第4話 「黒瀬くんの言葉が難しすぎます」
ミレイは悩んでいた。
黒瀬アキラと話すのは楽しい。
けれど、彼の言葉が難しい。
数学や英語が難しいのとは違う。
知らない単語が突然、現実の会話に攻め込んでくるのだ。
「フラグ」
「イベント」
「クエスト」
「バフ」
「ラスボス」
「周回」
「尊い」
ミレイは生徒会長として、相手の言葉をきちんと理解したいと思っていた。
そこで、リコに相談する。
「リコ、黒瀬くんの言葉を勉強したいの」
リコはペンを落とす。
「会長、ついに異文化交流を始めるんですか」
「黒瀬くんと円滑に会話するためよ」
「それを世間では、気になる男子のことを知りたいって言います」
「違うわ。生徒会長として、協力者との意思疎通は大事でしょう?」
「はいはい、生徒会長としてですね」
リコは明らかに信じていない顔をする。
ミレイは図書館で「オタク用語」を調べようとする。
しかし、図書館の司書に相談した結果、なぜか古語辞典を渡される。
「おたく、という言葉はもともと二人称で……」
ミレイは真剣にメモする。
(黒瀬くんは、古文の可能性があるのね)
翌日、ミレイはアキラに話しかける。
「黒瀬くん、昨日はおたくについて勉強したわ」
アキラは飲んでいた水を吹きそうになる。
「生徒会長、それはどの意味のオタクですか」
「二人称から発展した言葉だと聞いたわ」
「そこから入ったんですか!?」
アキラは驚くが、少し嬉しそうでもある。
ミレイは胸を張る。
「それから、フラグについても考えたの」
「フラグを?」
「ええ。体育祭の旗と関係があるのかしら」
アキラは眼鏡の奥で瞬きをする。
「惜しいようで、かなり遠いです」
ミレイは少ししょんぼりする。
(勉強したのに、違ったのね)
それを見たアキラは慌てる。
「でも、理解しようとしてくれるのは嬉しいです」
ミレイは顔を上げる。
「本当?」
「はい。僕の話は、たいてい初見殺しなので」
「初見殺し……初対面の人を倒すということ?」
「違います! 物騒な生徒会長になってます!」
そのやりとりを聞いていたリコは、
「黒瀬くんがツッコミ側に回った……」
と感動する。
放課後、ミレイはアキラに「オタク用語講座」をお願いする。
アキラは最初こそ戸惑うが、好きな話題なのでだんだん熱が入る。
「つまり、フラグとは今後の展開を予感させるものです」
「予感……つまり、天気予報のようなもの?」
「近いです。でも心の天気予報です」
「心の天気予報……素敵ね」
「今の解釈、詩的すぎませんか?」
ミレイはノートに書く。
フラグ=心の天気予報。
アキラは止めようとするが、ミレイがあまりに真剣なので止められない。
講座の最後、ミレイは言う。
「黒瀬くん、今日はありがとう。あなたの世界を少し知れた気がするわ」
その言葉に、アキラは照れたように目をそらす。
ミレイはその横顔を見て、少しだけ胸が跳ねる。
(黒瀬くんは、好きなことを話している時、表情が明るくなるのね)
前髪で隠れていても、それはわかった。
もっと見てみたいと思ってしまった。
◆オチ
翌日、ミレイは生徒会の会議で言う。
「この議案にはフラグが立っているわ」
生徒会メンバー全員が固まる。
リコだけが頭を抱える。
「黒瀬くん、会長に何を教えたの」




