第101話 「夏休み二回目の生徒会活動日はプール清掃だった」
夏休み二回目の生徒会活動日。
アキラは朝から少し浮かれていた。
理由はもちろん、生徒会の手伝いで学校に行くからである。
正確に言えば、ミレイに会えるからである。
しかし本人はまだそれを、
(重要クエストへの参加意欲)
と呼んでいた。
校舎に着くと、ミレイは生徒会室ではなく、職員室前にいた。
いつもの書類ではなく、手にはタオルとバインダー。
「おはよう、黒瀬くん」
「おはようございます、ミレイ先輩。今日はどのクエストですか?」
ミレイは少し困ったように笑った。
「実は、水泳部から頼まれていて」
「水泳部?」
「プールの水抜きと清掃の確認を手伝うことになったの」
アキラは固まった。
プール。
夏休み。
水。
青春イベント三大危険要素のひとつである。
(プール回……? いや待て。水着回ではなく清掃回。ならまだ安全……なのか?)
水泳部員たちは大会準備で人数が足りず、生徒会に管理補助を頼んだらしい。
アキラは一瞬逃げ道を探したが、ミレイが言った。
「黒瀬くん、無理なら大丈夫よ」
その言葉で、逃げ道は消えた。
「いえ、手伝います。水抜きクエスト、受注します」
プールに向かうと、夏の光が水面に反射していた。
まだ少し水が残っているプールは、青くて、静かで、妙に眩しい。
アキラは思う。
(通常ステージなのに、急にイベント背景が強い)
ミレイは水泳部の顧問から説明を受ける。
水位を確認しながら排水。
プールサイドの備品整理。
清掃用具の確認。
滑りやすい場所の注意。
アキラは真面目にメモを取る。
「滑りやすい場所あり。足元注意。水属性フィールド」
ミレイが首を傾げる。
「水属性フィールド?」
「濡れている場所は行動判定に補正がかかります」
「なるほど。転びやすいということね」
「はい。だいたい合っています」
水泳部の女子が小声で言う。
「会長と黒瀬くん、会話独特だね」
別の部員が答える。
「でも通じてるっぽいのがすごい」
アキラは清掃用具を運び、ミレイはバインダーでチェックをする。
ミレイの髪は暑さのせいで少しだけ結ばれていて、首元が見えていた。
アキラは視線を逸らす。
(夏休み差分に加えてプールサイド差分。情報量が多い。処理が重い)
ミレイが振り返る。
「黒瀬くん、暑くない?」
「大丈夫です。精神的には暑いですが」
「精神的に?」
「いえ、気温の比喩です」
リコがいないため、ツッコミ不在だった。
そのことが、逆に危険だった。
◆オチ
作業開始から十分後。
アキラはプールサイドに置かれた清掃ブラシを見て呟いた。
「これ、武器に見えますね」
ミレイは真剣に言った。
「黒瀬くん、プール清掃では戦わないわ」
アキラは頷いた。
「はい。今日の敵は水垢です」
近くの水泳部員が吹き出した。




