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魔物使いの進化論 ~最弱スライムから始める神話級魔物育成~  作者: 庵


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第13話 選んだ相手

町の門を前にして。


狼の足が止まった。


「…………」


人。


馬車。


大きな声。


鉄の鎧を着た門番。


狼にとって。


そのすべてが警戒する対象なのだろう。


身体が低くなる。


耳が伏せられる。


「大丈夫」


ルークは立ち止まった。


「無理なら入らなくていいよ」


「ぷる?」


プルが狼を見る。


狼は。


町を見た。


次に。


ルークを見た。


そして。


一歩。


前へ出る。


「…………」


ルークも歩き始めた。


門へ近づく。


当然。


門番が狼に気づいた。


「おい、少年」


「はい」


「そのウルフはお前の従魔か?」


「…………」


ルークは答えに詰まった。


従魔ではない。


契約していない。


でも。


一緒に来た。


「まだ、違います」


「まだ?」


門番が眉をひそめる。


「野生の魔物を町へ入れるつもりか?」


「僕についてきただけで……」


「それが一番危ないんだ」


門番の手が。


腰の剣へ近づく。


その瞬間。


狼の毛が逆立った。


グルルルル……。


「待って!」


ルークが狼の前へ出る。


「大丈夫だから」


「グルル……」


狼の目は。


門番の剣を見ている。


ルークには分かった。


剣。


弓。


人間。


あの森で。


両親を殺した者たちと同じ。


「抜かないでもらえますか」


「そう言われてもな」


門番も困ったような顔をする。


「町の中には子供もいる。商人もいる。野生のウルフをそのまま通すわけにはいかない」


「…………」


それは。


正しい。


狼が悪いわけではない。


門番が悪いわけでもない。


町を守るなら当然だ。


「従魔契約は?」


「してません」


「魔物使いなんだろ?」


「はい」


「なら契約すればいい」


簡単に言われた。


ルークの視界に。


先ほどの表示が蘇る。


【従属契約を申請できます】


ルークから。


狼へ。


服従を求める契約。


「…………」


狼を見る。


こちらを見返している。


「しません」


「何?」


「嫌がってるのに契約したくないです」


門番が目を丸くした。


「魔物使いが何言ってるんだ」


「僕の契約は、そういうものじゃないので」


「ぷる!」


なぜかプルが胸を張るように膨らんだ。


門番が頭を掻く。


「だったら、そのウルフは町には入れられない」


「分かりました」


ルークはすぐ答えた。


狼が。


わずかに顔を上げる。


「僕も今日は町に入りません」


「え?」


「この子を置いていけないので」


「ぷる!」


「お前、宿とかどうするんだ」


「なんとかします」


門番は。


しばらくルークを見る。


それから。


大きくため息をついた。


「変な魔物使いだな」


「よく言われそうな気がします」


「まだ言われてないのかよ」


町へ入るのを諦め。


ルークは門から離れた。


「ごめんね」


狼を見る。


「人間の町って面倒だね」


「…………」


狼は答えない。


「今日は森で寝るか」


「ぷる!?」


プルが大きく揺れた。


「嫌なの?」


「ぷるるる」


「宿のベッド気に入ってたもんね」


「ぷる」


分かりやすい。


ルークは笑った。


「でも、この子だけ外に置いていくわけにもいかないでしょ」


狼の耳が。


ぴくりと動いた。


「…………」


ルークは気づかなかった。


町から少し離れた場所。


街道沿いの木陰へ移動した。


「さて」


荷物を置く。


「どうしようかな」


食料はある。


水もある。


一晩くらいなら野宿できる。


父からも。


冒険者なら野宿の経験くらい必要だと言われていた。


ただ。


「初日からとは思わなかったな」


「ぷる……」


プルが不満そうに潰れる。


狼は。


少し離れた場所に座った。


「…………」


相変わらず。


近すぎず。


