第31話 「文化祭前日、黒瀬アキラは逃げ道を探す」
文化祭前日。
私立青春高校は、どこを見ても浮かれていた。
廊下には色とりどりの飾り。
教室には段ボールとペンキの匂い。
校庭ではステージ設営。
普段は静かな図書室前にまで、なぜか巨大なドラゴンの張りぼてが置かれている。
アキラは震えていた。
(文化祭前日。学園ラブコメにおける超大型イベント前夜。ここで逃げるルートは……ない)
1年B組の企画、謎解き執事カフェも完成間近だった。
机は黒い布で覆われ、壁には古い洋館風の装飾。
入り口には、トオルが書いた看板が掲げられている。
ようこそ、青春館へ。謎を解かねば帰れません。
アキラは看板を見て言う。
「帰れないのは法的にまずい」
トオルは笑う。
「雰囲気だよ、雰囲気」
「雰囲気で監禁を匂わせるな」
女子たちは執事服の最終確認で盛り上がっていた。
「黒瀬くん、明日これ着てね」
「髪もちゃんとセットね」
「眼鏡なしでお願い!」
アキラは一歩後ずさる。
(包囲網が完成している。逃走成功率、限りなくゼロ)
そこへミレイが文化祭実行委員の確認でやってくる。
「準備は順調?」
クラスの女子たちは一斉にミレイへ向く。
「会長、黒瀬くんが逃げそうです!」
アキラは即座に否定する。
「逃げません。戦略的撤退を検討していただけです」
ミレイは真剣に心配する。
「黒瀬くん、無理をしていない?」
その声を聞いた瞬間、アキラの中の撤退ゲージが下がる。
「……少し緊張しているだけです」
ミレイは柔らかく笑う。
「大丈夫。黒瀬くんなら、きっとできるわ」
アキラの心臓に、また高火力ワードが刺さる。
(信頼バフ……!)
その後、アキラはミレイに文化祭パンフレットの束を運ぶのを手伝う。
二人で人気の少ない廊下を歩く。
窓の外は夕方で、校舎の中は少しだけ静かだった。
ミレイが言う。
「明日、あなたのクラスにも行くわね」
アキラは足を止めそうになる。
「生徒会長が……来る?」
「ええ。謎解き執事カフェ、楽しみにしているの」
アキラの頭の中で警報が鳴る。
(当日、生徒会長に接客する可能性が確定。これはボス戦では?)
ミレイは少し首を傾げる。
「嫌だった?」
アキラは慌てて首を振る。
「いえ。むしろ、来てもらえるのは……嬉しいです」
言ってから、アキラは固まる。
(今、何を言った? 嬉しい? 素直すぎないか?)
ミレイも少し赤くなる。
「そう。よかった」
それだけの会話だった。
でも、アキラには十分すぎた。
◆オチ
帰宅後、姉のマドカに文化祭の話をすると、彼女は言った。
「明日、私も行こうかな。執事の弟、見たいし」
アキラは青ざめる。
「身内参戦は想定外イベントすぎる」
マドカは笑う。
「大丈夫。大声で『うちのアキラがこんなに立派に』って泣くだけだから」
「それが一番の即死攻撃なんだよ!」




