第131話 「新学期初日、烏丸先輩が爆速で来た」
夏休みが終わった。
長かったようで短かった夏休み。
生徒会活動日。
プール清掃事件。
花火大会。
海イベント。
思い返すと、アキラの夏休みは例年と比べて明らかにおかしかった。
例年なら、推しイベントと録画アニメと積みゲーが中心だったはずだ。
だが今年は違う。
思い出の中心に、ほぼミレイがいる。
(これはもう、夏休みのメインストーリーが完全にミレイ先輩ルートだったのでは)
そんなことを考えながら、新学期最初の放課後、アキラは生徒会室へ向かっていた。
久しぶりの通常登校。
久しぶりの放課後の校舎。
久しぶりの生徒会室。
ドアを開けると、ミレイがいた。
「黒瀬くん」
「ミレイ先輩」
名前を呼ぶのも、夏休み前より少し自然になっていた。
ミレイも少し嬉しそうに笑う。
「新学期もよろしくね」
「はい。二学期クエスト、よろしくお願いします」
ミレイは自然に微笑む。
「ええ。よろしくお願いするわ」
その空気は、かなり穏やかだった。
夏休みを経て、二人の距離は確実に近づいている。
アキラはそれを感じていた。
だが、その穏やかな空気は、次の瞬間、勢いよく破壊された。
バンッ。
生徒会室のドアが開いた。
烏丸レンが立っていた。
髪型は完璧。
制服も完璧。
表情だけが完璧ではない。
かなり怒っている。
「なんか、僕の存在忘れてない?!」
生徒会室が静まり返った。
アキラは思わず瞬きをする。
「烏丸先輩」
ミレイも驚いている。
「烏丸くん?」
リコは机の奥で資料を整理していたが、すぐに顔を上げた。
「うわ、拗ねた王子が来た」
烏丸はリコを指さした。
「拗ねてない!」
「じゃあ第一声が『僕の存在忘れてない?!』なのは何ですか」
「確認だ!」
アキラは真剣に考える。
確かに、烏丸とは夏休み中に何度か会った。
商店街で一度。
駅前で一度。
花火大会の帰り道に遠くから一度。
そのたびに、少しだけ会話した気がする。
「偶然、何度か会いましたよね」
烏丸はびくっとした。
「そ、そうだね。偶然ね」
リコが目を細める。
「偶然にしては出現率高かったですよね」
烏丸は咳払いした。
「僕はたまたま、その場所にいただけだ」
アキラは首を傾げる。
「でも花火大会の帰り道、烏丸先輩は逆方向から三回現れましたよ」
烏丸が固まる。
ミレイが不思議そうに言う。
「三回?」
リコが笑いをこらえる。
「それ、完全に周回してますね」
アキラは真顔で言う。
「烏丸先輩も周回プレイヤーだったんですか?」
烏丸は叫んだ。
「違う! 僕はただ……!」
そこで言葉が止まる。
少しだけ、耳が赤い。
「その……君たちが楽しそうだったから、少し気になっただけだ」
アキラは驚いた。
君たち。
烏丸はミレイだけでなく、自分のことも見ていたのか。
烏丸は目を逸らす。
「白鳥さんはもちろん気になる。だが、黒瀬くん、君も最近ずいぶん変わったからね」
「僕が?」
「そうだ。以前はボサボサの眼鏡男子だったのに、今ではやたら周囲を巻き込んでいる。気にならない方がおかしい」
アキラは少し考えた。
「それは観察対象としてですか?」
烏丸はしばらく黙り、ぼそっと言った。
「……友人候補としてだ」
生徒会室が止まった。
リコが小声で言った。
「烏丸先輩、ついにデレましたね」
烏丸は真っ赤になった。
「デレてない!」
◆オチ
アキラは真剣に言った。
「烏丸先輩、僕は友人候補リストに入ったんですか?」
烏丸は腕を組んで答えた。
「仮登録だ」
アキラは頷いた。
「なるほど。フレンド申請、審査中ですね」
烏丸は一瞬黙ったあと、なぜか少し嬉しそうに言った。
「……そういうことにしておこう」
リコがぼそっと言った。
「この人、黒瀬語に適応し始めてる」




