第28話 「会長、お嬢様と呼ばれて心が迷子になる」
黒瀬くんに言われた。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
たった一言。
文化祭の練習。
ただの台詞。
それなのに、ミレイは一日中その言葉を思い出していた。
(お嬢様……)
生徒会室で書類を読んでいても、頭の中で再生される。
廊下を歩いていても再生される。
購買でパンを買おうとしても再生される。
田島さんに、
「会長、顔赤いけど恋の予感パンにする?」
と言われるほどだった。
ミレイはリコに相談する。
「黒瀬くんにお嬢様と呼ばれてから、心が落ち着かないの」
リコは笑う。
「会長、順調に攻略されてますね」
「攻略? 私はゲームではないわ」
「黒瀬くんにとっては、たぶん最高難度ヒロインです」
ミレイは真剣に考える。
「攻略されると、どうなるの?」
リコは少し間を置いて言う。
「両想いになります」
ミレイは固まる。
両想い。
その言葉は、あまりにもまっすぐ胸に入ってきた。
(私と黒瀬くんが……?)
想像しただけで、顔が熱くなる。
放課後、アキラが生徒会室に来る。
ミレイは何とか平静を装う。
「黒瀬くん、執事練習は順調?」
「いえ。台詞を言うたびに精神力が削られます」
「そうなの?」
「特に、生徒会長にお嬢様と言う場面は高難度です」
ミレイは心臓を押さえたくなる。
「私も……少し高難度だったわ」
アキラは赤くなる。
二人とも黙る。
リコが静かに言う。
「この沈黙、糖度高いですね」
◆オチ
ミレイは日誌に書く。
黒瀬くんのお嬢様呼びは、心に影響が出る。
追記。
文化祭当日は注意。
リコが読んで言う。
「会長、それ注意してもたぶん無理です」




