第44話 「会長、席替えに嫉妬していないと言い張る」
黒瀬くんのクラスで席替えがあった。
ミレイはたまたま廊下を通りかかっただけだった。
本当にたまたまだった。
そこで見てしまった。
黒瀬くんが女子に囲まれているところを。
右隣の女子が話しかける。
前の席の女子が振り返る。
桜庭ユナさんが笑う。
黒瀬くんは困った顔をしている。
ミレイは胸の奥がざわついた。
(これは……廊下から見た教室内の人員密度が気になっただけ)
生徒会室に戻ると、リコが言う。
「会長、顔が怖いです」
「怖くないわ」
「黒瀬くんの席替え見ました?」
ミレイはぴくっとする。
「見たというか、廊下を通ったら視界に入っただけよ」
「女子に囲まれてましたね」
「そうね」
「嫉妬ですか?」
「違うわ。教室内の男女比配置について考えていただけよ」
リコは無表情になる。
「新しい言い訳ですね」
放課後、黒瀬くんが生徒会室に来る。
ミレイは普段通りに振る舞おうとする。
しかし、つい聞いてしまう。
「席替え、どうだった?」
黒瀬くんは少し疲れた顔をする。
「周囲の女子エンカウント密度が上がりました」
ミレイは胸がちくりとする。
「楽しそうだったわ」
言ってから、少し後悔する。
棘があったかもしれない。
でも黒瀬くんは真面目に答える。
「いえ、正直かなり混乱しています。生徒会室の方が落ち着きます」
その言葉で、ミレイの胸のざわつきがすっと消えていく。
(生徒会室の方が落ち着く……)
それはつまり、自分の近くが落ち着くということだろうか。
そう考えて、顔が熱くなる。
リコが横から言う。
「会長、今すごくわかりやすく機嫌が直りましたね」
ミレイは咳払いする。
「黒瀬くんが困っていないとわかって安心しただけよ」
「嫉妬からの安心ですね」
「違うわ」
けれど、完全には否定できなかった。
その日の帰り際、黒瀬くんが言う。
「席が変わっても、生徒会室に来る時間は変わりません」
ミレイは思わず微笑む。
「それは嬉しいわ」
黒瀬くんは赤くなる。
その顔を見て、ミレイも少し赤くなる。
◆オチ
その日の生徒会日誌。
黒瀬くんの席替えにより、周辺女子密度が上昇。
追記。
本人は混乱しているため、経過観察。
リコが読んで言う。
「会長、嫉妬を研究報告っぽく書くのやめません?」




