第33章 ポータルのない夜
一行は、これまでの成功を祝っていた。
にぎやかな夜だった。
音楽、会話、笑い声。
テーブルには料理やボトルが並び、まるで普通の友人同士の集まりのようだ――
昼間に彼らが何をしているのかを知らなければ、の話だが。
そこにはアリナもいた。
さらに数人の友人たちも一緒だ。
「本当に傭兵なの?」と、ある女性が驚いた様子で尋ねる。
「テレビでやってる、あの人たち?」
ダニルは笑いながら椅子にもたれた。
「まあな。もう新人じゃない。」
ニキータは落ち着いた口調で続ける。
「ランク3のポータルなら、もう10か所くらいは閉じてる。」
「本当に……?」と彼女は目を見開く。
アリナは彼らをじっと見つめていた。
その目に浮かんでいるのは、憧れではなかった。
「昔からそういう“剣で戦う遊び”が好きだったよね。」と彼女は言う。
「でも今は違う。」
「本物の戦いなんでしょ。命を落とすことだってある。」
一瞬、場の空気が静まる。
ドミトリーが冷静に答える。
「問題ない。管理できている。」
マクシムもうなずく。
「装備も前とは別物だ。」
ダニルがにやりと笑う。
「変わったのは装備だけじゃないけどな。」
「俺たちには切り札もある。」
女性たちは顔を見合わせる。
興味と不安が入り混じっていた。
アリナはアレクセイに視線を向ける。
「あなたは?」と尋ねる。
「どうして一緒にいるの?」
アレクセイは少し考え、静かに答えた。
「正式な傭兵じゃない。」
「ライセンスも持ってない。」
軽く肩をすくめる。
「ただ手伝ってるだけだ。」
「荷物持ちみたいなものだよ。」
ダニルが小さく笑ったが、何も言わなかった。
アリナは少し眉をひそめる。
「無茶はしてないよね?」
アレクセイは視線を逸らす。
「後ろにいるようにはしてる。」
真実は言わなかった。
誰も言わなかった。
彼が戦闘で何をしているのか。
魔法のこと。
そして、どれだけ戦局に影響を与えているのかを。
夜は続く。
笑い声と音楽はさらに大きくなっていく。
やがてナターシャが静かにドミトリーを呼んだ。
二人は席を外し――
そのまま姿を消した。
それに気づいたのはアリナだった。
彼女は黙り込み、
少ししてから立ち上がる。
他の誰も気に留めなかった。
ただ一人――アレクセイを除いて。
彼は眉をひそめる。
「どこへ……」と小さくつぶやき、後を追った。
建物の裏手で、彼は彼女を見つける。
アリナは一人で立っていた。
そして――泣いていた。
アレクセイは一瞬立ち止まり、ゆっくり近づく。
「どうした?」
彼女は慌てて涙を拭う。
だが声は震えていた。
「分かってるくせに……」
アレクセイは何も言わない。
「ディマとナターシャ……」と彼女は続ける。
「一緒に行ったでしょ。」
沈黙。
「彼、私のこと見てないの。」と彼女は小さく言った。
「まったく。」
アレクセイは彼女を見つめる。
「もしかして……」と慎重に言いかける。
「ただ、友達以上には見ていないのかも。」
アリナは勢いよく振り向く。
「違う。」
強い否定だった。
「違う……」と、今度は少し弱く繰り返す。
「あなたには分からない。」
彼女は手を握りしめる。
「ずっとそばにいたのに……」
「支えてきたのに……」
「ちゃんと向き合おうとしてたのに……」
声が途切れる。
アレクセイはしばらく黙っていた。
彼女の表情を見る。
迷いと痛み。
そのとき、ふと考えがよぎる。
(じゃあ……俺の気持ちは、見えてないのか?)
彼はもう一度アリナを見る。
そして、期待を捨てたまま言った。
「それなら……つらいだけだ。」
彼女は何も答えなかった。
アレクセイは背を向ける。
それ以上は何も言わない。
頭の中にはまだ思いが残っていたが、
もう答えを求めてはいなかった。
ただ、受け入れた。
そしてそのまま戻っていく。
アリナは――
一人、その場に立ち尽くしていた。




