第124話 「会長、海イベント前日に水着を選ぶ」
海へ行く前日。
ミレイは水着を前にして、固まっていた。
水着自体は持っている。
学校のプール用ではなく、家族旅行の時に買ったものだ。
淡い青のワンピースタイプ。
派手すぎず、露出も控えめ。
これなら大丈夫。
そう思う。
けれど、相手が黒瀬くんだと思うと、途端に大丈夫ではなくなる。
(黒瀬くんに見られるかもしれない……)
ミレイは顔を覆った。
そもそも、偶然を装って同じ海に行くという時点で、かなり大胆だ。
それに、水着で会うなんて。
花火大会の浴衣とは別の緊張がある。
浴衣はまだ、可愛く見られたいという気持ちで着られた。
水着は、もっと直接的に恥ずかしい。
リコにメッセージする。
やっぱり水着は少し恥ずかしいわ。
即返信。
海ですから。着ない方が不自然です。
ミレイは反論できない。
黒瀬くん、どう思うかしら。
リコ。
倒れます。
ミレイは赤くなる。
倒れたら困るわ。
リコ。
会長、そこを心配するんですね。
ミレイは水着を見つめる。
黒瀬くんは、たぶん変な言い方をする。
「夏海フィールド装備」
「水属性対応の姿」
「処理落ちします」
そんなことを言うかもしれない。
でも、きっとちゃんと気遣ってくれる。
直視しすぎないようにして、でも褒める時はまっすぐ褒めてくれる。
浴衣の時みたいに。
ミレイは小さく息を吐いた。
(私は、黒瀬くんにどう思われたいのかしら)
答えはもう、わかっている。
可愛いと思ってほしい。
特別だと思ってほしい。
ユナさんや他の女子たちがいても、自分を見てほしい。
そこまで思って、ミレイは布団に倒れ込んだ。
(私、かなり欲張りになっているわ)
けれど、リコに言われた通りだ。
花火大会で少し進んだ。
ここで何もせず不安になるだけでは嫌だった。
翌日の準備をする。
水着。
羽織るパーカー。
タオル。
日焼け止め。
サンダル。
小さなバッグ。
リコからメッセージが来る。
明日、駅で集合。偶然を装う練習しておいてください。
ミレイは首を傾げる。
偶然を装う練習。
そんな練習があるのだろうか。
鏡の前で小さく言ってみる。
「まあ、黒瀬くん。偶然ね」
不自然だった。
もう一度。
「黒瀬くんも来ていたのね」
まだ不自然。
三回目。
「偶然ね、黒瀬くん」
完全に怪しい。
◆オチ
母が部屋の外から言った。
「ミレイ、さっきから偶然の練習してるの?」
ミレイは固まった。
「聞こえていたの?」
母は笑った。
「青春ね」
ミレイは顔を覆った。
(我が家も黒瀬家みたいになってきた気がするわ)




