第58話 「会長、相合傘の距離感を間違える」
放課後の雨。
昇降口で傘を持たずに困っている黒瀬くんを見つけた。
ミレイは声をかける。
「黒瀬くん、傘がないの?」
彼は少し困った顔で、
「装備欄に傘を入れ忘れました」
と言った。
その言い方が黒瀬くんらしくて、ミレイは少し笑ってしまう。
そして、勇気を出す。
「よかったら、駅まで一緒に入る?」
言った瞬間、心臓が跳ねた。
相合傘。
言葉にすると、急に恥ずかしくなる。
けれど黒瀬くんは真っ赤になりながらも頷いてくれた。
二人で歩き出す。
雨音が傘を叩く。
距離が近い。
近いのに、黒瀬くんは遠慮して少し外側にいる。
そのせいで肩が濡れている。
ミレイは傘を彼の方へ傾ける。
「もう少しこっちに寄って」
言ってから、自分で動揺する。
(今の言い方、距離が近すぎたかしら)
黒瀬くんは固まる。
そして、ミレイの肩が濡れていることに気づいた。
「白鳥先輩、そちらが濡れます」
「私は大丈夫よ」
「大丈夫じゃありません」
その声は、いつもより少し強かった。
黒瀬くんはそっと傘の柄に手を添える。
二人で一本の傘を持つ形になる。
手が近い。
触れてはいない。
でも、少し動けば触れてしまう。
ミレイは胸がいっぱいになる。
(黒瀬くんは、こういうところで自然に優しい)
駅までの道は短いはずなのに、長く感じた。
でも、終わってほしくないとも思った。
駅に着いた時、ミレイは思わず言ってしまう。
「黒瀬くんと一緒だと、雨も悪くないわね」
黒瀬くんが完全に固まる。
ミレイは自分の発言に気づいて赤くなる。
「い、今のは、その……雨天時の移動負担が軽減されたという意味で」
黒瀬くんは真面目に頷く。
「相互雨天バフですね」
ミレイは笑ってしまう。
「そうね。相互雨天バフね」
◆オチ
その日の生徒会日誌。
黒瀬くんと相合傘。
ミレイは慌てて消そうとする。
だがリコに見られる。
「会長、今日の日誌、見出しが強すぎます」
ミレイは真っ赤になって言う。
「まだ本文を書いていないからセーフよ」




