第5話 「友達に言われた。お前、素材はいいぞ」
昼休み。
アキラはトオルと購買に並んでいた。
目当ては限定販売の「青春焼きそばパン」。
名前が強すぎて買わずにはいられなかった。
トオルはアキラを横目で見ながら言う。
「なあ、お前さ。髪どうにかしたら?」
アキラは即答する。
「髪型にリソースを割く余裕はない」
「どこに割いてんだよ」
「推しの誕生日グッズ」
「現実の自分にも課金しろ」
アキラは首を傾げる。
「僕に課金しても限定ボイスは出ないぞ」
「そういう問題じゃねえ」
トオルはアキラの前髪を指で上げようとする。
アキラは反射的に避ける。
「やめろ。封印を解くな」
「前髪を魔王扱いするな」
そこへ、桜庭ユナが通りかかる。
明るく可愛いことで有名な1年女子だ。
ユナはトオルとアキラのやりとりを見て笑う。
「黒瀬くんって面白いね」
アキラは固まる。
(陽キャ女子からの接触イベント!? 発生条件が不明すぎる)
ユナは続ける。
「前から思ってたけど、髪上げたら雰囲気変わりそう」
トオルがすかさず乗る。
「だろ? こいつ素材はいいんだよ」
アキラは真顔で言う。
「素材って何。僕は錬成されるのか?」
ユナは笑いながら去っていく。
「今度ちゃんと見せてよ、黒瀬くん」
その言葉を聞いて、周囲の男子がざわつく。
トオルはアキラの肩を掴む。
「お前、今の意味わかってる?」
「わかってる。たぶん僕を実験素材として観察したいんだ」
「違う! そうじゃない!」
その日の放課後、アキラは生徒会室に行く。
ミレイが書類を整理していた。
「黒瀬くん、来てくれたのね」
「はい。日課クエストです」
ミレイは微笑む。
「日課になっているのね」
その言葉に、アキラは変に照れる。
それをごまかすようにプリントを整理していると、前髪が邪魔で紙を落としてしまう。
ミレイが近づく。
「黒瀬くん、前が見えにくくない?」
「視界不良も慣れればパッシブスキルです」
「危ないわ」
ミレイはそっとアキラの前髪を横に流す。
一瞬だけ、アキラの目元が見える。
ミレイが固まる。
「……黒瀬くん」
「はい」
「目、綺麗なのね」
アキラの脳内で全システムが停止する。
(目? 綺麗? 僕の? それはバグ報告ですか?)
ミレイはすぐに手を引っ込め、少し顔を赤くする。
「ご、ごめんなさい。急に触って」
アキラは慌てる。
「いえ、髪型に一時的なメンテナンスが入っただけなので」
「メンテナンス?」
「はい。定期点検です」
「黒瀬くんは、髪も点検するのね」
リコが横から小声で言う。
「この二人、今わりと甘い場面だったのに、単語が全部おかしい」
帰宅後、アキラは鏡の前で前髪を上げてみる。
しかし自分ではよくわからない。
(目が綺麗……。生徒会長は視力がいいのか?)
そこへ姉のマドカが通りかかる。
「あんた、ちゃんと髪整えれば普通にイケメンなのに」
アキラは無表情で言う。
「姉さんまで幻覚を」
マドカはため息をつく。
「この弟、自己認識が低解像度すぎる」
◆オチ
翌朝、アキラは寝癖を直そうと努力する。
結果、寝癖が左右対称になる。
トオルが言う。
「違う。そういう芸術点はいらない」




