第132話 「会長、烏丸くんが拗ねている理由を知る」
新学期最初の放課後。
久しぶりの生徒会室で、黒瀬くんと二学期の話をしていた。
夏休みを挟んでも、黒瀬くんは生徒会室に来てくれた。
名前で呼んでくれるのも、少し自然になっている。
「ミレイ先輩」
そう呼ばれるたび、まだ胸は少し跳ねる。
けれど、その跳ね方も心地よくなっていた。
そんな穏やかな時間は、烏丸くんの登場によって一気に吹き飛んだ。
「なんか、僕の存在忘れてない?!」
ミレイは最初、何のことかわからなかった。
烏丸くんは夏休み中、確かに何度か見かけた。
商店街で。
駅前で。
花火大会の日にも。
けれど、どれも偶然だと思っていた。
リコはすぐに見抜く。
「偶然にしては出現率高かったですよね」
黒瀬くんも真面目に言った。
「花火大会の帰り道、烏丸先輩は逆方向から三回現れましたよ」
三回。
ミレイは驚いた。
「烏丸くん、そうだったの?」
烏丸くんは顔を赤くしながら視線を逸らす。
「たまたまだ」
リコがにこにこしている。
「たまたまを三周したんですね」
烏丸くんは言葉に詰まった。
いつもの烏丸くんなら、もっと自信たっぷりに振る舞う。
けれど今日は、どこか拗ねている。
その様子が少しだけ可愛らしく見えた。
烏丸くんは、ミレイに好意を持ってくれている。
それは以前からわかっていた。
けれど最近、黒瀬くんに対しても妙に絡むことが増えた。
ライバル視しているだけだと思っていた。
でも、今の様子を見ると、どうやらそれだけではないらしい。
黒瀬くんが言う。
「烏丸先輩、僕は友人候補リストに入ったんですか?」
烏丸くんは一瞬迷った後、
「仮登録だ」
と言った。
ミレイは思わず微笑んだ。
烏丸くんは、黒瀬くんのことを少し気に入っているのかもしれない。
黒瀬くんは驚いたように瞬きをしている。
「フレンド申請、審査中ですね」
烏丸くんは腕を組んで、少しだけ嬉しそうだった。
「そういうことにしておこう」
リコが言う。
「烏丸先輩、黒瀬くんと仲良くなりたいなら、普通に言えばいいのに」
烏丸くんは即座に否定する。
「別に仲良くなりたいわけではない!」
黒瀬くんは真剣に聞く。
「では、仮登録の目的は?」
烏丸くんは言葉に詰まる。
「そ、それは……ライバルを知るためだ」
リコがすぐに言う。
「ライバルって言いながら友達作るタイプですね」
ミレイは笑ってしまった。
烏丸くんはさらに赤くなる。
「笑うところじゃない!」
でも、その空気は悪くなかった。
夏休みで少し変わったのは、黒瀬くんと自分だけではないのかもしれない。
烏丸くんも、少しずつ変わっている。
そう思った。
◆オチ
その日の生徒会日誌。
新学期初日。烏丸くんが『存在を忘れていないか』と確認に来た。
追記。
どうやら黒瀬くんと仲良くなりたいらしい。本人は否定。
さらに追記。
仮登録という言葉を気に入った様子。
リコが読んで言った。
「会長、烏丸先輩の観察日誌も始めたんですか?」
ミレイは少し考えた。
「生徒会室の人間関係把握は大切よ」
リコは笑った。
「最近の生徒会、恋愛と友情の実験室ですね」