遠すぎず。


ルークは干し肉を取り出す。


「食べる?」


狼へ差し出す。


少し迷ってから。


近づく。


手から取る。


もう。


それは当たり前になりつつあった。


「傷は?」


ルークが後ろ脚を見る。


狼は逃げない。


「もうかなり良さそうだね」


包帯を外す。


矢の傷。


完全ではないが。


走れる程度には塞がっている。


「明日くらいには包帯もいらないかな」


「…………」


狼は。


ずっとルークを見ていた。


夕方。


ルークは簡単な食事を済ませた。


プルには。


干し肉の端と。


森で採った木の実。


狼にも肉。


「ぷる!」


「いっぱい食べるなあ」


プルが次々と吸収していく。


狼は。


少し離れて静かに食べている。


性格が。


まるで違う。


プルは分かりやすい。


嬉しい。


怖い。


美味しい。


楽しい。


全部。


身体に出る。


狼は逆だ。


ほとんど表に出さない。


でも。


見ていると。


少しずつ分かってくる。


耳。


尻尾。


視線。


呼吸。


「…………」


今も。


肉を食べながら。


周囲を警戒している。


ルークとプルが食事中だから。


代わりに見張っているようにも見えた。


「休んでいいんだよ」


狼の耳だけが動く。


「…………」


やっぱり。


頭がいい。


日が沈み始めた頃。


街道を。


一台の馬車が近づいてきた。


商人らしき男。


護衛が二人。


ルークたちの横を通り過ぎる。


その時。


一人の護衛が狼を見る。


「あれ?」


立ち止まった。


「ウルフじゃないか」


狼が警戒する。


「坊主の従魔か?」


「違います」


「野生?」


男が驚く。


「よくそんな近くにいられるな」


「色々あって」


「魔物使いか?」


「はい」


男は納得したように頷く。


そして。


狼をじっと見る。


「若いな」


「そうですね」


「傷もある」


男が一歩近づいた。


狼が唸る。


「グルル……」


「おっと」


男は止まる。


「警戒心が強い」


「人間に色々されたので」


「なるほどな」


男は狼を観察する。


「ならさっさと従属契約しちまった方が楽だぞ」


「…………」


また。


同じことを言われた。


「魔物使いならできるだろ」


「できます」


「なら――」


「でも、しません」


男が首を傾げる。


「なんでだ?」


「嫌がってるからです」


「魔物だぞ?」


「はい」


「魔物使いは、魔物を従わせる職業だろ」


ルークは少し考えた。


確かに。


世間では。


そうなのだろう。


契約。


命令。


使役。


人が上。


魔物が下。


それが普通。


「僕は」


狼を見る。


「従わせたいわけじゃないんです」


「…………」


「一緒に行きたいだけなので」


護衛の男が。


妙なものを見るような顔をした。


「変わった奴だな」


「今日二回目です」


「ははっ」


男は笑った。


「まあ好きにしろ。ただ、野生の魔物はいつ牙を剥くか分からんぞ」


「分かってます」


「腕一本くらい持っていかれても文句言うなよ」


「もう噛まれてます」


「マジかよ」


男はさらに笑った。


やがて。


馬車は去っていった。


「…………」


静かになる。


ルークは。


焚き火用の枝を集め始めた。


狼が。


その背中を見ていた。


夜。


小さな火。


ルークは木にもたれて座っていた。


プルは。


すでに眠っている。


「ぷぅ……」


わずかに膨らんだり縮んだりする。


「スライムって寝息あるのかな……」


小声で呟く。


狼は。


少し離れた場所。


伏せている。


でも。


目は開いている。


「寝ないの?」


「…………」


「見張ってくれてる?」


耳が動く。


「ありがとう」


返事はない。


ルークは空を見る。


星。


村で見たものと。


同じ空。


なのに。


少し違って見える。


「僕さ」


狼に話しかける。


「前は、外に出るの苦手だったんだ」


「…………」


前世の話。


通じるはずはない。


それでも。


話したくなった。


「人が怖かった」


