第102話 「会長、プールサイドで黒瀬くんを意識しすぎる」
夏休み二回目の生徒会活動日。
水泳部の依頼で、プールの水抜きと清掃確認を手伝うことになった。
本来なら、生徒会長として淡々と作業を進めればいいだけだった。
しかし、黒瀬くんが一緒にいる。
それだけで、いつもの作業とは少し違って感じられた。
夏のプールサイド。
眩しい日差し。
水面の反射。
水の匂い。
遠くで鳴く蝉。
そして、清掃用具を真面目に運んでいる黒瀬くん。
(黒瀬くん、こういう作業もちゃんとしてくれるのよね)
ミレイはバインダーを見ながら、ちらりと彼を見る。
黒瀬くんは汗をかきながらも、一つ一つ丁寧に道具を並べていた。
普段はオタク用語だらけで不思議なことを言う。
けれど、頼まれたことは本当にきちんとやる。
その誠実さを知っている自分が、少し嬉しい。
水泳部の女子が声をかけてくる。
「会長、黒瀬くんって最近よく一緒にいますよね」
ミレイは危うくバインダーを落としそうになった。
「そ、そうかしら。生徒会の手伝いをしてくれているから」
「夏休みも来てくれるなんて、すごいですね」
「ええ。とても助かっているわ」
言いながら、胸の奥が温かくなる。
助かっている。
それは本当。
でも、それだけではない。
来てくれて嬉しい。
そう言いたい気持ちを、ミレイはバインダーの陰に隠した。
作業中、黒瀬くんが言う。
「ミレイ先輩、このホースはどこに?」
名前で呼ばれる。
それにも、まだ慣れきっていない。
「そ、それはプールサイドの端にお願い」
「了解しました」
黒瀬くんはホースを持ち上げる。
その時、腕に少し力が入るのが見えた。
ミレイは思わず見てしまう。
(黒瀬くん、思ったより力があるのね)
そういえば、以前も段ボールを支えてくれた。
体育祭でも走っていた。
眼鏡で髪がぼさぼさだった頃からは想像しにくいけれど、今の黒瀬くんは女子たちが騒ぐのも少しわかる。
そう思った瞬間、胸の中が少しざわついた。
他の女子たちも、同じように見ているのだろうか。
水泳部の女子がまた言う。
「黒瀬くん、地味にかっこいいですよね」
ミレイは咳き込んだ。
「だ、大丈夫ですか、会長?」
「ええ。少し水の反射が」
黒瀬くんが心配そうに近づいてくる。
「ミレイ先輩、気分悪いですか?」
「大丈夫よ」
彼の顔が近い。
心配そうな目。
ミレイはさらに動揺する。
(大丈夫ではないかもしれないわ。主に心が)
◆オチ
作業中、黒瀬くんが真面目に言った。
「プール清掃は、思ったよりパーティプレイですね」
ミレイは自然に返した。
「そうね。協力が大切だもの」
水泳部の女子が小声で言った。
「会長、黒瀬語を普通に理解してる……」
ミレイは少し誇らしかった。




