう見ても、普通の農家の息子だった。


村を出て、森へ向かう。


今日から魔物使いになった。


とはいえ、すぐに魔物と契約するつもりはなかった。


契約についても分からないことが多い。


まずは自分の職業について調べる。


それから、どんな魔物と契約するか考える。


前世でゲームをしていた頃から、最初の一体にはこだわる性格だった。


「どうせなら、珍しい魔物がいいよな」


そんなことを考えながら歩いていた時だった。


ガサッ。


道の脇。


茂みの奥で何かが動いた。


「……ん?」


ルークは立ち止まる。


ガサッ。


もう一度。


腰の短剣に手を伸ばした。


森には弱いとはいえ魔物もいる。


慎重に茂みを覗き込む。


その奥に、青いものが見えた。


「スライム?」


珍しくもなんともない。


この辺りでもよく見かける、青いスライムだった。


しかし。


様子がおかしい。


「おい……」


近づいて、すぐに気づいた。


身体の一部が大きく裂けている。


半透明の身体から液体が流れ出していた。


剣で斬られたような傷だった。


かなり深い。


「ぷ……」


ルークの姿を見ると、スライムが小さく震えた。


逃げようとする。


しかし身体が動かない。


「待て。何もしない」


その言葉が分かったはずもない。


スライムはさらに激しく震えた。


その反応を見て、ルークは昔読んだ一文を思い出す。


『スライムが激しく身体を震わせる行為を、威嚇と記す図鑑は多い。だが私はそう考えていない』


続きまで覚えていた。


『あれは恐怖しているのではないか』


ルークは短剣から手を離した。


ゆっくりとしゃがむ。


「怖いよな」


スライムの震えは止まらない。


改めて傷を見る。


おそらく冒険者に斬られたのだろう。


一撃入れたものの、わざわざ仕留めるほどの価値もないと判断された。


スライムを倒したところで、大した経験にもならない。


素材にもほとんど価値がない。


だから放置された。


それだけなのだろう。


「運が良かったのか、悪かったのか……」


このままなら死ぬ。


ルークは背負い袋を下ろした。


水筒を取り出し、布を濡らす。


「触るぞ」


「ぷ……」


言葉が通じているとは思っていない。


それでも声をかけながら、そっと傷口を洗った。


スライムがびくりと震える。


「大丈夫」


母から教わったことを思い出しながら、薬草を取り出した。


人間用の薬草だ。


スライムに効くかどうかは分からない。


だが。


先祖の本には、スライムが薬草を吸収することがあると書かれていた。


「頼むから、あの変人のご先祖様が正しくあってくれよ」


薬草を潰し、傷口の近くへ置く。


しばらく待つ。


すると。


スライムの身体がゆっくりと薬草を包み込んだ。


「……吸収した」


少しだけ、青い身体に色が戻ったように見える。


効いている。


少なくとも、悪くはなっていない。


「よかった……」


ルークは安堵して息を吐いた。


その時だった。


スライムが身体の一部を細く伸ばした。


そしてルークの指先へ触れる。


冷たい。


それでいて、柔らかかった。


「どうした?」


スライムは震えている。


しかし。


先ほどまでとは少し違って見えた。


恐怖ではない。


なぜかルークには、そう思えた。


次の瞬間。


頭の中へ、これまで感じたことのない感覚が流れ込んできた。


――契約。


「……え?」


理解するより早く、ルークの視界に文字が浮かび上がった。


【共生契約の申請を受けました】


ルークは何度か瞬きをした。


文字は消えない。


「共生……契約?」


聞いたことのない言葉だった。


魔物使いが使うのは、魔物を従えるための契約だったはずだ。


少なくとも、ルークがこれまで聞いてきた契約とは違う。


目の前のスライムを見る。


「お前が……僕と?」


言ってから、ルークは苦笑した。


「いや。自分の名前を言っても分からないか」


「ぷる」


小さく身体が揺れた。


ルークは少しだけ迷った。


そして笑った。


珍しい魔物がいい。


少し前まで、そんなことを考えていた。


目の前にいるのは、どこにでもいるスライム。


しかも瀕死。


弱い。


おそらく、とてつもなく弱い。


それでも。


「まあ、いいか」


ルークは手を差し出した。


「ルークだ。一緒にやってみるか?」


青い身体が、もう一度その指へ触れた。


【共生契約が成立しました】


淡い光がルークとスライムを包んだ。


そして。


新しい文字が浮かび上がる。


【従魔情報を確認できます】


ルークは迷わず確認した。


【種族:スライム】


【Lv:1】


【スキル】


【吸収 Lv.1】


【変形 Lv.1】


「……弱いな」


「ぷる……」


スライムの身体が、少しだけ萎んだように見えた。


「あ、いや。悪い」


慌てて謝る。


本当に落ち込んだのだとしたら、やはり魔物にも感情があるのだろう。


だが。


表示には、まだ続きがあった。


【進化】


ルークの目が止まった。


「…………進化?」


心臓が跳ねる。


前世から。


ルークはその言葉にだけは異常なほど弱かった。


意識を向ける。


表示が切り替わる。


【進化情報を確認します】


そして――。


【進化候補:12】


「…………は?」


ルークは傷だらけの青いスライムを見た。


スライムも、ぷるぷると揺れながらルークを見上げている。


「お前……」


もう一度表示を確認する。


間違いない。


十二。


どこにでもいる。


誰も見向きもしない。


殺す価値すらないと放置された、ただの青いスライム。


その一匹に。


十二もの進化先が存在していた。


ルークの中で。


十五年間眠っていた育成好きの血が、一気に騒ぎ始める。


「……面白くなってきた」


「ぷる?」


こうして。


一人の魔物使いと。


一匹の臆病なスライムの物語が始まった。


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