「…………」


「何を言われるかとか。どう見られてるかとか」


ルークは小さく笑う。


「だから部屋にいた」


ゲームの中なら。


怖くなかった。


失敗しても。


やり直せた。


嫌な相手なら。


画面を閉じればよかった。


「でも」


今は。


そうはいかない。


怖くても。


傷ついても。


生きていく。


「君とは全然違うけど」


狼を見る。


「人を信じるのが怖いっていうのは、ちょっとだけ分かる」


狼は。


じっとこちらを見ている。


「だから」


ルークは笑う。


「僕を信じろとは言わないよ」


「…………」


「信じられると思ったら、信じて」


それだけ。


「嫌なら離れていい」


狼の耳が。


ゆっくり立つ。


「森に帰りたくなったら帰っていい」


「…………」


「僕について来る必要もない」


ルークは焚き火を見る。


「君の人生だから」


「…………」


しばらく。


薪の爆ぜる音だけがした。


深夜。


ルークは眠っていた。


プルも。


狼だけが。


目を開けていた。


風が吹く。


森の匂い。


遠く。


人間の町。


後ろには。


広い森。


戻ることはできる。


自由だ。


誰にも止められない。


狼が。


ゆっくり立ち上がった。


ルークを見る。


眠っている。


無防備。


手を伸ばせば。


簡単に喉へ牙が届く。


「…………」


狼は。


近づいた。


一歩。


二歩。


ルークのすぐそば。


匂いを嗅ぐ。


この人間は。


自分を押さえつけなかった。


傷を治した。


噛みついても。


怒らなかった。


食べ物をくれた。


親の死骸の前で。


何も奪わなかった。


契約できるのに。


しなかった。


町へ入れなくても。


自分を捨てなかった。


そして。


森へ帰ってもいいと言った。


「…………」


狼は。


ルークの隣へ伏せた。


初めて。


自分から。


触れるほど近くに。


朝。


「…………ん」


ルークが目を覚ます。


「寒……」


身体を起こそうとして。


止まった。


「…………え?」


横。


灰色の毛。


狼が。


眠っている。


「…………」


ルークの腕に。


背中が触れている。


「…………!」


声を出しそうになり。


慌てて口を押さえる。


「ぷる……?」


プルが起きた。


「しーっ」


「ぷる?」


ルークが狼を指差す。


プルを見る。


狼を見る。


またルークを見る。


そして。


「ぷる!」


「静かに!」


狼の目が開いた。


「…………」


「あ」


目が合う。


「お、おはよう」


狼が。


勢いよく立ち上がった。


数歩離れる。


「…………」


顔を逸らす。


「今、一緒に寝てたよね?」


「…………」


「ね?」


「…………」


「プルも見たよね?」


「ぷる!」


「…………」


狼は。


さらに顔を逸らした。


「なんでそんな嫌そうなの」


ルークは笑った。


朝食を済ませる。


「じゃあ」


荷物をまとめる。


「今日はどうする?」


狼へ問いかける。


「僕はギルドに行きたいから、町に入りたい」


「…………」


「君は森に戻る?」


狼がルークを見る。


「それとも、ここで待つ?」


「…………」


「決めていいよ」


ルークは待つ。


狼は。


森を見る。


町を見る。


そして。


ルークを見る。


一歩。


近づく。


「…………?」


さらに。


一歩。


真正面。


狼が。


ルークの手に。


鼻先を触れた。


「え……」


その瞬間。


視界に。


文字が浮かんだ。


【契約の申請を受けました】


ルークの目が見開かれる。


「…………!」


続いて。


もう一つ。


【契約方式を確認します】


【従属契約】


文字が浮かぶ。


だが。


すぐに。


揺らいだ。


「…………?」


表示が。


変わる。


【条件を確認しました】


【対象個体からの自発的な契約意思を確認】


【主従関係を拒否】


【対等な関係を希望】


ルークの心臓が。


大きく鳴った。


そして。


見覚えのある文字。


【共生契約が選択されました】


