第127話 「ユナ、会長と黒瀬くんを面白がる」
ミレイが海に現れた。
リコと一緒に。
偶然ということになっている。
しかし、アキラは思う。
(偶然が水着とパーカーと完璧なタイミングで現れる確率はかなり低い)
だが、そんなことは重要ではなかった。
ミレイが海にいる。
しかも、いつもと違う格好で。
白いパーカーの下に、淡い青の水着が少し見える。
髪はまとめられていて、首元が涼しげで。
アキラは視線の置き場に困った。
(直視すると処理落ちする。しかし見ないのも失礼。視線制御難易度が高すぎる)
ミレイに「似合っています」とは言えた。
言えたが、その後の処理が追いつかない。
そこへユナが来た。
「会長、せっかくだし一緒に遊びません?」
ミレイは少し驚く。
「私たちも?」
「もちろん。人数多い方が楽しいし」
リコがにやりと笑う。
「いいですね。会長、参加しましょう」
アキラは嫌な予感がした。
ビーチボール再開。
チーム分けをすることになる。
ユナが言う。
「じゃあ、黒瀬くんと会長は別チームね」
ミレイが少し反応する。
アキラも反応する。
ユナはにやにやしていた。
(この人、明らかに面白がっている)
試合が始まる。
アキラはミレイを見ないようにしながら、しかしミレイの動きが気になって仕方ない。
ミレイは運動が得意というより、丁寧に動くタイプだった。
ボールが来ると少し慌てるが、ちゃんと返そうとする。
その姿が可愛い。
(可愛い。今、自然にそう思った。判定保留はもう無理では)
ユナがわざとアキラの方へボールを打つ。
「黒瀬くん、いくよ!」
「来ないでください!」
「試合中に拒否しない!」
アキラは何とか返す。
ボールは変な方向へ飛び、ミレイの方へ向かう。
ミレイが取ろうとする。
足元が砂で少し崩れた。
アキラは反射的に動きかける。
しかし今度はリコが先に支えた。
「会長、砂浜でもプール事件再演しないでください」
ミレイが真っ赤になる。
アキラも真っ赤になる。
ユナが楽しそうに聞く。
「プール事件って何ですか?」
リコが笑う。
「黒瀬くんが会長を後ろから――」
アキラとミレイが同時に叫ぶ。
「言わなくていいです!」
「言わなくていいわ!」
ユナはますます目を輝かせた。
「へえー」
アキラは思った。
(今日の真のボスはユナさんかもしれない)
◆オチ
休憩中、ユナがアキラに小声で言った。
「黒瀬くん、会長来て嬉しい?」
アキラは固まる。
少し前なら、逃げていただろう。
でも、今回は小さく答えた。
「……はい」
ユナは一瞬驚いて、それから笑った。
「お、進歩してる」
アキラは顔を赤くして海を見た。
「進化素材は夏休みイベントです」




