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生徒会長はオタク男子を攻略できない  作者: naomikoryo


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120/150

第120話 「会長、花火より先に心が打ち上がる」

花火が始まる前。


黒瀬くんが連れてきてくれた土手は、屋台通りより少し静かだった。


人はいるけれど、混みすぎてはいない。


空が広く見える。


きっと、調べてくれたのだと思った。


黒瀬くんはそういう人だ。


不器用で、変な言い方をして、でも相手のためにちゃんと準備してくれる。


ミレイは浴衣の裾を整えて、隣に座った。


さっきまで手をつないでいた感触が、まだ残っている。


人混み対策。


そう言い訳をした。


でも、本当は少し違う。


黒瀬くんの手を取る勇気が欲しかっただけかもしれない。


沈黙が流れる。


けれど、不思議と心地よかった。


ミレイは、今日言いたかったことを言うことにした。


「黒瀬くん、今日は本当にありがとう」


彼はすぐに答える。


「こちらこそ。来てくれてありがとうございます」


「誘ってくれて、嬉しかったの」


言ってしまった。


黒瀬くんが固まる。


でも、ミレイは続けた。


「夏休みになって、毎日会えなくなって……少し寂しいと思っていたから」


こんなことを言うつもりではなかった。


でも、今日の空気なら言える気がした。


花火が始まる前の、少しだけ特別な時間。


黒瀬くんはしばらく黙っていた。


それから、真剣な声で言った。


「僕も、寂しかったです」


ミレイの胸が鳴る。


黒瀬くんも、同じように思ってくれていた。


「夏休み、楽しみだったはずなのに。生徒会室に行けない日が続くと、思ったより落ち着かなくて」


その言葉が嬉しかった。


黒瀬くんにとって、自分と会う時間が、いつの間にか大事なものになっていた。


「ミレイ先輩に会えない日があると……ログインボーナスを取り逃したみたいで」


ミレイは思わず笑ってしまいそうになった。


でも、笑うというより、胸が温かくなった。


黒瀬くんらしい。


本当に、黒瀬くんらしい。


「ちゃんと伝わったわ」


そう言うと、黒瀬くんは少し安心したような顔をした。


そして、花火開始のアナウンスが流れる。


黒瀬くんが小さく言った。


「今日、一緒に来られて、すごく嬉しいです」


いつもの例えではなく、まっすぐな言葉だった。


ミレイは胸がいっぱいになる。


「私も。黒瀬くんと来られて、嬉しい」


その瞬間、最初の花火が上がった。


大きな光が夜空に咲く。


音が遅れて胸に響く。


花火は綺麗だった。


けれど、ミレイは隣の黒瀬くんの表情も見ていた。


真剣で、少し照れていて、でも嬉しそうで。


その横顔を見て、思う。


(私は、やっぱり黒瀬くんが好きなのかもしれない)


今度は、否定しなかった。


花火を見ながら、ミレイは言う。


「綺麗ね」


黒瀬くんが答える。


「はい。ミレイ先輩が」


時間が止まった。


黒瀬くんはすぐに慌てる。


「……花火が、です」


ミレイは顔が熱くなる。


でも、なぜか嬉しかった。


訂正しないでほしいと思ってしまった。


だから、小さく言った。


「今のは、訂正しなくてもよかったのに」


黒瀬くんは完全に機能停止した。


花火の音だけが、二人の沈黙を包んでいた。



◆オチ


帰り道。


リコからメッセージが来た。


花火大会どうですか?


ミレイは少し悩んで返信した。


綺麗だったわ。花火も。


すぐにリコから返ってきた。


“も”?


ミレイはスマホを閉じた。


隣で黒瀬くんが不思議そうに言う。


「ミレイ先輩?」


ミレイは微笑んだ。


「何でもないわ」


心の中では、花火がまだ上がっていた。

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