第64話 「会長、保健室で心配しすぎる」
体育祭練習中、黒瀬くんが転んだ。
それを聞いた瞬間、ミレイは走っていた。
生徒会長として、負傷者の確認は当然。
救護対応の確認も必要。
そう自分に言い聞かせた。
けれど本当は、ただ心配だった。
保健室へ向かう廊下で、胸が苦しくなる。
(大きな怪我だったらどうしよう)
保健室に着くと、黒瀬くんはベッドに座っていた。
膝に消毒の跡。
足首には軽く湿布。
思ったより元気そうで、ミレイはほっとした。
「黒瀬くん!」
彼は少し驚いた顔をして、
「移動速度の制御に失敗しました」
と言った。
黒瀬くんらしい言い方だった。
ミレイは怒りたいのか、安心したいのか、自分でもわからなかった。
「無理をしてはだめよ」
「はい。体育祭は思ったより物理攻撃が強いです」
「体育祭は敵ではないわ」
そう言いながらも、ミレイは彼の足元を何度も見てしまう。
痛くないだろうか。
本当に大丈夫だろうか。
本番は無理しないだろうか。
保健室の先生は軽い捻挫だと言った。
ミレイは安心した。
けれど黒瀬くんは言った。
「本番までに治します」
「無理なら出なくてもいいのよ」
本心だった。
怪我を悪化させるくらいなら、出なくていい。
体育祭より、黒瀬くんの方が大事。
そう思って、自分で驚いた。
黒瀬くんは少し考えてから言う。
「白鳥先輩に、大丈夫なところを見せたいので」
その言葉で、ミレイの思考が止まる。
私に。
大丈夫なところを。
見せたい。
ミレイは顔が熱くなる。
「そ、そう……」
何か気の利いたことを言いたかったのに、言葉が出ない。
リコが後から保健室に来て、二人を見て言った。
「怪我人より会長の方が顔赤いですね」
ミレイは慌てる。
「走ってきたからよ」
リコは保健室の先生を見る。
先生は笑っていた。
◆オチ
その日の生徒会日誌。
黒瀬くん、体育祭練習中に軽い捻挫。要経過観察。
追記。
本人は本番に出る意思あり。無理はさせないこと。
さらに小さく追記。
大丈夫なところを見せたいと言われた。
リコが読んで言う。
「会長、最後だけ筆圧が違います」




