第93話 「終業式前の大掃除で距離が近い」
終業式前日。
学校全体で大掃除が行われた。
アキラは掃除を嫌いではない。
整理整頓は得意だ。
本棚の分類。
ケーブルの整理。
グッズ棚のホコリ取り。
それらはすべて日常的に行っている。
(掃除とは、環境の最適化。つまり現実世界のメンテナンス作業)
しかし、生徒会室の大掃除は少し違った。
ミレイと一緒だった。
リコは職員室へ書類を取りに行き、他の役員は倉庫整理へ行っている。
つまり、ミレイと二人で棚の整理をする時間ができてしまった。
(また二人きりフィールド。最近、発生頻度が高い)
ミレイは袖をまくり、棚の上の書類箱を取ろうとしていた。
少し背伸びしている。
アキラは慌てて声をかける。
「ミレイ先輩、僕が取ります」
「ありがとう。少し高くて」
アキラが手を伸ばす。
ミレイも同じ箱に手を伸ばしたままだった。
指が触れた。
二人同時に固まる。
(接触イベント。棚整理中。発生条件が生活感ありすぎる)
ミレイが先に手を引く。
「ご、ごめんなさい」
「いえ。こちらこそ、接触判定に驚いただけです」
「接触判定?」
「いえ、何でもありません」
棚の整理を続ける。
古い資料。
使わなくなった備品。
去年の文化祭パンフレット。
なぜか出てくる謎の鈴。
誰が置いたかわからない将棋の駒。
ミレイは真面目に分類する。
「これは保管。これは処分。これは確認ね」
アキラは感心する。
「ミレイ先輩の判断、早いですね」
「必要なものと不要なものを分けるだけよ」
「僕は推しグッズになると不要という概念が消えます」
ミレイは笑う。
「黒瀬くんらしいわ」
掃除の途中、古い写真が見つかる。
去年の生徒会集合写真だった。
ミレイはまだ副会長で、少し緊張した顔をしている。
アキラは思わず言う。
「ミレイ先輩、今より少し表情が硬いですね」
ミレイは写真を見て微笑む。
「そうね。この頃はまだ、生徒会長になるなんて思っていなかったわ」
「今は、すごく似合っています」
また素直に言ってしまった。
ミレイの頬が赤くなる。
アキラも自分で赤くなる。
(掃除中なのに、言葉のホコリより火花が舞っている)
◆オチ
掃除後、リコが戻ってくる。
「ずいぶん綺麗になりましたね。二人とも何かありました?」
アキラとミレイは同時に言う。
「掃除をしていました」
リコは棚を見る。
「棚より二人の距離感の方が整理されてきてますね」
アキラは真顔で答える。
「まだ分類不能です」




