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生徒会長はオタク男子を攻略できない  作者: naomikoryo


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第80話 「会長、初めて名前で呼ばれる」

その日、生徒会室には黒瀬くんと二人だけだった。


リコは職員室。

他の役員もまだ来ていない。


静かな放課後だった。


ミレイは書類を渡す。


「黒瀬くん、この確認をお願いできる?」


黒瀬くんは受け取りながら、いつもより真剣な顔をしていた。


そして、深呼吸した。


「はい、ミ……」


ミレイは息を止める。


また途中で止まるのだと思った。


けれど、黒瀬くんは逃げなかった。


「ミレイ先輩」


その瞬間、世界が一瞬だけ止まった気がした。


自分の名前。

黒瀬くんの声。

少し震えていて、でもまっすぐだった。


ミレイは返事をしなければと思う。


でも、胸がいっぱいで、うまく声が出ない。


ようやく、

「……はい」

と答えた。


たったそれだけなのに、頬が熱くなる。


黒瀬くんも真っ赤だった。


ミレイは小さく聞く。


「今、呼んでくれたのね」


彼は頷く。


「はい。かなり練習しました」


「練習?」


「はい。家族に聞かれました」


ミレイは思わず笑ってしまった。


黒瀬くんらしい。


名前を呼ぶだけで練習して、家族に聞かれて、ここまで真剣に挑んでくれる。


その不器用さが、とても愛おしいと思った。


(愛おしい……?)


ミレイは自分の心の中の言葉に驚く。


でも、否定できなかった。


黒瀬くんが自分を名前で呼んでくれたことが、こんなにも嬉しい。


「嬉しかったわ」


そう言うと、黒瀬くんは完全に固まった。


その反応を見て、ミレイもさらに恥ずかしくなる。


そこへリコが戻ってきた。


一瞬で何かを察した顔をする。


「呼びましたね?」


ミレイは答えられない。


黒瀬くんが小さく頷く。


リコは拍手する。


「長かったですね。ここまで八十話かかりましたよ」


ミレイは慌てる。


「八十話?」


リコはにこりと笑う。


「比喩です」


でも、確かに長かった気がする。


黒瀬くんと出会ってから、少しずつ距離が近づいて、ようやく名前で呼ばれた。


それは小さな一歩かもしれない。


でもミレイにとっては、とても大きな一歩だった。



◆オチ


その日の生徒会日誌。


黒瀬くんに、初めてミレイ先輩と呼ばれた。


追記。


とても嬉しかった。


さらに追記。


次に呼ばれた時、平静でいられるか不明。


リコが読んで言う。


「会長、名前呼び一回で緊急対応マニュアル作りそうですね」


ミレイは真面目に答える。


「必要かもしれないわ」


リコはため息をつく。


「恋愛に防災訓練はいりません」

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