第137話 「三人で帰ると会話が渋滞する」
その日の放課後、アキラはミレイと一緒に帰ることになった。
正確には、駅までの道が同じなので途中まで一緒に行く流れだった。
夏休み以降、こういうことが少し増えた。
アキラはそれを、
(帰宅同行イベント)
と呼んでいる。
ただし、今日はいつもと違った。
烏丸がいた。
「僕も帰る方向が同じだ」
リコが小声で言う。
「絶対違いますよね」
烏丸は堂々と言った。
「今日は同じだ」
アキラは首を傾げる。
「今日は、ということは通常は違うんですか?」
烏丸は一瞬詰まった。
「細かいことを気にするな」
ミレイは少し困ったように笑っている。
三人で学校を出る。
並び順が難しい。
ミレイを真ん中にすると、烏丸とアキラが両側になる。
アキラを真ん中にすると、なぜか烏丸が不服そう。
烏丸を真ん中にすると、リコが遠くから見ていたら笑うだろう。
結局、自然な流れでミレイが真ん中になった。
烏丸が言う。
「白鳥さん、二学期の生徒会も忙しくなりそうだね」
ミレイが頷く。
「ええ。文化祭は終わったけれど、今度は生徒総会の準備もあるわ」
アキラは言う。
「生徒総会は大型会議イベントですね」
烏丸が即座に反応する。
「なるほど、全校規模のクエストということか」
アキラは驚く。
「烏丸先輩、理解が早いです」
烏丸は少し得意げになる。
「当然だ」
ミレイは嬉しそうに言う。
「二人とも、会話が通じてきたわね」
烏丸は少し赤くなる。
「別に黒瀬くんと通じたいわけでは」
「でも今、通じてました」
アキラが真面目に言うと、烏丸はさらに赤くなった。
しばらく歩く。
話題は夏休みに移る。
烏丸が言う。
「そういえば、君たちは夏休み、随分いろいろあったようだね」
アキラとミレイが同時に固まる。
花火大会。
海。
プール事件。
記憶が一気に蘇る。
烏丸は少し拗ねた声で言う。
「僕はほとんど聞いていない」
ミレイは慌てる。
「烏丸くんも、夏休みどう過ごしていたの?」
烏丸は少し待ってましたという顔をした。
「よくぞ聞いてくれた。僕は夏期講習、家の用事、ピアノの発表会、それから――」
話が長かった。
かなり長かった。
アキラは思う。
(烏丸先輩、かまってほしかった分、夏休み報告ログが溜まりすぎている)
ミレイは真面目に聞いている。
烏丸はどんどん嬉しそうになる。
アキラは途中で言った。
「烏丸先輩、話すと経験値が入るタイプですか?」
烏丸は答えた。
「入っている気がする」
アキラは頷く。
「黒瀬語、定着しています」
烏丸は固まった。
◆オチ
駅に着く頃、烏丸は満足そうだった。
「今日は有意義だった」
ミレイが微笑む。
「烏丸くんの夏休みの話、聞けてよかったわ」
烏丸は顔を赤くして咳払いした。
アキラは言った。
「烏丸先輩、かまってほしい時はそう言ってください」
烏丸は叫んだ。
「かまってほしいわけではない!」
通りすがりの小学生が言った。
「かまってほしそう」
烏丸は完全に沈黙した。




