第7話 「コンタクトレンズは装備変更ですか?」
アキラにとって、眼鏡は体の一部だった。
朝起きて眼鏡。
授業中も眼鏡。
推しのフィギュアを眺める時も眼鏡。
眼鏡がない世界は、解像度の低い異世界である。
しかし、その眼鏡がある朝、壊れた。
正確には、姉のマドカが寝ぼけて踏んだ。
「ごめん、アキラ。眼鏡、天に召された」
「僕の視界がログアウトした」
マドカは反省しているようで、あまりしていない顔で言う。
「今日だけコンタクトにすれば?」
アキラは震える。
「コンタクト……? 目に直接装備するタイプのアイテム……?」
「そういう言い方すると急に怖いね」
アキラは抵抗するが、予備の眼鏡は修理中。
仕方なく、姉に手伝われながらコンタクトを装着する。
さらにマドカは、ついでと言わんばかりにアキラの髪を整え始める。
「せっかくだから前髪も上げよう」
「なぜ装備変更に外見カスタムまで含まれるんだ」
「初期アバターがもったいないから」
数十分後。
鏡の前に立ったアキラは、自分を見て首を傾げる。
そこには、眼鏡なし。
髪は自然に整えられ、目元がはっきり見える男子がいた。
顔立ちはすっきりしていて、思ったより爽やか。
しかし本人は何も気づかない。
「視界が広い。世界の描画範囲が増えた」
マドカは呆れる。
「感想そこ?」
登校すると、校門で女子たちがざわつく。
「え、誰?」
「新入生?」
「かっこよくない?」
「あの人、1年?」
アキラは周囲を見回す。
(何かイベント発生中? 有名人でもいるのか?)
トオルがアキラを見た瞬間、鞄を落とす。
「お前……誰?」
「黒瀬アキラだけど」
「嘘だろ。SSR進化してる」
「進化素材はコンタクトだったのか」
教室に入ると、クラス中が静かになる。
そして一拍遅れてざわめく。
女子たちが話しかけてくる。
「黒瀬くん、今日雰囲気違うね」
「髪、いいじゃん」
「コンタクトにしたの?」
アキラは混乱する。
(エンカウント率が異常。これは眼鏡を外したことによるバグ?)
昼休みには、桜庭ユナがやってくる。
「黒瀬くん、やっぱり似合うじゃん!」
「そうなの?」
「めちゃくちゃいいよ」
アキラは真剣に考える。
「つまり、眼鏡を外すとステータス補正が入る?」
「そういうことにしとこ」
その日の放課後、アキラは生徒会室に向かう。
ドアを開ける。
「失礼します」
ミレイが顔を上げる。
そして固まる。
「……どちらさま?」
アキラはショックを受ける。
「生徒会長、僕です。黒瀬アキラです」
ミレイは目を見開く。
「黒瀬くん!?」
その声が思ったより大きく、生徒会室の全員が振り向く。
ミレイは慌てて咳払いする。
「ご、ごめんなさい。少し驚いただけよ」
アキラは不安になる。
「やはり装備変更に失敗していますか?」
「装備?」
「眼鏡からコンタクトに変えました」
ミレイはアキラを見つめる。
いつもの前髪に隠れていた目が、今日ははっきり見える。
「……似合っているわ」
ミレイの声は小さかった。
アキラの脳内では警報が鳴る。
(生徒会長から装備評価が出た。しかも高評価。これは保存すべきログ)
「ありがとうございます。バフがかかりました」
ミレイは真剣に言う。
「バフ……体調が良くなったの?」
「だいたい合ってます」
リコが横から言う。
「会長、顔赤いですよ」
ミレイは即座に書類で顔を隠す。
「室温が高いだけよ」
リコは窓を見る。
「今日、冷房入ってますけど」
◆オチ
帰宅後、マドカが聞く。
「学校どうだった?」
アキラは真顔で答える。
「眼鏡を外したら、NPCの反応パターンが変わった」
マドカはため息をつく。
「現実をゲーム設定でしか理解できない病、重症だね」