「…………」


プルの時と。


同じ。


【共生契約の申請を受けました】


【受諾しますか?】


【YES/NO】


ルークは。


狼を見る。


「本当にいいの?」


「…………」


狼は逃げない。


ルークの目を見る。


「僕と来る?」


狼の耳が立つ。


「色んなところに行くよ」


「…………」


「危ないこともあると思う」


「…………」


「でも」


ルークは手を差し出した。


「僕は君に命令するために契約したくない」


「…………」


「一緒に考えて」


「一緒に戦って」


「嫌な時は嫌だって言って」


「行きたいところがあるなら教えて」


狼が。


ルークの手を見る。


「それでもいいなら」


少し笑う。


「僕と一緒に行こう」


狼が。


ゆっくり。


額を。


ルークの手へ押しつけた。


「…………分かった」


ルークは。


【YES】を選んだ。


【共生契約が成立しました】


淡い光が。


狼の身体を包む。


「…………!」


プルの時と同じ。


でも。


感覚は少し違う。


胸の奥へ。


何かが流れ込んでくる。


警戒。


不安。


悲しみ。


そして。


その奥にある。


強い意思。


もう。


逃げたくない。


弱くありたくない。


守れなかった。


二度と。


同じ思いをしたくない。


「…………」


ルークの胸が苦しくなる。


これは。


狼の感情。


契約を通して。


ほんの少し伝わってくる。


「そっか……」


ルークは。


狼の頭へ。


そっと手を置いた。


今度は。


逃げなかった。


「強くなろう」


「…………」


「僕も」


プルを見る。


「プルも」


「ぷる!」


そして。


狼を見る。


「君も」


「…………」


狼の尻尾が。


ほんの少し。


動いた。


表示が変わる。


【契約個体情報を確認します】


【種族:ウルフ】


【Lv:3】


【スキル】


【嗅覚 Lv.2】


【爪撃 Lv.1】


【疾走 Lv.1】


「Lv3……」


やはり。


プルと出会った時より強い。


そして。


「進化は……」


ルークが意識を向ける。


表示。


【進化】


心臓が跳ねる。


「ある」


選択する。


【進化情報を確認します】


【進化候補:7】


「七つ……」


プルの最初は十二。


この狼は七。


種族によって違う。


【ウルフ】


その先。


【進化候補】


【ハイウルフ】


【条件:???】


【グレイハウンド】


【条件:???】


【ナイトウルフ】


【条件:???】


そして。


残りは。


【???】


【???】


【???】


【???】


ルークの目が。


輝く。


「やっぱり……」


狼が首を傾げる。


「君も進化できる」


「…………」


「しかも七つもある」


「ぷる!」


プルも横から覗き込む。


「プル、見えてないでしょ」


「ぷる」


狼は。


ルークを見る。


何をそんなに喜んでいるのか。


理解できないような顔。


「ごめん」


ルークは笑う。


「こういうの見ると駄目なんだ」


前世から。


ずっと。


知らない育成先。


未知の条件。


それを見ると。


止まらない。


「…………」


でも。


ルークは表示を閉じた。


「進化は後」


まず。


大事なことがある。


狼を見る。


「名前」


「…………」


「君の名前、考えないとね」


「ぷる!」


「プルの時みたいに適当にはしないよ」


「ぷる!?」


プルが激しく揺れた。


「いや、プルはいい名前だって」


狼が。


二人を見る。


その目から。


ほんの少し。


警戒が消えていた。


森で。


血まみれになり。


一匹で牙を剥いていた狼。


人間を憎み。


誰も信じようとしなかった狼。


その狼が。


自分の意思で。


一人の人間を選んだ。


捕まえられたのではない。


従えられたのでもない。


自ら。


隣を歩くことを選んだ。


こうして。


ルークの二匹目の仲間が。


誕生した。

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