第110話 「会長、誘われるかもしれないと思うと落ち着かない」
花火大会まで、あと二日。
ミレイは朝から落ち着かなかった。
親戚の集まりは、まだ確定していない。
母によれば、叔母の都合次第で中止になる可能性もあるらしい。
つまり、花火大会に行けるかもしれない。
そして、黒瀬くんは前回、何かを言いかけていた。
「ミレイ先輩、その……」
あれは、花火大会に誘おうとしてくれていたのではないか。
そう思うと、胸が高鳴る。
でも、もし違ったら。
もし全然別の話だったら。
期待している自分が恥ずかしい。
リコにメッセージすると、すぐに返ってきた。
会長から誘えばいいじゃないですか。
ミレイはスマホを見つめる。
自分から誘う。
それは考えていなかったわけではない。
でも、言えるだろうか。
黒瀬くん、花火大会に一緒に行かない?
想像しただけで、顔が熱くなる。
(これは、かなり直接的だわ)
リコから追加メッセージ。
黒瀬くんはたぶん誘う練習で死にかけてますよ。
ミレイは少し笑ってしまった。
確かに、黒瀬くんなら練習していそうだ。
名前呼びも練習していた。
家族に聞かれたと言っていた。
花火大会に誘う練習も、きっとしている。
そう思うと、胸がぎゅっとなる。
(黒瀬くんが頑張って誘おうとしてくれているなら、私もちゃんと答えたい)
その日の午後、親戚の集まりが中止になったと母から聞かされた。
ミレイは思わず立ち上がる。
「本当に?」
母はにこにこする。
「ええ。予定、空いたわよ」
予定が空いた。
花火大会に行ける。
黒瀬くんに伝えるべきか。
それとも、誘われるのを待つべきか。
ミレイはスマホを開き、黒瀬くんとのメッセージ画面を見つめる。
打つ。
花火大会の日、予定が空きました。
送信ボタンの前で止まる。
これを送ったら、誘ってほしいと言っているように見えるのではないか。
いや、実際少しそうなのだ。
ミレイは顔を赤くする。
結局、送れなかった。
(明日、会えたら言おう)
そう決める。
でも、明日が来るまで落ち着けそうになかった。
◆オチ
夜、リコからメッセージが来る。
予定、どうなりました?
ミレイは返信する。
空いたわ。でも、黒瀬くんにはまだ言えていないの。
リコ。
二人とも明日の自分に丸投げしてますね。
ミレイは驚いた。
二人とも?
リコから返事。
黒瀬くんも絶対そうです。
ミレイはスマホを見つめて、小さく笑った。
「明日の私、頑張って」




