第63話 「体育祭練習で走ったら保健室送りになった」
体育祭練習の日。
アキラは借り物競走の練習をすることになった。
体育教師は言った。
「借り物競走は瞬発力と判断力が大事だ!」
アキラは思った。
(違う。もっとも大事なのは、お題の倫理性です)
練習用のお題は簡単だった。
白いもの
帽子をかぶっている人
笑顔の人
アキラはそこそこ走れた。
運動が得意というわけではない。
しかし、全力で逃げる経験はオタクイベント会場で多少あった。
トオルが驚く。
「黒瀬、意外と走れるじゃん」
「推しの限定グッズ列で鍛えられた」
「動機はともかく実戦経験があるな」
しかし、調子に乗ったのがいけなかった。
最後の練習でアキラは足を滑らせ、派手に転んだ。
膝を擦りむき、軽く足首をひねる。
(体育祭イベント、やはりダメージ判定あり)
保健室へ運ばれる途中、ミレイが駆けつけてきた。
「黒瀬くん!」
その声に、アキラの心臓が別方向に痛んだ。
「白鳥先輩……すみません。移動速度の制御に失敗しました」
「そんな説明はいいの。痛む?」
ミレイは本気で心配している顔だった。
アキラは少し戸惑う。
自分のために、こんな顔をしてくれる。
それが嬉しいような、申し訳ないような、不思議な気持ちだった。
保健室で手当てを受ける。
ミレイは生徒会の仕事があるはずなのに、少しだけそばにいてくれた。
「無理をしてはだめよ」
「はい。体育祭は思ったより物理攻撃が強いです」
「体育祭は敵ではないわ」
「僕には敵性イベントに見えます」
ミレイは少し笑う。
その笑顔を見て、アキラは安心する。
やがて保健室の先生が言う。
「軽い捻挫ね。今日は安静に」
アキラは深刻な顔になる。
「安静……借り物競走は?」
ミレイが言う。
「無理なら出なくてもいいのよ」
アキラは考える。
借り物競走は怖い。
でも、ミレイが心配してくれたことが、なぜか逃げたくない気持ちに変わっていた。
「本番までに治します」
ミレイは少し驚く。
「どうして?」
アキラは答える。
「白鳥先輩に、大丈夫なところを見せたいので」
言ってから、アキラは自爆したことに気づく。
ミレイも真っ赤になる。
◆オチ
保健室の先生がカルテを書きながら言う。
「足首より、二人とも心拍数の方が心配ね」
アキラとミレイは同時に固まる。




