第81話 「名前呼び二回目が一回目より難しい」
昨日、確かにそう呼んだ。
生徒会室で。
本人の前で。
ちゃんと声に出して。
そしてミレイは、嬉しかったと言ってくれた。
アキラは朝からその記憶に支配されていた。
(名前呼びイベントはクリアした。だが問題はここからだ。一度きりなら奇跡で済む。二度目からは習慣化フェーズに入る)
トオルは呆れていた。
「普通に呼べばいいだろ」
「普通に呼べたら苦労しない」
「昨日呼べたんだろ?」
「昨日は条件が完璧だった。二人きり。静かな生徒会室。事前練習あり。覚悟あり。今日は環境が不確定すぎる」
「お前、名前呼ぶだけで作戦会議するな」
放課後、アキラは生徒会室の前に立った。
今日も呼ぶ。
できれば自然に。
(自然にミレイ先輩。自然にミレイ先輩。自然にミレイ先輩)
ドアを開ける。
「失礼します」
中にはミレイとリコがいた。
ミレイが顔を上げる。
「黒瀬くん、来てくれたのね」
アキラは返事をしようとする。
「はい、ミ……」
止まった。
リコが即座に反応する。
「お、二回目チャレンジですか?」
アキラは動揺する。
「違います。口の準備運動です」
「ミで始まる口の準備運動、珍しいですね」
ミレイも赤くなっている。
アキラは書類を受け取りながら、もう一度挑戦する機会をうかがう。
ミレイが言う。
「黒瀬くん、この資料を職員室に届けてもらえる?」
ここだ。
ここで言えば自然だ。
アキラは深呼吸する。
「はい、ミレイ先輩」
言えた。
しかし声が少し裏返った。
ミレイは書類を持ったまま固まる。
リコは笑いをこらえている。
「成功しましたね。音程は不安定でしたけど」
アキラは顔を覆う。
「声帯が戦闘不能になりました」
ミレイは少し照れながら言う。
「でも、呼んでくれて嬉しいわ」
アキラの心臓に追撃が入る。
(報酬が毎回強い。これは周回難易度が下がらないタイプのイベントだ)
職員室へ向かう廊下で、アキラは一人で反省する。
(次はもう少し自然に。声を裏返さず。平常心で。ミレイ先輩)
そして、廊下の角を曲がったところで烏丸と出会う。
「黒瀬くん、今、白鳥さんの名前を呟いていなかったかい?」
アキラは固まる。
「発声練習です」
烏丸は目を細める。
「何の?」
「人生の」
◆オチ
帰宅後、マドカに報告する。
「二回目は成功した。ただし声が裏返った」
マドカは頷く。
「いいじゃん。初々しくて」
アキラは真顔で言う。
「初々しさは操作不能なデバフだ」




