第122話 「会長、黒瀬くんが海に行くと知る」
夏休み終盤。
ミレイは自室で二学期の生徒会資料を確認していた。
けれど、集中力は少し落ちていた。
理由はわかっている。
花火大会以来、黒瀬くんからのメッセージを待つ時間が増えたからだ。
待っているつもりはない。
でも、スマホが震えるとすぐに見てしまう。
その日も、スマホが鳴った。
黒瀬くんからだった。
ミレイ先輩、今度クラスの数人で海に行くことになりました。トオルに救援要請されました。
ミレイは画面を見つめた。
海。
クラスの数人。
トオルくん。
そして、おそらく女子もいる。
ミレイの胸の中で、何かがざわっと動いた。
(クラスの人たちと海……)
それは普通のことだ。
高校生の夏休みとして、何もおかしくない。
黒瀬くんにも友人がいる。
クラスメイトとの付き合いもある。
自分が何か言うことではない。
わかっている。
わかっているのに、落ち着かない。
特に、女子もいるかもしれないと思うと。
ミレイは何とか普通に返信する。
そうなのね。気をつけて行ってきてね。
送った後、すぐに後悔する。
少し素っ気なかったかもしれない。
でも、
「誰と行くの?」
と聞く勇気もなかった。
その代わり、ミレイはリコにメッセージを送った。
黒瀬くんがクラスの人たちと海に行くそうなの。
返信はすぐ来た。
女子もいますね。
ミレイはスマホを落としそうになった。
まだわからないわ。
リコ。
います。ユナちゃんあたり絶対います。
ミレイは沈黙した。
桜庭ユナ。
明るくて、人懐っこくて、黒瀬くんに遠慮なく話しかけられる女の子。
花火大会で近づけたと思ったのに、胸の中がまたざわざわする。
ミレイは正直に送った。
少し落ち着かないわ。
リコ。
じゃあ行きましょう。
ミレイは固まった。
どこへ?
リコ。
同じ海です。偶然を装って。
ミレイはスマホを見つめる。
そんなことをしていいのだろうか。
完全に不自然ではないか。
それに、同じ日に同じ場所へ行ったら、黒瀬くんにどう思われるか。
リコからさらに来る。
会長、水着持ってますよね?
ミレイは顔が熱くなった。
水着。
まったく考えていなかった。
でも、考えてしまった。
海に行くなら、水着が必要。
黒瀬くんのいる海に、自分も水着で行く。
想像しただけで、ミレイは机に額をつけた。
(無理かもしれないわ)
でも。
行かないで家でそわそわするよりは、行った方がいいのかもしれない。
リコから最後のメッセージ。
会長、花火大会で少し進んだんです。ここで後退しないでください。
ミレイはしばらく考えた。
そして、返信した。
……行くわ。
◆オチ
その後、ミレイはクローゼットの奥から水着の袋を取り出した。
母が部屋を覗く。
「今度は海?」
ミレイはびくっとする。
「リコと行くだけよ」
母はにこにこした。
「そう。リコちゃんと、ね」
ミレイは思った。
(母の『そう』は、どうして毎回すべてを見抜いているのかしら)




