第121話 「夏休み終盤、海イベントの招待状が来る」
夏休みも残り一週間。
アキラはようやく本来の夏休みらしい生活を取り戻しつつあった。
朝は少し遅めに起きる。
涼しい部屋で課題を進める。
録画したアニメを消化する。
推しイベントの通販情報を確認する。
そして、夜にはミレイと少しだけメッセージをする。
花火大会以来、アキラの中で何かが変わっていた。
ミレイに会えない日でも、メッセージが来ると嬉しい。
返信を考える時間も、前ほど怖くない。
いや、怖い時もある。
ただ、その怖さも少し楽しくなっていた。
(これはもう、判定保留では無理があるのでは)
そう思いかけた時、スマホが鳴った。
トオルからだった。
夏休み最後にクラスの何人かで海行かね?
アキラは画面を見て固まった。
海。
夏。
クラス。
女子もいる可能性。
つまり、危険イベントである。
(海イベント……。学園ラブコメにおける最高危険度イベントのひとつ。水着、日焼け、砂浜、距離感の崩壊。これは回避推奨では?)
すぐに返信する。
遠慮する。僕は海洋フィールド適性が低い。
即返信。
頼む。男子が少ないんだ。俺たちを助けると思って来てくれ。
アキラは眉をひそめる。
男子が少ない。
それはどういう状況なのか。
さらにメッセージが来る。
ユナたち女子からも「アキラ君誘って」って言われてる。
アキラはスマホを置いた。
(なぜ僕が指名されている。クラス内イベントで妙なフラグが立っている)
トオルから追撃。
マジで来てくれ。俺ひとりだと女子のテンションに飲まれる。男子の壁になってくれ。
男子の壁。
意味はよくわからないが、トオルが本気で困っているのは伝わってきた。
アキラはしばらく悩む。
海は苦手だ。
人混みも苦手だ。
そもそも水着という単語だけで、脳内がエラーを起こす。
しかし、トオルにはいつも助けられている。
名前呼びの時も、モテ期バグの時も、何だかんだで横にいてくれた。
(友人救援クエストか……)
アキラは返信した。
わかった。行く。だが海では僕を戦力として数えないでくれ。
トオルから即返信。
助かる! お前がいるだけで面白いから戦力。
(戦力評価が不本意すぎる)
その後、アキラは何気なくミレイにメッセージを送った。
ミレイ先輩、今度クラスの数人で海に行くことになりました。トオルに救援要請されました。
送ってから、アキラは少しだけ不安になった。
わざわざ伝える必要があったのか。
いや、花火大会以降、何かあるとミレイに話したくなる。
それは自然なことになっていた。
しばらくして、返信が来た。
そうなのね。気をつけて行ってきてね。
文章は普通だった。
でも、いつもの絵文字のような柔らかさが少しだけ足りない気がした。
アキラは首を傾げる。
(気のせいか?)
◆オチ
夜、姉のマドカに海へ行くことを話すと、彼女はにやりと笑った。
「女子もいる海イベント? 会長には言った?」
「言いました」
「勇者だね」
「え?」
「いや、何でもない。たぶん次のイベント、荒れるよ」
アキラは青ざめた。
「姉さん、未来視スキル持ってるの?」




