第94話 「会長、大掃除で昔の自分を見られる」
終業式前の大掃除。
生徒会室の棚から、去年の集合写真が出てきた。
そこには、一年前のミレイが写っていた。
まだ副会長だった頃。
生徒会長になる前。
今より少し緊張していて、表情も硬い。
黒瀬くんは写真を見て言った。
「ミレイ先輩、今より少し表情が硬いですね」
ミレイは少し恥ずかしかった。
過去の自分を見られるのは、制服を褒められるのとはまた違う恥ずかしさがある。
「そうね。この頃はまだ、生徒会長になるなんて思っていなかったわ」
あの頃は、ただ先輩についていくのに必死だった。
自分が人の前に立つなんて、想像していなかった。
黒瀬くんは写真と今のミレイを見比べる。
そして、まっすぐ言った。
「今は、すごく似合っています」
その言葉に、ミレイは動けなくなった。
生徒会長が似合っている。
そう言われることは、何度かあった。
先生からも、他の生徒からも。
けれど、黒瀬くんに言われると違う。
肩書きではなく、自分の努力ごと見てくれているような気がした。
「ありがとう」
声が少し小さくなる。
黒瀬くんも赤くなっていた。
掃除は続いた。
棚の上の箱を取る時、指が触れた。
ただそれだけで、胸が跳ねる。
(前なら、こんなことで動揺しなかったはずなのに)
黒瀬くんは少し慌てていた。
その反応が、また嬉しい。
自分だけが意識しているわけではないと感じるから。
掃除が終わる頃には、生徒会室はずいぶんすっきりしていた。
でも、ミレイの心は全然すっきりしていなかった。
黒瀬くんといる時間が楽しい。
名前で呼ばれると嬉しい。
褒められると胸が苦しい。
夏休みで会えなくなるのが寂しい。
これらを整理整頓したら、どの箱に入るのだろう。
たぶん、恋という箱だ。
そう思って、ミレイはまた顔が熱くなった。
◆オチ
その日の生徒会日誌。
生徒会室大掃除。古い集合写真を発見。黒瀬くんに生徒会長が似合っていると言われた。
追記。
とても嬉しかった。
さらに追記。
指が少し触れた。事故。
リコが読んで言う。
「会長、事故のわりに記録が丁寧ですね」
ミレイは日誌を閉じる。
「再発防止のためよ」
リコは笑う。
「本当は再発希望では?」
ミレイは答えられなかった。




