第33話 「文化祭本番、執事アキラ起動します」
文化祭当日。
1年B組、謎解き執事カフェは開店前から妙な熱気に包まれていた。
女子たちは衣装チェック。
男子たちは看板設置。
トオルはなぜか支配人風のポーズを取っている。
アキラは執事服を着たまま、教室の隅で精神統一していた。
(これは演技。これはロールプレイ。僕は黒瀬アキラではない。謎解き執事カフェの受付NPCだ)
トオルが肩を叩く。
「おい、受付NPC。開店だぞ」
「その呼び方が一番落ち着く」
開店と同時に、女子客が押し寄せる。
「黒瀬くんいる?」
「執事姿見に来た!」
「写真いい?」
アキラは震える。
(開幕から高難度。チュートリアルはどこだ)
しかし、意外にも接客はうまくいった。
「お帰りなさいませ、お嬢様。本日の謎は三段階構成です」
「こちらの紅茶には、精神回復効果はありませんが、香りは良いです」
「ヒントをご希望ですか? では、こちらの封筒を開封してください」
客は笑う。
女子たちは「黒瀬くんらしい」と喜ぶ。
謎解きも好評だった。
アキラは少しだけ自信を持ち始める。
(なるほど。現実の接客も、形式化すれば対応可能)
だが、その自信はすぐ崩れる。
ミレイが来た。
白鳥ミレイ生徒会長が、リコと一緒に教室へ入ってきた。
その瞬間、アキラの中の執事NPCが強制ログアウトしかける。
トオルが小声で言う。
「来たぞ、お前のラスボス」
「ラスボスではない。最高難度ヒロインだ」
「自覚あるじゃねえか」
ミレイは席に案内される。
アキラが接客担当になる。
逃げ道はない。
彼は深呼吸し、礼をする。
「お、お帰りなさいませ……お嬢様」
ミレイの顔が赤くなる。
アキラも赤くなる。
リコが横でにやにやしている。
ミレイはメニューを見ながら言う。
「黒瀬くん、おすすめはどれ?」
アキラは真剣に答える。
「謎解きセットAです。難易度は低めですが、伏線回収が綺麗です」
「伏線回収が綺麗な紅茶セットなのね」
「いえ、紅茶ではなく謎が」
「そうなのね」
二人の会話はいつも通り噛み合っていない。
なのに、なぜか楽しい。
ミレイは謎解きに挑戦するが、天然解答を連発する。
問題。
この部屋に隠された数字を探せ。
ミレイは真剣にアキラを見る。
「黒瀬くんの出席番号?」
「違います」
「文化祭実行委員の人数?」
「違います」
「私の今日の心拍数?」
アキラが固まる。
リコが吹き出す。
ミレイは自分で言ってから赤くなる。
「い、今のは違うの」
アキラは震える声で言う。
「心拍数は……個人情報です」
◆オチ
謎解き後、ミレイは満足そうに言う。
「とても楽しかったわ。黒瀬くんの接客、好きよ」
アキラは完全停止。
トオルが叫ぶ。
「受付NPCが落ちたぞ!」
リコが言う。
「会長、今の言い方は強すぎます」
ミレイは真っ赤になって固まる。




