第109話 「花火大会に誘う練習をしたら全パターン失敗した」
花火大会まで、あと二日。
アキラは部屋で一人、深刻な作戦会議をしていた。
机の上にはノート。
タイトルは、
花火大会誘導作戦案
自分でもひどいタイトルだと思った。
しかし、それほど重要だった。
前回は誘う直前で、ミレイに予定があるかもしれないと判明した。
まだ確定ではないかもしれない。
だが、誘って断られたらどうする。
いや、予定があるなら仕方ない。
問題は、誘う前に自分が爆発する可能性である。
(花火大会に誘う。それは実質、夏休み恋愛イベントへの招待。難易度が高すぎる)
候補文を書く。
ミレイ先輩、花火大会に一緒に行きませんか。
直球。
心臓がもたない。
もし予定がなければ、花火大会に行きませんか。
無難。
だが断られた時のダメージが明確。
花火大会という季節イベントがあるのですが、同行者を募集しています。
業務連絡みたいで駄目。
花火クエスト、一緒に受けませんか。
自分らしい。
でも、これで伝わるのか。
アキラは頭を抱える。
姉のマドカが部屋に入ってくる。
「何してるの?」
「花火大会誘導作戦」
「タイトルからして失敗しそう」
アキラはノートを隠す。
マドカは容赦なく言う。
「普通に誘えばいいじゃん」
「普通が一番難しい」
「じゃあ、練習してみな」
アキラは渋々、姉をミレイに見立てて練習する。
「ミレイ先輩、花火大会に一緒に……」
途中で止まる。
「はい失敗」
「判定が早い」
二回目。
「ミレイ先輩、三日後の夜間イベントに……」
「怪しい」
三回目。
「ミレイ先輩、花火クエストを……」
「会長なら通じるかもしれないけど、デート感が迷子」
アキラは机に突っ伏す。
「全部失敗だ」
マドカは笑う。
「だからさ、かっこよく言おうとしなくていいんだよ。あんたらしく誘えば?」
「僕らしく?」
「そう。会長は、あんたの変な言い方も好きなんでしょ」
アキラは固まる。
「好き……とは限らない」
「じゃあ、少なくとも嫌いじゃない」
それは、たぶんそうだ。
ミレイはいつも、自分の妙な言葉を否定しない。
わからなくても聞いてくれる。
時々、自然に返してくれる。
アキラは少しだけ勇気が湧いた。
その夜、ミレイにメッセージを開く。
文章を打つ。
ミレイ先輩、花火大会の日の予定は確定しましたか?
送れない。
消す。
また打つ。
三日後の花火大会、もし予定がなければ……
送れない。
アキラはスマホを置いた。
(今日は無理。明日、直接言う)
◆オチ
マドカが部屋の外から言う。
「明日言うってことは、明日の自分に丸投げしたね」
アキラは静かに答える。
「未来の僕なら、たぶんレベルが上がっている」
マドカは笑った。
「明日のあんたも同じレベルだよ」
アキラは絶望した。




