第46話 「会長、卵焼きの味を研究する」
黒瀬くんは、甘い卵焼きが好きらしい。
ミレイはその情報を、なぜか非常に重要なものとして記憶した。
(黒瀬くんは甘い卵焼きが好き)
授業中も思い出す。
生徒会室で書類を整理していても思い出す。
購買の前を通っても思い出す。
リコが言う。
「会長、今日はやけに機嫌がいいですね」
「そうかしら」
「黒瀬くんのお弁当イベントが効いてますね」
ミレイは赤くなる。
「イベントではないわ。困っている後輩に食料支援をしただけよ」
「食料支援で卵焼きの好みを記憶するんですね」
その日の夜、ミレイは家で卵焼きを作っていた。
甘さを少し変える。
出汁を入れる。
砂糖を増やす。
焼き加減を変える。
キッチンに卵焼きが増えていく。
母に聞かれる。
「ミレイ、急に卵焼きの研究?」
ミレイは真面目に答える。
「生徒会活動に必要なの」
母は首を傾げる。
「最近の生徒会は卵焼きも作るのね」
翌日、ミレイは弁当に卵焼きを多めに入れる。
生徒会室で黒瀬くんに言う。
「黒瀬くん、よかったら味見してくれる?」
アキラは完全に固まる。
「味見……僕が?」
「ええ。甘い卵焼きが好きだと言っていたから」
アキラは赤くなる。
「覚えていてくれたんですか」
ミレイは少し照れる。
「ええ。覚えていたわ」
アキラは卵焼きを食べる。
しばらく黙る。
ミレイは不安になる。
「どうかしら」
アキラは真剣な顔で言う。
「これは……かなり好きです」
ミレイの心臓が跳ねる。
卵焼きのことだとわかっている。
でも、「好き」という言葉が自分に向けられたような気がしてしまう。
リコが横で笑っている。
「会長、卵焼きに嫉妬しないでくださいね」
「していないわ」
でも少しだけ、卵焼きがうらやましかった。
◆オチ
その日の生徒会日誌。
黒瀬くんは甘めの卵焼きがかなり好き。
追記。
『好き』という言葉は、文脈に注意。
リコが読んで言う。
「会長、卵焼きから恋愛学んでますね」




