第34話 「会長、執事カフェで言い間違える」
文化祭本番。
ミレイは生徒会長として忙しかった。
開会式。
校内巡回。
来場者対応。
落とし物確認。
ステージ進行の調整。
しかし、心のどこかではずっと1年B組のことが気になっていた。
正確には、黒瀬くんの執事姿が気になっていた。
リコはそれを見透かしている。
「会長、巡回ルートに1年B組だけ三回入ってます」
「動線の確認よ」
「動線、便利ですね」
昼前、ようやく1年B組に入る。
謎解き執事カフェは大盛況だった。
そして黒瀬くんは、予想以上にちゃんと執事をしていた。
少しぎこちない。
でも丁寧で、真面目で、言葉の端々に黒瀬くんらしさがある。
ミレイは席に案内されるだけで、心が忙しくなる。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
その一言で、心の中の生徒総会が大荒れになる。
(落ち着いて、白鳥ミレイ。これは接客。文化祭の接客よ)
謎解きが始まる。
ミレイは真剣に解こうとするが、黒瀬くんが近くにいるせいで集中できない。
問題文を読んでいるはずが、気づけば彼の袖口を見ている。
ヒントを考えているはずが、彼の声を聞いている。
そして、思わず妙な解答をしてしまう。
「私の今日の心拍数?」
言った瞬間、自分でも意味がわからなかった。
黒瀬くんが固まる。
リコが横で笑う。
ミレイは顔から火が出そうになる。
(どうして心拍数なんて言ったの? それは今、一番知られたくない数字でしょう)
黒瀬くんは真面目に言う。
「心拍数は……個人情報です」
その答えが黒瀬くんらしくて、ミレイはさらに恥ずかしいのに笑ってしまう。
謎解きは、リコの助けもあって無事クリア。
最後に、ミレイは感想を言おうとする。
本当は、
「黒瀬くんの接客、とてもよかったわ」
と言うつもりだった。
しかし口から出たのは、
「黒瀬くんの接客、好きよ」
だった。
時間が止まった。
黒瀬くんが固まる。
リコが口を押さえる。
クラスの女子たちがざわつく。
ミレイは慌てる。
「ち、違うの。接客が、好きという意味で」
リコが小声で言う。
「会長、今さら限定しても遅いです」
黒瀬くんは真っ赤になったまま、静かに言う。
「ありがとうございます。接客スキルに経験値が入りました」
ミレイは思う。
(黒瀬くん、逃げ方が黒瀬くんらしいわ)
でも、その優しさに救われた。
◆オチ
生徒会室に戻った後、リコが言う。
「会長、文化祭初日から告白未遂ですね」
ミレイは両手で顔を覆う。
「違うわ。言い間違いよ」
リコは笑う。
「本音の言い間違いって、一番危ないんですよ」




