第130話 「会長、海辺で少しだけ本音を言う」
ユナさんに言われた。
頑張った方がいい、と。
リコにも、ずっと言われている。
待っているだけでは進まない。
花火大会で少し進んだのだから、ここで逃げてはいけない。
ミレイはパラソルの下にいる黒瀬くんの方へ歩いた。
彼は少し疲れたように座っていた。
けれど、ミレイに気づくとすぐに姿勢を正した。
その反応が、やっぱり嬉しい。
「隣、いいかしら」
「もちろんです」
隣に座る。
波の音が聞こえる。
周りは賑やかなのに、二人の間だけ少し静かだった。
ミレイは深呼吸した。
言うなら今だと思った。
「今日は、来て驚いた?」
黒瀬くんは正直に言う。
「はい。かなり」
その答えに、少し笑いそうになる。
黒瀬くんらしい。
でも、今回はごまかさない。
「ごめんなさい。偶然みたいに言ったけれど……実は、黒瀬くんが来ることを知っていたの」
言った。
言ってしまった。
黒瀬くんが驚いた顔をする。
ミレイは続ける。
「あなたが海に行くって聞いて、少し気になってしまって。リコに相談したら、一緒に行こうって」
胸が高鳴る。
これは、かなり素直な言葉だった。
嫉妬とは言っていない。
好きとも言っていない。
でも、気になったと認めた。
ミレイにとっては大きな一歩だった。
「迷惑だった?」
聞くのが怖かった。
でも、黒瀬くんはすぐに首を振った。
「迷惑じゃないです」
その即答だけで、胸が軽くなる。
彼は少し赤くなりながら言った。
「むしろ……来てくれて嬉しかったです」
ミレイは息を止めた。
嬉しかった。
黒瀬くんが、またまっすぐ言ってくれた。
「本当?」
「はい。海フィールドの難易度が下がりました」
ミレイは笑った。
黒瀬くんらしい言葉。
でも、ちゃんと伝わる。
そして、黒瀬くんは少し迷った後、言った。
「僕も、もしミレイ先輩が男子もいる海に行くって聞いたら、かなり気になると思います」
ミレイの心臓が大きく鳴った。
黒瀬くんも、気になる。
自分が誰かと海へ行くことを。
それは、つまり。
ミレイは顔が熱くなる。
「そうなの?」
「はい。たぶん、落ち着きません」
嬉しかった。
胸がぎゅっとなるくらい。
ミレイは少しうつむいて、小さく言った。
「私も、落ち着かなかったの」
言えた。
花火大会の時よりも、さらに少しだけ踏み込めた気がした。
黒瀬くんは黙っている。
でも、その沈黙は嫌ではなかった。
むしろ、二人で同じ気持ちを持て余しているようで、少しだけ幸せだった。
その後、トオルくんが戻ってきて、空気は少し崩れた。
でも、それでよかった。
これ以上続いていたら、ミレイの心臓がもたなかったかもしれない。
◆オチ
帰り際、ユナさんがミレイに小声で言った。
「会長、今日ちょっと進みましたね」
ミレイは赤くなりながら答えた。
「少しだけ」
ユナさんは笑った。
「黒瀬くん、かなり嬉しそうでしたよ」
ミレイは海の方を見た。
夏の終わりの空が、少し眩しかった。
「……私も、かなり嬉しかったわ」




